第76話:最深部『レベル・オメガ』の狂気!〜この世界は「水槽」だと語るレベル118の災厄と、まさかのジョークで暴かれた『虹色の虎』の黒幕〜
『レベル・オメガ』は監獄のようには見えなかった。時間から忘れ去られた深淵のようだった。
レオン、アリック、影を刈る鴉、そして精神を支配された5人の海兵がむき出しの火山岩でできた螺旋階段を降りていくにつれ、空気はますます凍てつき、押し潰されるように重くなっていった。
ここには警報もなければ、パトロールの看守もおらず、遠くの暴動の音すら届かない。
あるのは絶対的な暗闇と、天井から滴り落ちる塩水の音だけだった。
回廊の突き当たりには、二つのタイタンのような最高隔離独房に分かれた巨大な拘留エリアが広がっていた。
そこは魔法エネルギーの分厚い板と、いかなるモンスターの腕力をも無力化するために鍛造された深淵チタンの枷によって厳重に守られていた。
左側の独房で、壁に鎖で繋がれていたのは一人のネズミの獣人だった。
彼の灰色の毛皮はゴワゴワで無数の傷跡に覆われ、肉体には最近の戦いの生々しい痕跡が刻まれていたが、その姿からは熱病のような不屈のエネルギーが放たれていた。
数日前に捕らえられたばかりだというのに、彼の黒く憑りつかれたような瞳は、どんな監獄にも決して消すことのできない炎で燃えていた。
レオンがエネルギーガラスの前に立ち止まっても、ネズミは顔すら上げなかった。
ただ虚空を見つめたまま、誰に向けるでもなく、しゃがれた耳障りな声で呟き続けていた。
「勲章でも磨き続けてろ、軍服を着た小犬どもめ……」ネズミの獣人は独り言のようにクスクスと笑った。「自分たちが食物連鎖の頂点にいると信じ続けてろ。レベル100……どいつもこいつも、それが強さの頂点だと思ってやがる。バカどもが。盲目の家畜どもめ。100は頂点なんかじゃねえ。それは『首輪』だ。俺たちのクソみたいな『水槽』のガラスなんだよ……」
レオンは首を傾げ、犬の耳をピンと立ててガラスのこちら側で腕を組んだ。
「水槽、だと?」
ソーンはゆっくりと鼻面を上げた。
彼はレオンを見つめ、それから背後に控える巨大なモンスターたちに視線を移したが、恐怖の兆候は微塵も見せなかった。
「ああ、水槽だよ、海賊さん」ソーンは黄色い歯を覗かせる歪んだ笑みを浮かべて答えた。「七つの海も、起源の航路も、モンスターも、嵐も……全部が巨大で閉鎖された『囲い』なんだよ。俺たちは神様ごっこをしてる誰かに管理された、水たまりの中を泳ぐ魚に過ぎねえ。奴らは俺たちを『玉座の島』へと駆り立て、そこが世界の果てだと吹き込む。だがな、玉座の島はゴールじゃねえ。あれは『門』だ。そしてあの門の向こう側には……真実がある。他の世界が存在するんだ」
レオンは凍りついた。冷たい悪寒が背筋を駆け抜ける。
(こいつの言う通りだ)海賊王は胸の鼓動を早めながら考えた。
彼は地球から来た。他の世界が存在することも、今自分たちがいる世界が閉じられたシステムに過ぎないことも嫌というほど知っている。それをこれほど明確な確信をもって語るのを聞いたことは、目が眩むような衝撃だった。
こいつに違いない。8人目の人間の異常だ。
「そのネズミの言っていることは、嘘ではないぞ」
王のような傲慢さを帯びた深く響き渡る声が、レオンの思考を遮った。
それはソーンの真向かいにある最高隔離独房から聞こえてきた。
レオンは振り返った。
エネルギーガラスの向こう側、暗闇に包まれ、さらに太い鎖で固定されていたのは、タイタンのような巨獣だった。
暗がりの中で筋肉が波打ち、その毛皮は鮮やかで紛れもない「エメラルドグリーン」に輝いていた。
レオンの青いインターフェースが一瞬だけ点滅し、少し前までならシステムのバグだと思っていただろう文字列を返した。
【 緑虎の獣人 - レベル122(覇権) 】
「あいつの言っていることは、すべてクソみたいな真実だ」
緑の虎は唸り、暗闇の中で目を光らせた。
「俺は『玉座の島』にたどり着いた。あの門をぶち破って、この世界の真実を自分の目で確かめたかったんだ。だから奴らは俺を止めた。俺を捕らえ、腐らせるためにこの穴ぐらに放り込んだんだ。なぜ奴らが俺を殺さなかったか分かるか?」
緑の虎は鎖が許す限り一歩前に踏み出し、誇らしげに胸を張った。
「奴らが俺を処刑しなかったのは、仲良し家族ごっこを演じたがっているあの腹違いの兄弟みたいな奴の命令があったからに他ならん。海軍最高司令官の……」
「待て、ちょっと待て」
レオンは純粋な当惑の表情で前足を上げ、彼の話を遮った。
船長はその虎を上から下までジロジロと見た。
「ちょっと整理させてくれ……」レオンはため息をついた。「最高司令官は『青』だ。俺が殺した賞金稼ぎは『赤』だった。そしてお前は『緑』だ。お前ら兄弟なのか? 一体どんな交配をしたらそうなるんだ……お前らの母親は『虹』とでも浮気したのか?」
緑の虎は一瞬にして黙り込んだ。だが、侮辱や赤虎を殺した犯人に対する怒りからではなかった。
王のような傲慢なオーラが溶け去り、絶対的で純粋なショックに取って代わられたのだ。
彼の目は極限まで見開かれ、目に見えて動揺しながら一歩後ずさりした。
「な、なぜ……なぜ貴様が『虹色の虎』のことを知っている!?」
緑の虎は息を呑み、震える爪でレオンを指差して言葉を詰まらせた。
「あいつの存在は、誰一人として知らないはずだぞ!」
エメラルドの巨獣は拳を握りしめ、低く唸った。
「それと念のために言っておくが、赤の奴のことなど俺はどうでもいい。あいつは、あのクソったれな『虹色の虎』の最新の被造物――海から海賊を一掃するという目的のためだけに生み出された生体兵器に過ぎん。一方、青の奴と俺は、あいつの最初の実験体だった。海軍を支配するために作られた双子としてな」
緑の虎は嫌悪感をあらわにして地面に唾を吐き捨てた。
「俺も大将としてあいつの隣に立つはずだったが、あの化け物の命令に従うことを拒絶した。この世界の仕組みには何か深く腐りきったもの、俺の胸をむかつかせる死の悪臭があった……だから俺は反逆したんだ。俺がこの穴ぐらで生かされているのは、あの哀れな青の操り人形が未だに『兄弟』というバカげた茶番に執着していて、俺を処刑する度胸がなかったからに過ぎん!」
レオンは瞬きをした。
彼は口をあんぐりと開けたまま、『一体全体どういうことだ』というこれ以上ないほど純粋な困惑の表情で緑の巨獣を見つめた。
回廊にシュールな沈黙が降りる。
カラスと5人の海兵までもが、船長の神がかった予知能力に恐れおののくかのように振り返って彼を見つめていた。彼のくだらないジョークが、虎の血統の最も暗い秘密を暴き出してしまったのだ。
「えーっと……」レオンは生唾を飲み込み、耳をペタンと伏せた。「実は……ただのクソみたいな冗談だったんだが……」
船長は首を振り、素早く状況の主導権を取り戻した。彼は服従させた海兵たちに顎で合図を送る。
「力場を解除して、そのデカい緑の猫の枷を外してやれ」レオンは命じた。
従順な兵士たちは独房の制御パネルに近づき、手首の装具に海軍の最高セキュリティコードを入力した。もし単純な打撃や腕力でこの特殊な合金を壊せるなら、これほどの格の獣たちはとっくの昔に粉砕していただろう。
ガラスが消え、重厚な鎖が重い金属音と共に弾け飛んで巨獣を解放した。
レオンは虎を見た。「自由が欲しかったんだろ? 上の階へ行って、お前を止めようとする奴を片っ端から引き裂いてこい」
エメラルドの巨獣が咆哮を上げ、上層階にカオスを撒き散らすべく階段へ向かって突進していくのを見送ると、レオンは再びソーンの独房へと向き直った。
他の海兵たちに合図を送ると、彼らも同じ作業を繰り返した。
ネズミの独房のエネルギーガラスが青い火花の雨となって消滅し、油圧の抜ける音と共に、鎖が囚人の手首と足首を解放した。
ソーンは膝をつき、痛む腕をさすりながらニヤリと笑った。
「さて、俺たちの話だ」レオンは海賊王の巨躯で彼を見下ろしながら言った。その黄金の瞳がネズミを射抜く。「お前は俺と同じ結論にたどり着いていたな。本当のことを言え、ネズミ。お前は『転生した人間』か? 別の世界から来たのか?」
ソーンはそんな具体的な質問にほんの一瞬だけ困惑したように彼を見た。
それから、彼の傷だらけの鼻面がしゃがれた笑い声に開かれた。
「転生者? 人間だと? 俺はこの海の泥の中で生まれたんだよ、犬」ソーンは答えた。「そして、水槽のガラスをぶち破るために、自分の牙で道を噛み砕いてきたんだ」
ネズミはそれ以上何も言わず、自らのシステムハブを呼び出し、青いホログラム画面を実体化させてレオンが読めるように向けた。
レオンは息を呑んだ。
そのステータスはあらゆる論理を打ち砕くものであり、この世界の絶対限界など単なる幻想に過ぎないという生きた証拠だった。
【 ターゲットステータス 】
名前:ソーン ”災厄”
クラス:原初の獣
レベル:118 【 覇権 】
HP:2850 / 2850
攻撃力 (ATK):2150
防御力 (DEF):1850
速度 (SPD):2600
HPから速度に至るまで、すべてが文字通りレオンのレベル100の頂点の2倍以上だった。レベルの横には『覇権』のタグが脅威的に輝いている。
だが、船長が見ていたのは基本数値ではなかった。
彼の目はリストの一番下、『速度(SPD)』のすぐ下の空白スペースを必死に探していた。『運(LUCK)』という文字を探した。『厄災(CAL)』、『支配(DOM)』、あるいは彼が異世界から来た「選ばれし者」であることを証明する異常の表記を探したのだ。
しかし――そのスペースには、全く何もなかった。
異常はない。ソーンは単に、その『原初の獣』クラスと止められない意志の力だけでシステムを打ち破った現地の住人だったのだ。
レオンはため息をつき、両腕をだらりと下げた。
氷水を浴びせられたような失望感が彼を襲う。8人目の人間の異常ではなかったのだ。彼はただの現地人のために地獄を解き放ち、世界で最も厳重な監獄に自ら閉じ込められたのだ。
「クソッ、アリック……」レオンは諦めたような表情で霊体の副船長を振り返り、息を吐いた。「俺たちは何の意味もなく、このクソ監獄に入り込んじまったみたいだぜ……」
その名前を聞いた瞬間、ソーンの息がピタリと止まった。
老いたネズミは画面から顔を上げ、レオンの背後で無言のまま浮かんでいる、霜と青い炎に包まれた姿を初めて凝視した。
彼の心臓が激しく跳ねた。
「アリック……?」
ソーンは震える、信じられないといった声で囁き、傷だらけの鼻面を古い涙で濡らした。
「アリック船長……なのか?」




