バッドボトル
本作はモンスターとのエンカウント率が高いです。
『警告。コードC-M-ChLi-β-02、「バッドボトル」が脱走しました。職員は直ちに出動し、対処して下さい』
何度も繰り返される機械音声の警告、響き渡るアラーム。研究所に緊張が走る。
最悪だ。よりにもよって客が来ている時に脱走が発生するなんて。しかも脱走したのはこないだ来たヤツじゃねぇか。
世界的大企業、アカシックレコード社の傘下にあるこの魔物研究所ではこう言う事態は珍しくない。何せ相手が相手だからな。だが、今だけは起きて欲しくなかった。目の前に客がいるんだよ。ペストマスクを被った変な客がな!
「……異常事態か」
「ええ、まあ。はは、こんな事滅多に起きないんですけどねー」
「そんな事はないでしょう。目が泳いでますよ?」
「うぐっ」
一瞬でバレた……! この人こえーよ。主にマスクがこえーよ。
「成る程、理解しました。天才であるこの私がこの状況を打破して見せましょう」
「いえいえ! お客様はここで待機していて下さい! ここは私達が何とかしますから!」
「心配は要りませんよ。上はこうなる事を予想して私をここへ招待したに違いありません。上は私を便利で万能で都合の良い人物だと思っているようですが、その通りです。何たって天才ですから」
「いや、何を言ってるんですか!?」
「つまり結論としては、私の才能のゴリ押しによって適当に何とかなるでしょう! 私は天才ですから。それでは」
「あ、ちょ、ちょっとお!? ……消えた」
あのマスク野郎、テレポート魔法を使いやがった。なんだよ、才能のゴリ押しって。まさか脱走したバッドボトルを鎮圧しに行ったのか? いやふざけんなよ! 客になんかあったら俺の首が飛ぶんだぞ。世間体とかそう言うのがヤバいんだって!
とにかく手元の端末で詳しい状況を確認しよう。
「ええっと、逃げた先はあそこで……個体数は一体……現在職員三名と人型実体一体がバッドボトルと交戦中……人型実体?」
人型実体の心当たりがペストマスク野郎以外にいない件について。バッドボトル見つけるの早くね? と言うかアイツ人外扱いされてね?
「……仕方ない、鎮圧に向かうか。首パァンはゴメンだしな」
廊下に出て、交戦ポイントへ走って向かう。途中、避難するか弱い職員とすれ違った。客さえ居なければ俺だって尻尾巻いて逃げれたのによぉ。羨ましいかぎりだ。
しばらくして修羅場にたどり着いた。既に何人かの同僚が倒れている。血こそ飛び散っていないが、地獄絵図には変わりない。俺は生き残っている同僚達の内一人に話しかけた。
「おい、状況はどうだ?」
「ああ、応援に来てくれたのは有難いんだが、全部アイツ一人でどうにかなりそうなんだ」
「は?」
同僚が指差した先にいたのは人型実体、もといペストマスクの客人だった。ヤツは何かを掴んでいる。ワインボトルの様な黒い物体……バッドボトルじゃね、あれ。
いやそれ、接近厳禁のオブジェクトなんだけど。周りにある食料、飲料、空気の全てを毒にするやべーヤツだから。決して素手で掴む様なヤツじゃねえから。
てか、“腕”はどうしたバッドボトルよ。凶暴化したら絶対に口から出してたよな。
「後は蓋を締めればいいのですね」
「はい、先ほどお渡ししたコルクを……危ない!」
ペストマスクの男に俺の同僚が返事をした瞬間、瓶の中から闇が飛び出す。細長く伸びた闇は先端を五つに枝分かれさせ、鋭い爪となる。これが、毒にやられた者にとどめを刺す腕だ。
腕がペストマスクに迫る。駄目だ、あんな距離じゃ助からない。あーもう、本当に最悪だ。あの時無理矢理にでも引き止めておけば良かった。
もう見てられなくなり、目を閉じた。次の瞬間には湿った者が倒れる音が――聞こえてこない。
目を開ける。見えたのは、バッドボトルの爪がペストマスクに受け止められている光景。これぞ本当の顔面セーフ……って、そんなわけあるか!
俺が何も言えずにいると、マスク野郎はバッドボトルの腕を捥いで、何事も無かったかの様にコルクで蓋をした。
「後は任せます」
「ええ、ご協力ありがとうございました!」
同僚も同僚で普通にバッドボトルを受け取り、走り去っていく。他の奴らも何時も通りに倒れた人達を運び始めた。お前らは今の光景を見て何も思わなかったのか? 俺がおかしいのか?
「おーい、こっちを手伝ってくれ!」
「……はい」
俺は考えるのを止めた。
最初のコードにはちゃんと意味がありますが、ここでは割愛。




