力が欲しいか?
――ただ、強くなりたいだけだった。
ガントレットに魔力を流し、爆弾を生成して、投げる。
ずっとずっとその繰り返しだ。爆発の許可が取れたから楽な仕事になると思ってたんだが、ぜんぜん楽じゃねえ。むしろキツイ。
爆破しても爆破しても、どんどん駆除対象が湧いてきやがる。鬱陶しいムシ達だ。魔力はとっくに尽きているが、無理して、絞り出している。でないと俺が、やられる。
せめて、仲間が来るまで、持ち堪え……ねぇと。
「はぁ、はぁ……まだ来んのか」
息が、荒い。鼓動も早い、ってもんじゃねぇ。破裂……しそう、だ。それでも、爆弾を、捻り出して……投げる……!
視界が、霞んできた。へへ、こりゃ……本気でマズイ。意識が……遠退いて、行きやがる。もっと……
持ち堪えろ、よ……俺……! まだ……終わっちゃあ……ダ、メ……だ……ろ…………。
…………。
『力が欲しいか?』
チカラ……?
『私になら、貴方に力を与える事が可能だ。虫けら程度に敗北して、悔しくはないか?』
……ああ、悔しいさ。俺にもっと力があれば、地面を舐めたりは絶対にしねぇ。もっと根性があれば……もっと火力があれば……もっと、魔力があれば! 今頃アイツら全員粉微塵だ。
『今一度問おう。力が欲しいか?』
誰だか知らねぇが、くれるってなら今すぐ寄越せ! こんな所で眠っている場合じゃないんだッ!!
『……フゥハハハハ。良かろう。ならばくれてやる。さあ、今こそ目覚めるが良い!!』
光が見える。俺は、その光に向かって手を伸ばし、そして――
「あ、起きた」
姉ちゃんの声を聞いた。
「いや〜良かった良かった。半日も眠ってたからお姉ちゃん心配してたんだよぉ」
「……思ってた目覚めと違う」
起き上がって周りを見渡せば、そこは病室だった。清潔なベッドの上に俺はいて、姉ちゃんはベッドの傍にあるイスに座っている。姉ちゃんの左側の机の上には色とりどりの果物が、右側にはペストマスクが佇んで……ペストマスク!?
「……目覚めたか。ならば、約束通り力を授けよう……!」
「えっと、あー……どうも」
「まあその前に、状況を整理しようではないか」
かなり動揺したが、冷静になってみるとこのペストマスクは知っているヒトだった。姉ちゃんの友達だ。恋人ではない。
話を聞けば、俺は倒れた後仲間に救助されたらしい。で、ここは会社の医務室だと。
「治療が終わってもなかなか目を覚まさないから、お姉ちゃん心配になっちゃって。そこで! 助っ人として呼んだのが……!」
「この私だッ!」
コイツらテンション高けぇなおい。
「……天才の私にかかれば、意識を呼び覚ます事なぞ造作もない。ただ、その為に勝手ながら君の精神世界へ踏み込んだ事は謝っておこう」
「うん、まあ、それは……別に構わねえが……」
一つ言いたい事があるが、喉でつっかえる。どうせこのヒトは善意十割の天然天才だ。何をどう突っ込んでも、天才だからとしか返ってこない。だから、心の中で叫ばせてもらおう。
……精神世界に踏み込むってなんだよ!? 精霊か何かか!?
「ふむ、許して貰えて何よりだ」
「……それで、力ってのは?」
「ああ、これだ」
正直力とかどうでもよくなっているが、一応確認してみた。
ペストマスクが指パッチンをすると、何も無い所から籠が出現する。鳴らした方とは逆の手の上に乗ったそれの中には、二つのフルーツが入っていた。
一つは赤色で、丸い形をしている。どこか可愛らしさを感じさせる、甘くて潤った馴染みの果実。
もう一つは黄色だ。細長い実が五つ集まり、一つの塊となっている。栄養面で優れた、力強さを感じさせる果物。
「リンゴと、バナナ?」
「いや、リングォとヴァーナナだ」
「……リンゴとバナナだよな?」
「リングォとヴァーナナだ」
なんかおかしい。
「姉ちゃん、この赤いのと黄色いのはなんだ?」
「えーと、ドーピングフルーツ、だったっけ?」
「予想外の答えが出た」
とりあえず、ただのリンゴとバナナでは無い事はわかった。ペストマスクに更なる説明を求む。
「これは食べるだけで各能力を向上させる、魔法のフルーツだ。リングォは体力を、ヴァーナナは魔力をそれぞれ強化するとされている」
「されている?」
「統計上はその様な結果が出ているが、何故そうなるのかという科学的な証明を未だ成し得ていないのだ。ただ、実際に効果があるのは確かなのだから気にせず食べると良い」
更なる説明によっておかしさが明瞭になった。なにその怪しいチートアイテム。どこ産だよ。
「お姉ちゃんもバナ……ヴァーナナを一本もらったけど、普通に美味しかったよー」
姉ちゃんに変わった様子は無い。食べて直ぐ異常が起きるということはなさそうだ。
「……魔力の枯渇で倒れたと聞いたからな。体力と魔力のつく物をと思って、これらを用意させてもらった」
「まあ、そういう事ならありがたくもらうとするか。先にバナナから……」
「いや、バナナではなくヴァーナナだ。似ているようで、遺伝子などは全く違う」
今ので、ようやく理解した。この赤いのと黄色いの、俺の知ってるやつの亜種とかじゃなくて、完全に別物だ。名前の紛らわしさに悪意しか感じられない。
「バナナじゃなくて、バーナナ?」
「惜しいな。ヴァーナナだ」
「……ぶ、ブアーナナ?」
「頭文字はBではなくVだ。Rpeat after me。ヴァーナナ!」
「えっ、ぶ、ゔぁーなな!」
「ヴァーナナ!」
「ヴァーナナ!!」
「よし、言えたな」
何やってんだろ、俺。そう思いつつも、黄色い実を手に取った。皮を剥くと白い肉があらわになり、どう見てもバナナだった。徐に噛り付いてみる。
口の中にどこか懐かしい、甘酸っぱい味が広がる。中身はちゃんと別物らしい。何故か新鮮味が全然無いが、結構美味いな。そして奥歯で擦り潰すと伝わってくる、シャリシャリとした食感。
……リンゴだこれ。
シリアスと見せかけて緩い日常をお送りします。




