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解せぬ

解せぬ事はありますか?

 解せぬ。何故私は働かなくてはならぬのか、何故私は考えるのか、何故私は存在するのか、解せぬ。


 何よりも解せぬのは――――私が羽の生えたクモになっている事だ。


 昨日までは平凡な会社員だったはずだ。久々の連休に胸を膨らませ眠りについたはずなのだ。平穏で静かなな休日を過ごすはずだったのだ……!


 だのに!


 目覚めたら羽の生えたクモだ! 不条理だ! 解せぬ!


 そもそも羽の生えたクモとはなんだ? 部屋の鏡で自らの姿を確認したが、正しく羽の生えたクモとしか形容のしようがない姿だった。だが、私は本当にクモなのか? 羽が生えたクモなど、これまでの人生で一度たりとも見たことがない。もしや、今の私は八本足の未確認生物なのではないか? 今の私は、私自身の正体すら解せぬのだ。


 ふと、羽があるのなら飛べるのではないかと言う発想に至る。そうだ、飛んでみよう。できる事がわかるのは大きな進歩だ。解せぬものを一つでも減らすのだ。


 背中に力を込める。だが羽は動かない。羽の動かし方が解せぬ。自分の体の一部を動かすのすらままならないとは。私は言葉にしがたい悲哀を抱いた……。


 飛べぬなら、歩いて行こう、謎のクモ。その正体が、わかる時まで。


 とにかく手がかりを探さねばならない。幸いにもここはよく見知った私の部屋だ。これまでゴキブリやネズミが発生した事のない、清潔で安全な部屋である。ここを拠点に、活動を開始しようではないか。


 まずは部屋を出よう。この部屋には見たところ手がかりはない。そして食料もない。幸いにも部屋の扉は少し開いている。一人暮らしだから勝手に閉められる事もない。安心して探索に出られる。


 私は扉の外へ、一歩踏み出した。


 そこは、明るくも、暗くもなかった。天井も、壁も存在しない。床すらも存在が曖昧だ。そこは虚無だった。何もない。何も存在しない。何もかもが解せぬ。私は二歩下がった。


 私の部屋へ無事に戻って来た。この部屋の外には何も存在していなかったのだ。自分でも何を言っているのか解せぬ。窓の外は何時も通りの風景だった。だが扉の先は虚無だった。窓の風景は幻で、本当は窓の外には虚無が広がっているのではないか? 嗚呼、解せぬ!


 この状況はなんだ? 何をすれば良い? 私は何なのだ? 解せぬ、解せぬ、解せぬ……。


「解せぬ!!」


 目覚まし時計の音が響いている。私は、ヒトの姿に戻っていた。あれは夢だったのだろうか? 何一つ、解せぬ。


夢って一見支離滅裂な様に見えて、よくよく考えたらその夢を見た原因が分かったりします。自分の場合は。でも解せぬ時は解せぬ。

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