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無茶振り

今回は記念すべき2の4乗回です。そこで、今回は結構長い特別編をお送りします。


活動報告にも書いていますが、今回は仲間内でお題を募集し、集まった全ての内容を一つの話にまとめました。以下がそのお題です。


・股擦れ

・超巨大無敵ロボット

・図鑑

・虚空に消えたあの言葉

・追伸総美部

・ねこ

・浅漬け

・にんじんしりしり

・いぬ

・火災報知器


そしてセルフお題で「異世界調査」。どんな支離滅裂な内容になるのか、先の展開を予想するのも楽しいかもしれません。


前置きが長くなりました。それでは、お楽しみ下さい。

 今日は早起きをしてしまった。


 別に昨日早く寝たとか、良い事があってグッスリ眠れたとか、そういう訳じゃないが、何時もより一時間くらい早く起きてしまったのだ。


 マンションの窓から光が見える。黎明が訪れていた。その優しさと美しさを帯びた光を一度浴びてしまえば、二度寝する気にはなれない。とりあえず、いつも通りに行動する事にした。


 まずは洗面所で歯を磨いて、顔を洗って、そして着替える。それから台所に行って、適当に朝食を作った。


 今朝のメニューはご飯とお味噌汁にシャケという伝統的な日本食だ。あと、冷蔵庫にニンジンの“浅漬け”が有ったのでそれも添えている。この浅漬けは料理上手な先輩に教えてもらった秘伝のレシピを元に作ったのだが、正直失敗作だ。食べられない事はないが、先輩が作った物には到底及ばない。今度先輩に見本を見せてもらおう。できればの話だが。


「いただきます」


 何時もよりかなり早い朝食。私は普段テレビを見ながら食べるのだが、やはり時間帯が違うとやってる番組も違う。適当にチャンネルを変えていると、面白そうなドラマを見つけた。


 ドラマのタイトルは“追伸美術部”。あらすじは、高校の美術部に所属する生徒達が青春を通して様々な事を学び、自分の作品の足りない部分を自覚していくというものだ。色々ハプニングが起こりながら話が進み、最後は主人公が海外で活躍している父親への手紙に追伸を書くことで締めくくられた。なかなか面白い内容で、食事が終わった後もそのまま片付けずに最後まで見てしまった。次の回から録画しておこう。続きを見られるのなら見ておきたい。


 食器を片付けて時計を確認するが、まだ出勤にはだいぶ早い。トイレへ行ったり、仕事へ行く準備をしたり、もう一度歯を磨いたりしてみたが、それでも時間が余った。ふと、“股擦れ”でズボンが破れてしまった事を思い出し、余った時間で直す事にした。


 チクチクと布に針を通しながら、考える。今やっている仕事を続けるべきか。正直、仕事は楽しい。人間関係も上手くいっている。給料だって最高だ。


 でも、仕事中にヘマをすれば……。


「あー、つい余計な事考えちゃうな〜。もっとポジティブにいこう。今日は仕事があるんだし」


 そもそもなんで股擦れで破れちゃったんだろう。もしかして太ったか? いや、それは無い。仕事で散々歩いているのだから、寧ろ筋肉が付いている筈だ。……それもそれでなんかやだな。


 とかなんとか考えていたら縫い終わってしまった。まだちょっと時間が余っている。これ以上やる事も無いし、今日は早めに出かけよう。



 歩いたりテレポートしたりして、自分の職場に到着した。普通に毎日使ってるけど、よく考えたらテレポートって凄いよね。だって魔法を応用してるとは言え、時空に干渉してるんだよ? はっきり言って神のワザだ。


 まあ、私たちはそれ以上の事をしているのだが。


 私の仕事は“異世界調査”だ。異世界と言っても小説やアニメ、ゲームによくあるファンタジーな世界ばかりではない。そういった世界が無いわけではないが、殆どの世界が、何というか、えげつない。


 調査する時は先ずロボットを送り込むのだが、送った瞬間壊れたり、公表しちゃいけないデータを拾ってきたりとか日常茶飯事だ。偶にあっちから変なのが来る事もあるし。


 それでも懲りずに私が務めているアカシックレコード社は異世界調査を続けている。目的とか下っ端の私には見当もつかないが、アカシックレコードと言うくらいなのだから案外情報収集そのものが目的なのかもしれない。


「おはよー、後輩ちゃん。今日は早いわね」

「おはようございます、先輩!」


 そうこう考えていたら、先輩が笑顔でやってきた。仕事が始まるまで時間があるし、先輩に浅漬けの事を聞く事にした。


「――と言う感じで作ってみたものの、上手くいかないんですよー」

「うーん、やっぱり直接やり方を教えた方が良いわね。今夜、お家に遊びに行っても良いかしら?」

「もちろんウェルカムです!」


 先輩にはプライベートでもよく世話になっている。私の家に来てもらう事も多いので、部屋はいつもピカピカにしてある。


「決まりね。あ、そうだ。後輩ちゃんってニンジンが好きよね?」

「ええ、そうですけど……?」

「沖縄料理にね、“にんじんしりしり”って言うのがあるの。ついでにそれも教えてあげるわ」

「おお、どんな料理ですか?」

「んー、それは後のお楽しみね」

「そんなぁ」


 にんじんしりしりの正体を知る為にも、今日の仕事を頑張らねば。明日は休みだし、仕事が終わったらいつもの様に先輩とUVGワインで乾杯しよう。


 その後も少しお喋りをして、時間が来た。私は深く息を吸って、気持ちを切り替える。


「行きましょう、先輩」

「ええ」


 無言で廊下を歩く。この廊下はなんだか無機質で、冷たくて、歩いていると自分の心が機械になっている様な錯覚を覚える。でも、それでいい。ここから先は機械の様に正確な仕事が求められる。心と引き換えにそれが実現できるなら安いものだ。


 我が社にはこんな話が残っている。ある調査隊のメンバーが異世界で“いぬ”を発見した。本部は麻酔銃を撃ってからいぬを回収するよう命令したが、その調査員は命令を無視して元気ないぬを抱っこしようとしたのだ。するとどうだ。通信機から悲鳴が上がった。それはイヌじゃなかった。常軌を逸した、何かだ。


 この話の二の舞にはなりたくない。だったら全て命令通りに動けばいい。


 廊下の終着点には、直径1メートル程の円盤ある。床に設置されたそれは、地下実験場へのテレポート装置だ。地下実験場に続く階段やエレベーター等は存在せず、更に実験場を囲む様に最強格の魔術結界が張られている為、このテレポート装置が唯一の移動手段となっている。ここまで厳重に隔離されていると、地下実験場自体が一つの異世界と言えるだろう。こうなっている理由は誰も知らないが、誰もが察している。


 先輩が先に装置を使い、私も後に続く。装置の使い方は簡単。円盤の上に乗って、テレポートしたいと念じればいい。後は機械が私の体から魂に刻まれた個人データを読み取り、問題が無ければ目的地へ転送される。テレポート自体は一瞬で、体がフワッとする様なテレポート独特の感覚を感じた頃にはもう着いている。


 私達が転送されたのは、地下実験場の最上部に位置する職員準備室だ。廊下に出て行く前に、必ずここで準備しなければならない。いつ、何が起きるかわからないからだ。『備えあれば憂いなし』とは良く言ったものだ。


 壁際にある自分のロッカーから必要な道具が入ったバッグと専用のスーツを取り出し、直ぐ隣の更衣室で着替える。バッグを背負い、バッグに仕舞ってあった銃を腰のホルスターに閉まったら準備完了だ。こうしている間も、先輩との会話は全く無かった。そして無言のまま、私達は準備室を出た。


 地下実験場は五つの部門に別れている。今私達がいるのはO(オリジン)クラス部門と言い、実験場内で一番安全な所である。私達が目指すのはここの遥か下。最下層、Ω(オメガ)クラス部門だ。


 最下層に行くのは結構面倒くさい。地下実験場内を行き来するエレベーターはあるのだが、安全性とかの為に最上層から最下層まで直通するものが無いのだ。テレポート装置も同様の理由で、準備室以外では物品専用のやつしかない。


 つまり、一層降りる度にエレベーターを乗り換えないといけない。どう考えても効率が悪いが、上層部はあえてそう設計したのだろう。この実験場は下層に行く程、死と狂気の匂いが濃くなる。そういう事だ。


 順調に移動して第三層、β(ベータ)クラス部門に到着する。早足で廊下を歩いき、曲がり角を通ろうとしたその時だった。突然、“火災報知器”の音が鳴り響いた。でも、この辺りには燃える物なんて無いはずだ。


「……何か脱走したのかしら」


 ここに来て、先輩が口を割った。普段は最下層に着くまではよっぽどの事がない限りずっと無言だ。すなわち、よっぽどの事が起きている。


「脱走インシデント、ですか?」

「多分ね。後輩ちゃん、気を付けなさい。この先にいる気配がするわ」

「この先って、エレベーターの前じゃないですか!?」

「そうね……場合によっては私達で鎮圧しないといけないわ。そうしないと先には進めない。……偵察、頼めるかしら」

「……わかりました」


 どうやら、どこかの実験室から実験用の魔物が脱走したらしい。しかも、火災報知器以外のアラートが鳴っていないという事は、まだ脱走が明るみになっていないという事だ。早急に対処しなければなるまい。


 私達は共にバックから携帯端末を取り出す。先輩はβ部門の責任者に連絡を、私は魔物の正体を明らかにする為に。


 社内専用の携帯端末には魔物“図鑑”のアプリが入っている。アカシックレコード社が長年記録し続けてきたありとあらゆる魔物の膨大な情報が詰まった、世界一の図鑑だ。このアプリにはカメラに映った魔物を図鑑内から検索する機能がある。正確には映像だけで検索している訳ではない様だが、この際どうでもいい。つまるところ、脱走犯を盗撮すればいいのだ。


 オフの時に先輩のあられもない姿をこっそり撮り、その写真を先輩自身に見せつけてからかうという遊びをよくするので、こういうのは得意だ。


 壁に張り付き、角から先を盗み見る。片手に端末を持ち、もう片手をホルスターに添えながら、慎重に。


 そこには、何かがいた。あれは……“ねこ”か? 少なくともここにいる時点で普通のネコではない。そして何より、黒い身体の節々から吹き出す炎と二本に別れた尻尾がその特異性を物語っている。


 一番異常なのはそれが燃える何かの前で、火災報知器がうるさく鳴っているにも関わらず平然と眠っているという事だ。


 不気味だが、眠っているのは非常に都合が良い。容易にカメラに収められる。


 数秒間撮影して、検索結果が出た。目の前のヤツと図鑑の画像が一緒である事を確認し、先輩の元へ戻る。


「先輩、戻ってきましたよ。脱走していたのは『ヒグルマタ』です。直ぐそこで眠っていました」


 先輩に自分の端末を見せる。責任者と会話中だった先輩はそれを見て頷き、追加の報告をしてから電話を切った。先輩が微笑みを浮かべて手を伸ばしてくる。


「良くやったわね。えらいえらい」

「こ、こんな時に撫でないで下さいよぉ。それで、どうするのですか」


 先輩に褒められて気恥ずかしくなったけれど、気を引き締め直す。恐らく、この二人ならヒグルマタの相手も十分にできるだろう。伊達にΩクラス部門で勤務している訳ではない。


「上は『可能ならば至急、貴女達で鎮圧する様に』と言ってたわ。後少ししたら応援も来ると思うけど、それまでに私達でやっちゃいましょ」

「了解です」


 そうと決まれば、早速戦闘態勢に入ろう。図鑑によると、相手のヒグルマタは火車と猫又のミームの影響を受けて変異したモンスターらしい。その影響が、死体を持ち帰って燃やすという生態となって出ているとか。さっきのアレも、きっとそうだろう。


 鎮圧する上で注意すべきなのは、火の玉を飛ばす「鬼火」などの魔法攻撃だ。別に直撃しても私達なら大丈夫だろうが、まだ仕事の本番も始まってないのに消耗するのは避けたい。そこで、こんな物がある。


「先輩、『精神抑圧弾』を使いましょう。普通に戦うのは時間がかかって面倒くさいですから」

「んー、結構貴重な弾だけど……まあ、今が使い時よね」


 私達はホルスターから銃を取り出し、実弾モードから魔弾モードに切り替える。精神抑圧弾とは、魔力を固めて作った精神のみを攻撃する弾丸である。特殊な製造方法の為に値段が張るが、貴重な実験動物をを傷つけずに大人しくさせるには最も適した魔弾だ。


 その名の通り、この弾は当たった標的の精神を縛り上げ、抑圧する。一発では数秒怯ませる程度の効果しかないが、何発も、特に頭に撃ち込めば精神を雁字搦めの簀巻き状態にし、やがては失神に至るだろう。機械と植物以外にはかなり有効だ。


 そしてこれから、この魔弾を寝ているネコに対して二人がかりで撃ちまくる。結果は既に見えている。


 先輩が合図をし、二人同時に曲がり角から飛び出した。私はヒグルマタの存在を確認し、即座に頭部を撃ち抜く。突然の襲撃に飛び起きたヒグルマタだが、目が覚める間も無く先輩が撃った二発目が入る。間髪入れずに私がもう一発放ち、当たったと思った頃には既に先輩が弾を撃っている。交互に撃つことで、怯みが解除される前に次の一撃を加える事ができるのだ。それから十数発の魔弾を撃ち込み、全て命中。何かをする間も無く、ヒグルマタは気を失った。


 駆け付けてきた職員達に後の処理を任せ、私達は先を急ぐ。事情は伝わっているだろうから焦らなくても大丈夫だとは思うが、足を早めずにはいられない。業務開始時刻が遅くなれば、それだけ業務終了時刻も遅くなるからだ。早く先輩に料理を教えてもらいたいのに。せっかく今日は早起きしていつもより早く出社したのだから、もっと早く下に降りとけば良かった。


 そうこう考えている内に、遂に、Ωクラス部門の異次元実験場にたどり着いた。扉を勢い良く開き、叫ぶ。


「遅れてすいませんッ!!」

「後輩ちゃん、大声で出し過ぎ……」

「……何があったかは既に聞いている。災難だったな」


 私達を出迎えたのは、我々異世界調査隊の隊長だった。隊長は続けて言う。


「さて、時間が惜しいので簡潔に説明しよう。今日の任務は“超巨大無敵ロボット”の内部への侵入だ」


 簡潔過ぎて逆にわからない。超巨大無敵ロボットって、何それ? 何がどう無敵なんだ?


「詳しい事はあちらの世界で話す。早く準備したまえ」

「「はい!」」


 とりあえず返事だけはしておく。今までも訳のわからない任務をいくつかこなしてきたが、今回はその中でもトップクラスに入る無茶振りだ。先輩を一瞥すると、明らかに困惑が顔に出ていた。



 装備を整え直し、次元の門(ディメンジョンゲート)の前に来た。他の隊員達も既に集まっていて、扉が開かれる時を待っている様子だった。


 次元の扉とは、魔力を圧縮する事で時空を歪め、現実とは別の空間へ繋がる穴を開ける装置だ。どんな空間に繋がるかは魔力属性の組み合わせや量によって決まる。場合によっては数百テラジュールもの魔力を消費するとんでもない装置だ。こんな物を使っているなんて、未だに実感が湧かない。


「先輩、今回も大丈夫でしょうか?」

「後輩ちゃんなら、きっと上手くやれるわ。何かあっても私が助けてあげるから、安心してちょうだい」


 確かに、これまで何度も先輩に助けられてきた。さっきの事だって、一人だと厳しかったかもしれない。


 だからこそ、先輩に言いたい事がある。今まで言う機会を逃してきたけれど、これからもその機会があるかはわからない。だから……今、言ってしまおうか。


「先輩、言っておきたい事があります」

「何かしら?」


 先輩が、私の目を見て、微笑んでくれる。その顔だ。先輩がそんな表情を私に向けてくれるから、私は……。


「私、先輩の事――」


 突如、爆音が轟く。いや、突如じゃない。次元の門が開いたのだ。私の言葉を虚空の彼方へ吹き飛ばしながら。


「……ごめんなさい、聞こえなかったわ」

「そ、それじゃあもう一度――」

「待って」


 先輩が私の唇に指を当て、静止させる。今、自分は顔が赤くなっている気がする。


「その言葉は後で聞かせてもらうわ。二人揃って帰る時に、ね」

「……はい!」


 ちょっと、トラブルの所為で冷静さを欠いていたかもしれない。深呼吸をして落ち着こう。


 今は仕事に集中だ。機械の様に任務をこなそう。そして仕事が終わったら、硬くなった心を揉み解して、先輩に言うんだ。“虚空に消えたあの言葉”を。



 次元の門を潜った先は、金属の壁に囲まれた空間だった。時々、何かの稼働音が聞こえる。


「隊長、ここは……?」

「ふむ、どうやら例の超巨大無敵ロボットの内部らしい。偶然にも直接繋がった様だ。実に運が良い。いきなり目標を達成してしまった訳だからな」


 じゃあもう帰っていいかな?


いやはや、何とかなるものですね!

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