第73話:限界突破の『レベル108』を神速でぶち抜く!〜謎の力【覇権(ヘゲモニー)】の存在を知った俺たちは、8人目の転生者を救出すべく海底監獄へ急行する〜
水深40メートルの暗闇が、ジュウジュウと音を立てる蒸気の軌跡によって引き裂かれた。
レオンは砲弾のように海を切り裂き、その恐るべきスピードが生み出す流体力学的な真空状態が、押し潰すような水圧を弾き返していた。
彼の眼下では、イルカの獣人が爪を振り上げ、今まさにキング・トリトンにトドメの一撃を振り下ろそうとしていた。
だが、海獣がそれを振り下ろす時間はなかった。
激突の1ミリ秒前、レオンの腕の筋肉が震え、レザーコートの下で不気味なほど大きく膨れ上がった。
(【捕食者の本能】!)
船長は大量の泡の雲を吐き出しながら、心の中で咆哮した。
純粋な野生の怒りの波が血管を駆け巡り、彼の腕力を限界の向こう側へと押し上げ、攻撃力を25%上昇させる。
新たに解き放たれた壊滅的な怪力によって強化されたレオンは、イルカの獣人に真正面から激突し、自分の部下から彼を吹き飛ばした。
水中の衝撃波が、海底から大量の瓦礫と砂煙を巻き上げる。
自分の捕食者としての感覚ですら捉えきれなかったスピードに呆然とし、海獣の目が大きく見開かれた。
怪物が反応したり海流を使って逃げたりするよりも早く、レオンの爪が前方に突き出され、分厚く鱗に覆われたその喉元に、逃れられないステンレス鋼の万力のようにガッチリと食い込んだ。
「水泳の時間は終わりだ」
レオンは水中で唸った。
ブーツの下で【天空の支配】の力が煌めき、対象の慣性、質量、そして重力を瞬時に無効化する。
イルカの獣人の3トンにも及ぶ筋肉の塊が、突然木の葉のように軽くなった。
だが、レオンは彼を上へは引き上げなかった。
海面に向かって青いマナの円盤を狂ったように連続生成し、船長は自分自身と敵を「下」へ――深淵の海溝へと向かって推進させたのだ。
海底そのものを「金床」と見立て、レオンは彼らの降下を超音速の激突へと変えた。
たった1秒という致死的な時間の中で、彼らはさらに250メートルも深い暗闇へと真っ逆さまに落下した。
深淵へと引きずり込まれる異常なスピードに恐怖したイルカの獣人は、必死に拘束を解こうともがいたが、スキルで強化されたレオンの万力のようなグリップは1ミリたりとも緩まなかった。
ドゴォォォォン!!
海底への激突は、まさに大災害だった。
岩盤が砕け散って巨大なクレーターが穿たれ、泥と堆積物の濃い雲が舞い上がる。
イルカの獣人は、その墜落の運動エネルギーをすべて自身の体で受け止めた。
貫通不可能だったはずの銀の鱗が不気味な音を立ててひび割れ、口からはどす黒い血の雲が噴き出した。その一撃は彼を打ち砕き、何本もの骨をへし折っていた。
敵に息をつく暇すら与えず、レオンは即座に推進力を逆転させた。
まだその喉元を掴んだまま、猛烈なスピードで深淵を一気に駆け上がり、垂直に上方へと飛び出したのだ。
ズドォォォォン!!
彼らは噴き上がる間欠泉のように海面の波を突き破った。
夜空へと飛び出し、そのまま魔導海賊弩級戦艦の甲板に重々しく墜落し、黒い木材を砕き散らした。
レオンは流れるような跳躍で立ち上がり、奪われていた酸素を肺が貪欲に吸い込む中、レザーコートから塩水を振り払った。
彼の向かいでは、イルカの獣人がよろめきながら立ち上がろうとしていた。
激しく咳き込み、墜落による内出血で甲板に血を吐き散らす。
彼は打撲した喉をさすったが、その視線には依然として傲慢で獰猛な軽蔑の色が宿っていた。
まさにその瞬間、レオンの野生の感覚が、敵の「本当の力」に焦点を合わせた。
モンスターを包むオーラは濃密で、暗く、歪んでおり、船長の血管の血を凍らせるような真実を突きつけていた。
【 魚人船長 - レベル108 】
レオンは凍りついた。
現実の理そのものに刻み込まれたその数字を、ただ凝視する。
レベル108。
「どうしてそんなことがあり得る……?」
レオンは目を見開いたまま、小声で呟いた。
「レベル100が頂点のはずだ。この世界の絶対的な限界だろうが……」
イルカの獣人はさらに血を吐き出しながら、しゃがれた声で爆笑した。その精神的重圧が、濃密で脅威的に膨れ上がる。
数歩離れた場所では、アナベルとポールが口をあんぐりと開けたまま完全に石化していた。
この世界で生まれ育った彼らにとっても、それは信じがたいショックだった。
レベル100は常に絶対的な頂であり、誰にとっても越えられない壁だと考えられていたからだ。宇宙の法則そのものに反する存在をその目で見たことで、彼らの常識は一瞬にして打ち砕かれていた。
海賊王の瞳に、黄金の冷酷な光が灯った。
「お前がどんなインチキを使っていようが知ったことか」
レオンは一歩前に踏み出し、唸った。彼の周囲の空気が、異常の怒りで振動し始める。
「今から、お前は俺のために働くんだ。ひざまずけ!」
【船長の絶対権限】の目に見えない衝撃波が、津波のような力でイルカの獣人に襲いかかった。
しかし――何の効果もなかった。
「8」という余分なレベルのエネルギーが、揺るぎない壁を形成していたのだ。
レオンの権威はモンスターのオーラに阻まれて砕け散り、傷一つ残すことなく潮風の中に溶けて消えた。
イルカの獣人は首を横に振り、哀れむような目で彼を見た。
「貴様は燃え盛る騒々しい忌まわしき船を俺の深淵の狩場に持ち込み、俺の海を荒らした」
魚人は船の魔導コアに向かって唾を吐き捨て、言い放った。
「大したクルーを持っているな、小犬。だが、貴様らは金メッキの檻に入ったただの獣の群れに過ぎん。メンバー全員がレベル100で止まり、誰一人として『覇権』に目覚めていない貴様らでは、この先へは一歩も進めんぞ」
レオンは歯を食いしばった。
覇権、だと?
「レベル100など、弱者のためのベビーサークルに過ぎん」
イルカは荒い息を吐きながらも、誇り高く続けた。
「『覇権』を持たぬ貴様でも、俺を水から引きずり出し、不意打ちで傷を負わせた今なら、ここで俺を殺すことはできるかもしれん。だが、『起源の航路』の真のバケモノたちを前にすれば、貴様らは塵のように一掃されるだけだ。引き返すがいい。起源の航路は、貴様らのような連中が来るところではない」
レオンはほんの一瞬だけ動きを止めた。
モンスターの言葉は彼を打ち砕くどころか、その黄金の瞳に純粋な高揚感の火花を散らせた。
彼の野生の直感は間違っていなかったのだ。あの限界は、打ち破ることができる。
「やっぱりな……」
船長の鼻面に獰猛で傲慢な笑みが戻る中、彼は囁いた。
「俺がおかしくなったわけじゃなかった。あの天井は、ぶち壊せるんだ」
その嘲笑うかのような笑みに激怒し、モンスターは最後の絶望的な攻撃として前方に飛び出し、致死の一撃を放った。
しかし、レオンにその攻撃を受けるつもりは毛頭なかった。
野生のパッシブによって倍増した1245ポイントという恐るべき基本速度(SPD)――このモンスターすらも圧倒的に凌駕している唯一のステータス――を頼りに、船長は純粋な影と化した。
彼は文字通り、傷ついた巨獣のガードの真下へと滑り込んだ。
【音無き暗殺者の短剣】が、外科手術のような正確さで空気を切り裂く。
圧倒的なスピードがもたらすミリ単位の精度を活かし、黒い刃は魚人の首の大動脈を綺麗に切断した。
レベル108の怪物はピタリと動きを止め、切り裂かれた喉元に両手を当てた。
そして重々しく膝をつき、そのまま木の甲板の上に崩れ落ちて絶命した。
レオンは微動だにせず、待った。
これほどの格の敵を殺せば、想像を絶する生命エネルギー(経験値)の波が解き放たれるはずだった。
しかし、何も起こらなかった。
倒されたモンスターの力はただ風の中に散り、絶望的に「100」で固定されたレオンとクルーたちの物理的限界という見えない壁に阻まれ、燃え尽きて無駄に消えていったのだ。
甲板は死のような静寂に包まれた。
ポールとアナベルがおずおずと死体に近づく。彼らの瞳に浮かぶ恐怖は明白であり、初めて、悲劇的なほどに伝染していくようだった。
「船長……」
ポールはショックから立ち直れないまま、震える声で呟いた。
「奴が言ったことを聞きましたか? たかが水中ハンターの群れを率いていた程度のこいつが限界を超えていて、その『覇権』とやらを持っていたなら……海軍の最高司令官はいったいレベルいくつなんだ? 玉座で魔王たちを操っている黒幕はどうなるんですか!?」
アナベルも腕を組み、ブルリと身を震わせた。
「ポールの言う通りよ、レオン。頂点にいるバケモノたちがどれほど強いのか、私たちには見当もつかない。ソーンを探したり処刑を止めたりするために、今このまま海軍本部へ行くなんて……自殺行為だわ。神々に挑む虫ケラの軍隊になっちゃう」
レオンは短剣を鞘に収め、鼻面の血を拭った。
イルカの獣人の言葉は氷水を浴びせられたような衝撃だったが、船長の戦略的な頭脳はすでに「唯一の前進ルート」を計算し終えていた。
「落ち着け」
レオンは揺るぎない、確固たる声で命じた。
「俺たちは本部に正面から突撃するわけじゃない。最高司令官に挑むために、海面でクルーを虐殺させるつもりはない」
二人の士官は混乱して顔を上げた。
「じゃあ、どうするんですか?」ポールが尋ねた。「奴らを見捨てるんですか?」
「論外だ」
レオンは無慈悲な決意に目を燃やし、唸った。
「俺たちは『レベル・オメガ』の監獄へ直行し、”災厄”のソーンを回収する」
「ソーンを?」アナベルは目を丸くして尋ねた。「でも、トップ層と戦うのは自殺行為だって言ったばかりじゃない! 本当にそこまでする価値があるの?」
「ある」
船長は拳を握りしめて頷いた。
「もし俺たちの推測が正しければ、ソーンは8人目の『異常』だ。この海にいる最後の転生した人間なんだよ。もし俺たちの最終的な敵がレベル100の壁を破っていて、その『覇権』とやらを持っているなら、今の俺たちの同盟だけじゃ足りない。可能な限りの味方が必要なんだ。この世界で生き残るチャンスを掴みたいなら、ソーンの異常ステータスと奴の力が俺たちの側に絶対に必要になる。処刑される前に、必ず奴を救い出すぞ」
その時まで無言で戦闘を分析していたサイラスが、一歩前に出た。そのサイバネティック・アイが困惑したように回転している。
「レオン、兵站上の巨大な問題がある」
魔導機関のフクロウは、『アイギス・バスティオン(盾の要塞)』の海図を広げながら口を挟んだ。
「レベル・オメガの監獄は塔ではない。最高セキュリティの『海底要塞』だ。本部の真下、海底に完全に建設されている。そして今、俺たちが身をもってテストした通り……水中で奴らのような存在を相手にするのは、俺たちにとって致命的に不利だ」
レオンは羊皮紙の海図を見つめた。
致死的で計算高い笑みが、彼の犬の鼻面に広がっていく。
「確かにな」
海賊王は三角帽子を直しながら答えた。
「だからこそ、深海で奴らに待ち伏せされるチャンスなんて与えない。水中を移動すれば、『覇権』を持った他のどんなバケモノが潜んでいようと、俺たちは格好の的になる」
レオンは操舵輪の方へと向き直り、甲板全体に響き渡る声で吠えた。
「俺たちは、俺のクルーが絶対的な優位を持つ『海面』を普通に航海していく。最高速度で波に乗り、海軍の海域へ直接突っ込むんだ。そして要塞の座標の真上に位置取った瞬間、一気に潜る。真下に急降下して、何が起きたか奴らが理解する前に、海底から監獄の岩壁を直接ブチ抜いてやる」
彼は士官たちを見据えた。その黄金の瞳が夜の闇の中でギラリと輝く。
「サイラス、エンジンを始動しろ。アリック、アイギス要塞へ海上直行ルートを取れ。行くぞ……!」




