第74話:水深500メートルの大突破!〜火山プラズマ砲で海底監獄の岩壁をブチ抜いたら、一方通行の罠で俺だけ閉じ込められました〜
夜の海は、凍てつくほど冷たく敵意に満ちた漆黒のインクの広がりだった。
巨大な魔導海賊弩級戦艦は恐るべきスピードで波を切り裂いていたが、黒い木の甲板には鉛のように重い沈黙が支配していた。
レオンは目をパッと見開いた。野生の感覚は極限まで張り詰め、呼吸は重かった。
メインマストにもたれかかってうたた寝をしていたのだが、その眠りは歪んだ悪夢の迷宮だった。
彼だけではない。数歩離れた場所では、ポールが毛皮をべっとりと濡らす冷や汗をかきながらこめかみを揉んでおり、アナベルは強大なドラゴンの翼を折りたたんで腕を組み、虚ろな目で暗い波を見つめていた。
未知の脅威の重圧が、彼らを押し潰そうとしていたのだ。
全員の頭の中で、たった一つの呪われた数字が反響していた――『108』。
そして、死に際のイルカが死刑宣告のように囁いた言葉――【覇権】。
レベル100という到達点が、実際には『起源の航路』の真のバケモノたちにとっては「単なる始まり」に過ぎなかったという事実が、彼らの自信を粉々に打ち砕いていた。
「お前たちのバイタルパラメーターが不規則だ」
暗闇から、金属音混じりのしゃがれた声が響いた。
サイラスがロープから滑空して降りてきて、軽い機械音を立てて着地する。魔導機関のフクロウのサイバネティック・アイが回転し、二人の士官をスキャンした。
「コルチゾール(ストレスホルモン)の急上昇を検知した。念のため言っておくが、パニックになってもステータスにバフはかからないぞ。敵を恐れたところで、奴らのパラメーターが下がるわけでもない。非論理的なエネルギーの無駄遣いだ」
「お前は気楽でいいよな、サイラス……半分金属でできてるんだから」
ポールはサーベルの柄を強く握りしめながら呟いた。
「俺たちは今、世界のルールを破るバケモノがうようよいる海へ、海軍本部に向かって真っ直ぐ突っ込んでるんだぞ」
「この世界に、触れられない奴なんて存在しない」
レオンの声が、刃のように潮風を切り裂いた。
海賊王が立ち上がる。身長2.5メートルを超えるタイタンのような筋肉の巨躯がそびえ立ち、長いレザーコートが夜風にはためいた。
彼は士官たちの前に立ち、消えることのない獰猛さで黄金の瞳を輝かせた。
「よく聞け、お前ら」
レオンは純粋な権威に震える深い声で唸った。
「あの薄汚い魚があの幻の『覇権』とやらを解放できたってことは、意味することはただ一つ。レベル100の限界は、誰にだって破れるってことだ。それに考えてもみろ……昨夜、海のど真ん中でレベル108に出くわしたのが、ただの悲劇的な不運だったとでも思うか? 違うね。俺の『運(LUCK)200』が俺たちにクソでかい恩を売ってくれたんだよ。何も知らずに海面から海軍に突撃して、最高司令官に虐殺されるのを防いでくれたんだ」
ポールとアナベルは顔を上げ、リーダーの明晰な冷徹さに驚いた。
レオンは拳を握りしめた。
「俺たちの推測が正しければ、”災厄”のソーンが8人目の異常、最後の転生した人間だ。海軍に処刑させるわけにはいかないし、ましてや処刑場にライオンが現れて奴を殺し、力を吸収するのを許すわけにはいかない。これからの戦争には、奴が俺たちの側に必要だ。俺たちはあそこへ降りる。奴を救い出して、ずらかるぞ。俺たちの進化を止めることは、誰にもできやしねえ」
王が生まれ持ったカリスマ性が、すべての疑念を吹き飛ばした。
ポールは深呼吸をし、その表情は再び硬く集中したものへと戻った。
アナベルは指の関節をポキポキと鳴らし、不敵な笑みを浮かべた。
「命令了解よ、船長」と少女は答えた。
◇ ◇ ◇
水平線の彼方で、『アイギス・バスティオン(盾の要塞)』を防衛するために配置された海軍パトロール艦隊の巨大な魔法サーチライトが、暗闇を貫いていた。
レオンは時間を無駄にしなかった。
「覇王!」と彼は呼びかけた。
巨大な【霊霧の覇王】が前へと浮かび上がった。
レベル100のモンスターはそのエッセンスを拡大させ、ドレッドノート全体を飲み込む分厚く白い不自然な霧の毛布を吐き出した。
彼らはあらゆる意味で「幽霊船」と化し、敵のセンサーやパトロールの目から完全に不可視となって海面を音もなく滑り、海底監獄の座標の真上へと正確に陣取った。
「所定の位置についたぞ、レオン」
サイラスが船首に近づきながら呟いた。
鈍い轟音と共にハッチが開き、船体に統合された怪物的な砲門が姿を現す。そのコアは赤く脈打つ光を放っていた。
「『永久の火山石』のすべてのエネルギーを中央の主砲に転換した」と魔導機関のフクロウは説明した。「濃縮された火山プラズマの単一ビームを発射する。深淵の岩盤を一瞬でドロドロに溶かすはずだ」
レオンはニヤリと笑った。「サイラス、深淵エンジン始動。潜航だ!」
水上エンジンが停止し、サイラスのシステムが生み出す巨大な空気のドームに守られながら、ドレッドノートは暗い海の深淵へと真っ直ぐ垂直に落下し始めた。
猛烈なスピードで降下していく。
そして水深500メートルに達したところで急停止し、深淵の真ん中でピタリとホバリングした。
彼らの目の前に、海底監獄の恐るべき巨大建築がそびえ立っていた。
海底に向かって沈み込む「5つの巨大な階層」に分かれており、彼らが位置していたのはまさにその第5階層――最も低く、最も暗く、最も難攻不落の階層。『レベル・オメガ』とされていた場所の正面だった。
「アリック、砲身を隔離しろ」とレオンが命じた。
霊体の副船長が一歩前に出た。
彼は絶対零度のオーラを広げ、爆発の軌道を誘導し、凄まじい熱と圧力の反動でドレッドノートの船首が木っ端微塵に吹き飛ぶのを防ぐため、中央主砲のフレームと砲口の周囲「だけ」に分厚く貫通不可能な永久凍土の層を作り出した。
「あの壁を消し飛ばせ」船長が命じた。
火山プラズマ砲が火を噴いた。
大きな爆発音はなく、ただ数百万度の熱で海水が一瞬にして蒸発する恐ろしい音だけが響いた。
プラズマビームは第5階層の分厚い岩壁に直撃した。石は瞬時に溶けて消滅し、幅3メートルの突破口を穿った。
白熱するクレーターの中を覗き込んだクルーたちは目を丸くした。この階層の壁は、なんと厚さ「8メートル」もの純粋な深淵岩で作られていたのだ。
彼らの船の伝説のコアとサイラスの知性がなければ、文字通り侵入不可能な要塞だった。
深淵を押し留めていた岩がなくなり、何トンもの超高圧の海水が壊滅的な暴力でその穴へと流れ込み始めた。
しかし、その監獄はただの洞窟ではなかった。溶けた岩の縁が不気味な魔法の光を放ち始め、彼らの目の前で自己修復を始めたのだ。
階層全体の水没を防ぐため、構造物そのものが再生し、穴を塞ごうとしていた。
「閉じていくわ!」アナベルが叫んだ。
「お前らは船に残れ!」レオンは命じた。
彼は甲板から助走をつけ、突破口へと流れ込む怪物的な水流の中へ真っ逆さまに飛び込んだ。
渦の猛威に逆らって泳ぎ、レオンは8メートルの岩のトンネルが狭まる直前に通り抜け、床の巨大な排水格子へと水が流れ落ちていく第5階層の岩の床の上に、ずぶ濡れで重々しく着地した。
彼は立ち上がり、レザーコートの水を払った。
そして武器を抜こうとベルトに手を伸ばす――が、何もない。
「クソッ……ポール! 俺が寝てた甲板の上に【音無き暗殺者の短剣】を置き忘れた!」
レオンは舌打ちし、それを取りに戻ろうと、まだ開いている突破口に向かって一歩後ろへ踏み出そうとした。
しかし、彼の肩が海の方へと傾いたその瞬間……ガツンッ!!
まるで固いチタンの塊にぶつかったかのように、彼は前へと激しく弾き返された。
水は突破口から流れ込み続けているのに、彼は外へ出ることができない。
船の上から、サイラスのサイバネティック・アイが狂ったように回転した。
「岩の内部に隠された『一方通行の魔導フィールド』だ!」フクロウがしゃがれた声で叫んだ。「水圧による圧壊を防ぐために物質や水が『入る』ことは許可するが、外へ出るあらゆる道は瞬時にブロックする仕組みになっている! レオン、罠だ! 閉じ込められたぞ!」
壁の穴は驚くべきスピードで閉じ始めており、今や直径1メートルほどにまで縮まっていた。
「船長!」船からポールが叫んだ。
巨大な猫の獣人は、レオンが休んでいた甲板から黒い短剣を掴み取ると、奔流する水越しに狙いを定め、渾身の力で亀裂の中へと投げ込んだ。
エピックの刃は外側から力場を何の抵抗もなくすり抜けた。岩がさらに融合する直前、レオンはそれを空中でキャッチした。
だが、騒音と浸水はすでに緊急システムを作動させていた。
耳をつんざくような甲高いサイレンが階層内に鳴り響き始め、長く閉所恐怖症を誘うような回廊が、不気味で激しい赤色の警報灯で脈打ち始めた。
突破口が完全に塞がり、船と監獄が完全に分断されるまで、あと数秒しか残されていなかった。
「サイラス!」
今や幅60センチほどに縮まった亀裂越しにレオンが叫ぶと、その声は船上に威厳をもって響き渡った。
「できるだけ遠くへ離れろ! 海底はもうすぐ安全じゃなくなる。お前のそのデカい頭脳を使って、このドレッドノートを『空へ飛ばす』方法を考え出せ! 脱獄は俺がやる、落ち合う場所は『空』だ!」
サイラスは頷き、金属のくちばしの下で鋭い笑みを浮かべた。
「挑戦、受けて立つぞ、船長」
魔導機関のフクロウは最大逆噴射のレバーを引いた。内部の衛兵に追跡される前に要塞の周囲から静かに距離を取るため、海賊船は後方へと急速に滑り始めた。
しかし、その正確なミリ秒のタイミングで、後退する船の船首から「二つのシルエット」が虚空へと飛び込んだ。
アリックが水のトンネルへと真っ逆さまに飛び込み、そのすぐ後ろを巨大な黒曜石の翼の無音の羽音が続いた――【影を刈る鴉】が、彼の隣に並んで自らを打ち出したのだ。
2体のレベル100のモンスターは弾丸のように突破口を突き抜け、8メートルの岩盤が鈍い音を立てて完全に溶接される「ほんの一瞬前」に、監獄の床へと重々しく着地した。
レオンは、自ら志願して退路を断ち、自分と一緒に地獄へと閉じ込められた2体の巨獣を見た。
「命令違反の野郎どもめ」
海賊王はエピック短剣の柄を強く握り直し、ニヤリと笑った。
霊体の副船長はただ共犯者のような氷の笑みを浮かべ、カラスは暗闇の中で純粋な忠誠心に白い目を輝かせながら、音のない楽しげな鳴き声を上げた。彼らは、彼の隣で戦い、死ぬためにそこにいた。
外では、海溝の静寂の中、魔導弩級戦艦が隠れ場所を求めて暗闇の中へと姿を消しつつあった。
操舵輪をしっかりと握るサイラスは、火山のコアがエネルギーで咆哮を上げる中、サイバネティック・メガネの位置を直した。
「しっかり掴まっていろ」
魔導機関のフクロウは深淵スラスターのレバーを限界の向こう側へと押し込みながら、しゃがれた声で言った。
「今から、俺たちは空を飛ぶぞ」




