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インシデント:EX

許可無く機密ファイルを閲覧する行為は処分の対象となります。

 

 このファイルの閲覧にはγクラス以上の権限が必要です。


 ――――認識しました。


 パスワードを入力してください。


『*************』


 ――――ログインに成功しました。


 エゴスキャン開始。


 知恵・・・・・・クリア。

 勇気・・・・・・クリア。

 節制・・・・・・クリア。

 正義・・・・・・クリア。


 記憶を解析しています・・・・・・異常なし。


 精神汚染度・・・・・・許容範囲です。


 ファイルの閲覧を許可します。



『インシデント:EX』

 発生日:1988/10/11

 犠牲者:17名


 インシデント:EXとは、ヒューワロに人素を過剰投与した末に起きた脱走事故および、それに伴う魔物の異常変異現象です。被害総額は数億EC以上。このインシデントはアカシックレコード社の歴史上でも最悪な部類に当たります。外部メディアには表面上の情報のみを与え、特定の情報は伏せてください。


 事の始まりは、世界終焉シナリオ「レーテーの氾濫」の影響による、ヒューワロに関する記録の欠損です。世界終焉シナリオは無事鎮圧されましたが、その後の記録の復旧には難航しました。この記録復旧の一環として、ヒューワロに対して人素投与実験が行われました。


 ヒューワロは大型の両生類です。体長は小さな個体は2.5メートル程、大きな個体だと10メートルを超えます。体表は粘液で覆われており、この粘液には高濃度の人素が含まれています。


 人素とは地球上の二足歩行型知的生命体、つまりヒトの体の中に含まれている魔法元素です。人素を意思あるモノに一定量投与すると、ヒトに変異します。


 ヒューワロは人素のヒト化作用に耐性を持っています。少なくともヒト数人分の人素では変異しません。その理由として、ヒューワロという種の魂の希薄性等があげられます。


 人素は魂に理性を与え、魂を膨張させます。理性が本能を上回った時、モンスターはヒトへ転じるのです。しかし、器が魂の膨張に耐えられなかった場合、器と共に魂は壊れてしまいます。ヒューワロは他の魂が希薄な種とは違い、魂の膨張に耐えられる器を持っているとされていました。記憶が消えてしまっていた為に、ヒューワロもヒトに成れると誰もが信じてしまっていました。



 以下は鎮圧後に行われたインタビューの記録です。


(諸事情により本名は伏せられています)


統制者β:これからインタビューを始めるよ。気分はどうだね? 今回の実験はあまり楽しくなかったようだが?


職員D:最悪に決まってます!! 一体、何人の仲間が死んだと……!


統制者β:まあ落ち着いて。鎮静剤でも打とうか?


職員D:……いえ、結構です。


(数十秒の沈黙)


職員D:あの怪物の事を、話せばいいのですね。


統制者β:そうそうそうそう。僕達が“エクスヒューワロ”と名付けたあのアメージングでクレイジーな! ……実験の末に生まれたモンスターの事をね。


職員D:はぁ……初めは、いつもの人素投与実験と変わらなかったんです。特に今回は、カチカチなキツネとか飲食呼吸厳禁のビンとかじゃなくて、ブタやウシみたいな家畜でしたから、余計に油断していました。


統制者β:人素投与実験といえば実験対象が衰弱しないよう気をつければ良いだけの楽しい実験だっからね。そりゃそりゃ油断するのも仕方ない。


職員D:正直、期待もしてました。私達のチームはいわゆるオタクが多かったですから、恐らくそのミーム的な影響で、ヒトになったモンスターは揃いも揃って美男美女でした。ヒューワロもどんな風に擬人化するのかと想像を巡らせましたが、今となっては本当に馬鹿馬鹿しいです。

 それで、本題ですが……ヒューワロに異変が起こったのは、人素投与開始から四日目の事です。朝の人素投与後に、それまで変化の無かったヒューワロが急激に変異し始めたのです。それは悍ましい光景でした。手足が伸び、尻尾が縮み、しかしヒトには成っておらず、それはヒト型モンスターと形容する他ありませんでした。

 変異が収まった後それは……エクスヒューワロは甲高い叫びを上げました。飢えに苦しむ様な、獣の叫びです。それを聞いた私はクラっとして、軽い貧血の様なものを感じました。周りを見回すと他のヒトも同じ症状が出ている様でしたが、一人だけ酷く苦しんでいました。元モンスターの同僚です。


統制者β:なるほどそのヒトが最初の犠牲者で最悪の事態へと繋がったトリガーだね?


職員D:いえ、彼女は直ぐに医務室へ行ったので無事です。割とピンピンしています。

 ……そして、嫌な予感がした私は直ぐにヒューワロ用の催眠装置を起動しました。しかし、あの怪物には催眠波が全く効きませんでした。この異常事態を報告するべく、通信機を手に取ったのですが……その瞬間に檻が破壊されました。


統制者β:壊された? 一体どうやって? あなたの所属している部門ならそこそこ頑丈な檻を使っているハズだが?


職員D:単純な、怪力ですよ。あの細い腕で金属を折りやがったんです! 私は急いで通信機で上司に緊急事態を知らせました。それから、ヒューワロだったモノの処分許可が出たので、迷わずその半分両生類の歪な頭を撃ち抜きました。でも、効かなかったんです。物理弾も、精神弾も。


統制者β:闇命属性故の再生能力だろうか? 精神の方は何でだろうね? 実験が必要だするべきだ。続けてどうぞどうぞ。


職員D:……手に負えないので、私達は逃げ出しました。下層の部隊に応援を要請し、警報の響く中必死に足を動かしました。走って、走って、走って、背後から男性の叫び声を聞いて、足が止まりました。

 ……後ろを向くと、ヒトが食べられていました。運悪く、出くわしてしまったのでしょう。本来は無いはずの歯が、命を貪っていました。私はその時、何故だか恐怖ではなく怒りを感じていました。食べられていたヒトは別にそこまで親しかった訳ではないのですが、あの怪物を殺さないといけないと、思ったのです。


統制者β:やっぱりヒトを食うか。人素には中毒性があるからね。それからそれから?


職員D:もう私にはどうしようも無かったので、再び足を動かしました。ただし、それまでとは別の目的地へ、奥にある特別実験室に向かって。そこにある物なら、あの怪物をどうにかできると、思いまして。


統制者β:正直γ(ガンマ)Ω(オメガ)の連中が来れば大体どうにかなると思うんだけどあなたが無理する必要あったかな。いや結果的にはそれで良かったけどさ。続きどぞ。


職員D:……怪物を振り切って、私は無事、特別実験室に辿り着きました。そこで、私は奇妙なモノを見ました。

 恐らく、実験用に収容されていた魔物だったと思うのですが……それらの体の一部が、まるでヒトの体を継ぎ接ぎした様になっていたのです。中には顔が半分ヒトになっている個体もいました。それらは酷く興奮していて、上司に報告してから、私が処分しました。


統制者β:実際別の所でそんな感じのに襲われた奴もいるみたいだしファインプレーだね。倫理はこの際置いておこう。


職員D:その後しばらく実験室を調べていると、誰かが部屋に入って来ました。ヒューワロの担当をしていたヒトとは別の、元モンスターの職員でした。彼は私を見つけると、突然襲いかかってきました。止むを得ず精神弾で鎮圧して、彼を観察してみると元モンスターの魔族特有の人素欠乏の症状が出ていました。応急処置として実験室にあった人素剤を彼に投与しました。

 彼が気を失っているのを確認して、私は再び特別実験室を調べ始めました。そして、遂に見つけたのです。怪物に対抗できそうな物を。


統制者β:おーそれは?


職員D:虚無弾です。地球とは別の惑星で作り出された、魔を消し去る弾丸。三発しかありませんでしたが、それで十分でした。

 丁度あの甲高い叫びが聞こえました。銃に虚無弾を込め、私は廊下へ飛び出し、あの怪物の姿が見えたので、撃ちました。


統制者β:それから僕を含めた鎮圧部隊が到着して弱体化したエクスヒューワロを無事鎮圧したわけだねそうだろ?


職員D:はい、その通りです。


統制者β:じゃああなた昇格ね。


職員D:え、いや、どうして?


統制者β:それではインタビューを終了終了。


職員D:あ、ちょっと!?


(インタビュー記録終了)



 調査の結果、ヒューワロに人素を過剰投与するとエクスヒューワロへと変異し、ヒトから人素を吸収しモンスターへ分配する能力を得る事が判明しました。この能力は遮蔽物を貫通し、効果範囲内にいるものへ無差別に発動します。効果範囲はエクスヒューワロ自身の魔力量で決まります。

 この能力に晒された魔物は体の一部だけがヒトへ変異し、凶暴化します。この状態になった魔物は適切な処置をしない場合、数日で死に至ります。

 魔族がこの能力に晒された場合、人素欠乏症に陥り、症状が進むとモンスターへ転じてしまいます。再び人素を投与すればヒトに戻れますが、記憶障害に悩まされる事になります。



 ――これ以上の閲覧にはΩクラスの権限が必要です。


もし不意に自分の権限以上の情報を取得してしまった場合、早急に記憶処置を行なってください。

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