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世界の観測者

前書きと後書きは完全なメタ空間である事を保証します。

 大都会の真っ只中に立つ巨大ビル。その最上階に、社長室は存在する。そこからは世界中を見渡せると言っても、過言ではない。


 もうすぐ日が暮れようとしている。社長室に居る四十代の男性、アカシックレコード社の社長は帰宅の準備を始めていた。


「……見ているな。また君か。今度は何が起きるというのかね?」


 おっとっと。流石世界を観測する企業のトップだ。第四の壁を軽々と突破してくる。


「いや、君と私は同じ次元に存在している筈だろ? どうせ面白そうな事が起きそうだから、いつも通り安全圏から観察している、と言った所だろう。場所は……そうだな、レムリア大陸、バベルの塔、そこにある君の別荘だな? 今まさにオレンジジュースを飲もうとしていただろう?」


 うぐっ。これだからこの社長は……! 寒気がしてくる……!


 ずずーっ、こほん。


 社長はため息を吐くと、荷物をまとめた鞄を持ち上げた。久々に早く帰れるのだ。無視できるものは無視して、家で娘達に会いたいに違いない。


「まだその小説ごっこを続けるか……まあいい。君の様な小娘ではなく、私の娘達を構ってあげたいの事実だ。さっさと帰らせてもらう」


 ちょっと! 小娘とは失礼じゃない!? 私はあんたよりずっとずっと長生きなんだから!


 あ、ちょっと待ってちょっと待って。今のなし。この文に中の人なんていないわ。


 ……社長が扉に手をかけた、その時だった。社長室の一角にある、多くのディスプレイの内の一つが起動した。そこには一人の社員らしき男が映っている。


「しゃ、社長! まだ居ますか!? こちらΩクラス部門です! その、緊急事態が発生しまして」


 鬼気迫る男の声にも動揺せず、社長は静かに踵を返した。落ち着いた様子でディスプレイへ歩み寄り、こう告げた。


「私ならここにいる。直接私へ連絡するとは、それすなわち、世界レベルの事態が起こっていると言う事だな? それこそ、世界が終焉を迎える様な事態がな」

「は、はい! その通りで、えっと、超自然魔法の発生を確認しまして……今、資料を送ります!!」


 対して社員の男は酷く狼狽していた。まるで、世界の滅亡を目にした様に。いや、実際その通りなのだろう。だからこそ縋り付いた。世界を物理的に動かす程の強大な力を秘めたこの男、アカシックレコード社の現社長に。


 間も無く男が映っているものの隣のディスプレイに資料が表示された。それを見た社長は、ぽつりと呟く。


「…………」


 呟いて!


(君の言う通りにするのは癪なのでな。だが、今回は特別だ)


 わー、なんか頭の中に直接響いてきたぁ。


「……なるほど、“試練”の自然発生、それもΩクラス、か」


 ……おっと、描写しないと。


 社長は顔に険しさを浮かべた。目を瞑り、数秒考え……そして決心する。


「理解した。これは、私が出向くべきだ。君、今から試練発生地域で魔力抽出の準備をするよう、各所に伝えてくれ。私が試練に挑む」

「はい、りょ、了解です! それでは!」


 ディスプレイから男の姿が消え、起動しているのは資料を表示するものだけになった。


「……やはり、面倒な事になったな。場合によっては君にも来てもらう」


 その場には社長以外は存在しない。社長の言う君とは、誰の事だろう?


(君だ)


 い、いや、私はただの地の文ですし? 物語の登場人物じゃ、ないですし?


「小説ごっこはもう終えるべき時だ。君がどう言おうと真実は変わらない。平和な時間は既に終わり、君も現実と向き合うべき時なんだ」


 なにその聞いた事あるような、ないような言い回し。


「……はぁ、君も実力を持っているのなら、素直に協力して欲しい所なんだがな。状況が悪化すれば、テレポートを使ってでも君を連れ出してやろう」


 そう言い残し、社長はその場から一瞬で消えた。これがテレポートだ。試練へ挑みに行ったのだろう。


 ……私は軽い気持ちで覗き見したのを後悔した。


三人称気取りの一人称でした。

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