変化の雨
人生には「変えたいもの」と「変わって欲しくないもの」があります。
雨が降っている。
それは変化をもたらす雨だ。その雨に濡れたモノは、例外なく変わり果てる。
ここに金属が有るとしよう。どんな種類でもいい。これをその雨に晒せば、錆の塊となる。鋼だろうが金だろうが、錆びつく可能性があるなら外から中まで全てが酸化する。残るのは朽ち果てた塊だけだ。
雨に触れたモノが燃えている何かなら、それは即座に灰になるだろう。雨は炎を消すどころか、炎を燃え上がらせる。
もし、生物がこの雨に触れてしまった場合……しばらくは大丈夫だ。ただ、余りにも長く触れてしまったのなら、雨は生物を変化させ始めるだろう。希望と絶望、快感と不快感が無秩序に巡り、そして最終的には何時も、腐った屍が残る。
降っているのは水素と酸素の化合物ではない。それは液体化した魔法だ。魔法は、独自の法則で万物を変化させる。その法則を完全に理解するのは人間には非常に困難だった。それ故に、魔法なのだ。
この雨を降らせているのは、一つの存在だった。沼地を住処とするその存在はきまぐれに在り方を変化させていた。龍からヒトへ、ヒトから龍へと。どちらが本当の姿なのかは、もう誰にもわからない。その龍人は長く生き過ぎた。
その存在は強大な力を持っている。雨を降らせているのもその力の一部だ。しかし、雨は無差別に牙を剥く。その存在自身も雨による影響を受けてしまうのだ。龍人がその気になれば雨の性質そのものを変化させる事も可能なのだが、その必要は無かった。
この雨は檻だからだ。自身と外を遮る、世界の境界。龍人は外からの変化を拒んだ。不変でありたかった。
その存在――彼女は特殊な魔法陣の上に建った城(1LDK)に守られている為、雨に濡れる事はない。洗濯物は基本的に部屋干し。必要な物はネット通販で。龍になりたい気分の時はリビングを片付けてそこでなる。どうしても外に出ないといけない時は、裏地に城のものと同じ魔法が描かれた水玉の傘を差して出かけた。龍人は、頑なに雨を降らせ続けた。
そんな彼女だが時折、と言うか毎日の様に心の奥底から湧き出るものがある。それは抗いようのない普遍的な欲望、自己顕示欲だ。彼女は強大な力を持っているので尚更だった。
彼女ならば世界中にこの雨を降らせ、人々にその存在を知らしめる事もできるだろう。しかし、彼女はそれをしなかった。雨を降らせているのはせいぜい城から数十歩くらい歩けば出られる範囲だ。
では、彼女が自己顕示欲を解消する方法とは何か? 答えは単純だ。それは誰もが手を出しうる手段。
SNSである。
最初は日常の些細なつぶやきから始まった。だが、返信やグット評価が返ってくるものだから調子に乗って自撮り写真を投稿してみたり、家の中でゴロゴロしながら投稿するネタを考えたりするようになり、SNS中心の生活となっていく。
そして、何故かは分からないが、結果的に動画投稿を始めてしまった。これが結構上手くいき、ちゃっかり広告収入も得ていた為それなりのお金が入ってきた。動画の内容は主にお喋りで、偶に思い出したかのように自分が降らせている雨で色々やったりするというものだ。
こうして、彼女は外に出なくなった。城の中だけで完結する、不変の生活を手に入れたのだ!
……彼女は一応、世界を変える力を持った古の龍である。
この作品のそれぞれの話全てに意味なんて無いとは言いませんが、全てに意味があるとも言いません。それは時間と共に変化する可能性もありますから。




