バベルの塔
世界のお話その2でございます。
インド洋に浮かぶ、レムリア大陸。その中心部には、巨大な塔がそびえる。
ヒトはそれを、バベルの塔と呼ぶ。
バベルの塔の内部は一つの国と言ってもいい。国民は白い髪に白い肌、そして色とりどりな瞳を持つバベル人。彼らは塔の下層部に住居を構え、独特の文化を育んでいた。
バベル人は己の欲望に忠実だ。例えば、黄色い瞳のバベル人は金に執着し、商人になることが多い。緑眼のバベル人は自然好きで、ほとんどが農業に従事する。青い眼を持つバベル人は美しいものをこよなく愛し、芸術に没頭しやすい。
そして、赤眼のバベル人は戦闘狂だ。
それぞれが己のやりたい事をやり、助けあって生きるのがバベルの社会。これだけ聞くと理想的で平和な……戦闘狂がいる時点で平和とは言いづらいかもしれないが、とにかくユートピアの様に聞こえるだろう。ただ、それは下層での話である。
バベルの塔の中層部以上には、危険な機械獣達が跋扈している。稲妻の猟犬“マプラズクッド”、灼熱の大蛇“アレフネスク”、ドラゴンアンドエスパーゴリラ“リンドゴラゴ”……それらは全て動物を模しており、バベル人と同じく白い体を持っていた。これらのロボットがいつ、何者によって、どうして作られたのかは、一部の者だけが知っている。世に公表されないのは、そうするべきではないからだ。
そうした脅威に対抗すべく、下層と中層との中間地点には常に赤眼のバベル人達が待機している……ハズなのだが、彼らはバーサーカー。中間地点に数人だけ残し、残りは全て塔の上へと突撃してしまっている。それで上層部の手前までの機械獣を何度か殲滅しているのだから、恐ろしい限りだ。いつの間にか復活する機械獣達も負けてはいないが。
バベル人が下層部を死守しているのは、自分達の生活を守る為というのも理由の一つなのだが、ある巨大魔法陣を運用し続けなければならない事が一番大きな理由だ。
その魔法陣で発動している魔術の名は『バベル語』。これは、簡単に言えば誰にでも伝わる言語のミームを世界中の人々に感染させる魔術である。正確に言えば、それは言語と言うより認識改変魔法だが。
バベル語によって人類は、従来の言語を残しつつも言葉の壁を取り払う事に成功した。バベル語は一種のテレパシーの様なものだ。例えば、バベル語の魔法を受けた音声は元がどの言語だろうと、その言葉を受けた者にとっては自分の母国語に聞こえる。文字などでも同じだ。つまり、バベル語化した言葉は誰かに伝わる際、自動的に翻訳されるのだ。
バベル語自体は地球上でそれを見聞きしただけで習得できてしまう。一切の勉強無しにだ。この現象を、地球上ではたった数個の巨大魔法陣で実現している。バベルの塔のものは最初に生成された世界遺産であり、今でもなお改良が続けられている最先端技術の結晶でもある。
もし、この魔法陣が破壊されてしまえば膨大な額の被害が発生するだろう。とは言っても、破壊される可能性はゼロに近い。何故なら、魔法陣自体に自己防衛機能が付いているからである。むしろ、自己防衛機能が本体と言ってもいい。魔法陣に組み込まれているプログラムの七割は自己防衛機能だ。
自己防衛機能の詳細は以下の通りである。
・魔法陣が刻まれている金属板の強化。
・金属板の表面に魔力の膜を生成し、保護する。
・魔法陣が攻撃された場合、大音量の警報を鳴らす。
・魔法陣に迫る魔法攻撃を反射する。
・世界最高峰のセキュリティプログラム。
・赤眼のバベル人を召喚。
・魔法陣に危害を加えようとする者を検知し、その者を洗脳する。
・魔法陣周辺に深刻な被害が生じた時、魔法陣を安全な場所へ転送する。
・この魔法陣に危害を加えたモノを炎上させる。
・この魔法陣に危害を加えたモノを感電させる。
・この魔法陣に危害を加えたモノを窒息させる。
・この魔法陣に危害を加えたモノを凍結させる。
・この魔法陣に危害を加えたモノを融解させる。
・この魔法陣に危害を加えたモノを爆発させる。
まだ他にもあるのだが、この時点でも過剰防衛である。研究者達は一体何を目指しているのだろうか? ある魔科学雑誌によると、一ヶ月の内に本来の機能であるはずのバベル語のアップデートに費やされるのは一日未満であり、残りは自己防衛機能の研究に使われているらしい。ここまでくると逆に平和かもしれない。
因みに、バベル語研究チームの中には赤い目のヒトが多いらしい。
バベルの塔。それはバベル語発祥の地であり、現代では観光地としても有名なスポットでもある。特徴的な人々、塔にまつわるオカルト、魔科学技術の最前線、どれを取っても魅力的である。人生で一度は訪れてみたいと言うヒトは多い。ただ、気をつけておくべき事が一つある。
実力のあるヤツは赤眼のバベル人に注意しろ。
赤眼のバベル人は悪い人達じゃないんです。多分、きっと、恐らく……。




