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第55話:海軍基地が洗脳の支配下に!〜異常ステータスを持つ司令官の罠。仲間を操られたので戦略的撤退を選びます〜

覇王が召喚した不自然な霧の塊は、ブルー・バスティオンの海岸沿いを静かに流れ、ドレッドノートの停泊地を完璧に隠し通していた。


厚いダークリネンのマントに身を隠したレオン、ポール、アナベルの三人は、岩だらけの海岸に上陸し、港の裏路地から街へと潜入した。


しかし、海軍の軍事基地の中心部へ深く進めば進むほど、空気は息苦しく、シュールなものに変わっていった。


軍事拠点でよく見られるような、典型的な喧騒は一切なかった。大声で叫ぶ商人も、酒場の外での乱闘も、ジョッキのぶつかる音も、全く聞こえない。


何か情報を集めるか、地元の噂話を立ち聞きしようと、レオンは部下たちに合図を送り、近くの大きな武器屋へと滑り込んだ。

木製の看板には『青虎の武器庫』と書かれている。


だが、敷居を跨いだ瞬間、三人の海賊は困惑した視線を交わした。

その店は、何から何まで異常だった。


店内は死のような静寂に包まれていた。

埃一つ落ちておらず、壁に飾られた剣や斧、鎧の一つ一つが、ミリ単位で完璧に整列し、狂気と隣り合わせの幾何学的な正確さで配置されていた。


カウンターの奥では、革のエプロンを着た巨大な熊の獣人(ベアマン)が、布で海軍の兜を磨いていた。


レオンは近づき、フードを少し下げた。


「おい、店主」


船長は気を引くために、無垢の木のカウンターに金貨を一枚置いて言った。


「俺たちは探してるんだが……」


言葉は、彼の喉の奥で消え失せた。


熊の獣人がゆっくりと鼻面を上げた。その目は、恐怖そのものだった。

虹彩も瞳孔もなく、そこにあるのはただ、濃く、不気味な乳白色の膜だけだった。


武器屋は瞬きをしなかった。金貨を見ようともしなかった。返事もしない。

彼はただ頭を下げ、兜の全く同じ場所を磨き始め、リズミカルで機械的な円運動を何度も何度も繰り返した。


シュッ。シュッ。シュッ。


アナベルはマントをきつく握りしめ、嫌悪感で縦長の瞳孔を細めた。


「船長……この場所、何かが絶対におかしいわ。ここから出ましょう」


レオンは頷き、金貨を回収すると、短剣の柄の上に手を置きながらゆっくりと後ずさりした。


通りに戻ると、狂気はさらに大規模な形で現れていた。


牛の獣人、犬の獣人、猫の獣人で構成された海軍兵士の小隊が、死のような沈黙の中で大通りを行進していた。


彼らの槍は、全く同じ角度に傾けられていた。彼らの足音は、完璧なユニゾンで石畳を叩いていた。

カチャ。カチャ。カチャ。


彼らは視線を交わすことも、瞬きすることもなく、あの武器屋と同じ乳白色の目をしていた。

まるで、自由意志の欠片も残されていない、中身の空っぽな自動人形(オートマトン)のようだった。


彼らは中央の大広場に到着した。そこは、指令部の巨大な白い石の要塞がそびえ立つ場所だった。


広場の中央には、巨大な公式の手配書ボードが立っている。

レオンはフードの下から覗き込み、自分の顔と新しい懸賞金が至る所に貼られているのを期待して慎重に近づいた。


しかし、ボードは完全に空っぽだった。

指名手配書は一枚もない。懸賞金もない。


そこにあるのは、軍の規律と絶対的な服従を説く、硬直して秩序だった布告だけだった。


「懸賞金がない?」ポールが愕然として囁いた。「俺たちは海軍の作戦基地にいるんですよ、奴らの唯一の目的は海賊狩りのはずだ!」


「なぜなら、ここを仕切っている奴は『正義』なんてクソほども気にしていないからだ」


レオンは空虚な兵士たちを観察しながら、歯を食いしばって推測した。


「奴が気にするのは、絶対的な『支配』だけだ」


彼らがその場を立ち去ろうとした瞬間、要塞の頂上で重厚な銅鐘が鳴り響いた。


即座に、広場にいたすべての兵士がピタリと動きを止めた。

彼らは一斉に指令部の巨大なバルコニーの方へ向き直り、幾何学的に完璧な列を作って並んだ。


バルコニーの扉が開いた。

純白で汚れのない海軍司令官の制服に身を包んだ、背が高く細身の人物が現れた。


それは、蜘蛛の獣人(スパイダーマン)だった。


背中の後ろで、6本の長く細い腕が貴族のような優雅さで動き、光沢のある黒い瞳が広場を見下ろしていた。


司令官は手すりにもたれかかった。彼が口を開いた時、その声は威圧的な怒号ではなく、そこにいる全員の心に直接滑り込むような、這うようなヒス音だった。


『ブルー・バスティオンの兵士たちよ。お前たちの規律は、ついに完璧なものとなった』


スパイダーマンは、穏やかで冷酷なトーンで宣言した。


『お前たちの無益な欲望、恐怖、そして役立たずの自由意志を削ぎ落とすことで、私は完璧な軍隊を鍛え上げた。お前たちはもはや、海賊の混沌に翻弄される弱い肉の塊ではない。私の意志の延長だ。我々は共に、この海に絶対的な秩序を紡ぎ出すのだ』


マントの下で、レオンは拳を握りしめた。その存在から放たれるオーラは、不快で息苦しいものだった。


だが突然、司令官がピタリと動きを止めた。彼の8つの瞳孔が同時に収縮した。


『私の網(ウェブ)に……不協和音を感じる』


スパイダーマンが囁き、首を不自然に傾けた。彼の視線は鞭のように鋭く動き、3人の海賊が隠れている路地の影を正確に射抜いた。


『3つの飼い慣らされていない魂が、私の完璧な調和を汚そうとしている』


司令官は細い腕を2本上げ、鋭い動きで空気を摘んだ。


【 スキル発動:支配者の糸(スレッズ・オブ・サブジュゲーター) 】


目に見えない波――銀色のマナの濃密な脈動が要塞から爆発し、逃れられない投網のように広場を覆い尽くした。


その波が路地を直撃した瞬間、アナベルが激しく硬直した。彼女の短剣の一つが手から滑り落ち、鈍い音を立てて地面に落ちた。

ポールは息を吸う途中で固まり、背中を反らせ、その尻尾は突然鉄の棒のように硬直した。


「ポール? アンナ?!」


レオンは彼らに駆け寄り、猫の腕を掴んだ。


ポールはゆっくりと首を向けた。

彼の生き生きとした黄色い目は消え去り、あの武器屋と同じ濃密な乳白色の膜に完全に覆われていた。

彼の首筋には、蜘蛛の糸のように細い銀色のマナの糸が、脊髄に直接接続されていた。


波はレオンにも真正面から衝突した。

船長は自らの意志を押し潰そうとする恐ろしい精神的重圧を感じたが、彼の目の前で、青いインターフェースが絶対的な権威をもって輝いた。


【 精神支配(マインド・コントロール)の試みを検出。 】

【 異常対象(アノマリー):オリジナル・アノマリーの魂の上書きは不可能。スキルは無効化されました。 】


司令官の力は、岩の上を流れる水のように、レオンの心から滑り落ちた。彼はアンタッチャブルだった。


バルコニーでは、スパイダーマンの目が大きく見開かれ、純粋なショックで手すりを掴んでいた。


「貴様……私の糸が貴様の上で切れただと!?」


司令官は氷のような冷静さを失い、叫んだ。彼は遠くからレオンの犬の鼻面を睨みつけたが、彼の直感は外見を超越していた。


「この世界のいかなる獣人も、私の絶対的な支配を弾き返すほどの精神力など持っていない! その魂……貴様は人間だな! 私と同じ、異常(アノマリー)だ!」


レオンはマントを脱ぎ捨て、激しい唸り声と共に牙を剥き出しにした。今、決定的な確証が得られた。彼は別の転生した人間と対峙しているのだ。


司令官は笑った。狂気と優越感に満ちた笑みだった。


「この野蛮な海にもう一つのアノマリーか。だがな、犬よ。ここにはお前の混沌が存在する余地はない。この島は私の完璧な帝国だ。兵士たちよ! 侵入者を殺せ!」


そのテレパシーの命令と共に、広場にいたすべての海軍兵士が武器を抜いて路地の方を向いただけではない。

ポールとアナベルが、レオンに向かって突進してきたのだ。


二人の士官の表情は空虚だったが、その乳白色の瞳の奥で、アナベルの鱗に覆われた鼻面に一筋の涙がこぼれ落ちるのをレオンは見た。


彼らの手は震えていた。

彼らの魂は自らの心の中に閉じ込められ、悲鳴を上げながら、絶対に傷つけたくない相手に武器を向けることを強制されていたのだ。


電光石火の動きでポールはサーベルを抜き、即座に青い稲妻が弾けた。一方、アナベルは目も眩むような真紅の炎で短剣を燃え上がらせた。


「あのクソ野郎が!」


レオンは唸った。彼は素早くベルトから【音無き暗殺者の短剣】を抜いた。グロッグから奪った、致死のエピック品質の黒い刃だ。


彼の最初の本能は、咆哮して【船長の鼓動(キャプテンズ・ハート)】を発動することだった。

だが、彼はピタリと動きを止め、全身の血が凍りついた。


もしスキルを使えば、クルーのステータスを100%ブーストしてしまう……そして今、彼のクルーは自分を攻撃しているのだ!

ポールとアナベルを、自分に対する2倍致死的な「止まらない巨獣」に変えてしまうことになる。


バフをかけるわけにはいかない。殺すために攻撃することもできない。そして、彼は何百もの敵を相手にたった一人。

初めて、レオンは文字通り背水の陣に立たされていた。


ポールが稲妻の速さで斬撃を放った。レオンは間一髪で短剣を掲げた。

ガキィィン!


エピックの刃とサーベルの衝突により、船長は重く後ろへ滑った。

直後、アナベルが燃え盛る短剣を持って上空から襲いかかってきた。レオンはかろうじて身を躱したが、腕の毛が焦げる熱を感じた。


彼らに容赦はなかった。操り人形師(パペッティア)の魔法が、彼らの肉体的限界を超えさせ、いかなる躊躇も奪っていた。


「ポール! アンナ! 目を覚ませ、俺だ!」


レオンは叫び、彼らを傷つけないよう気をつけながら、短剣の峰で合体攻撃を必死に受け流した。


「戦うのをやめろ! クソッ、お前らがまだそこにいるのは分かってるんだぞ!」


二人は答えなかった。彼らは完璧で致死的なシンクロで彼を叩きのめし続けた。


彼らの背後からは、支配された兵士と民間人の大群が、槍や道具を構えて路地へと突撃してきていた。

状況は絶望的だった。唯一の論理的な選択は、戦略的撤退だ。


「野生の疾走(フェラル・ダッシュ)!」


世界が遅くなった。

レオンはポールの刃の下を潜り抜け、反撃する代わりに、路地の石の壁に足を押し付けた。


「無限跳躍(アンリミテッド・ジャンプ)!」


青いマナの円盤が彼の手足の下に凝縮した。レオンはそれを蹴り、宙へ飛び出した。

彼は二つ目、三つ目を作り出し、文字通り空へ向かって走り出した。


しかし、三次元で動けるのは彼だけではなかった。


操り人形師の残酷な支配の下、アナベルは嗄れた叫び声を上げ、その巨大なドラゴンの翼を広げた。

力強い羽ばたきと共に、リザードマンの少女は空へ飛び立ち、異常なスピードでレオンを追いかけ、船長のブーツをかすめるほどの火山炎の軌跡を吐き出した。


下からは、ポールも負けてはいなかった。

極限まで高められた猫の敏捷性を使い、精鋭戦士(エリート・ウォリアー)は建物の石壁と時計塔の間を狂ったように跳ね回り、人間離れした跳躍で壁を登り始めた。


レオンはもう一つマナの円盤を作ったが、完全に追いつめられていた。


ポールの青い稲妻を帯びた剣が左の出っ張りから飛び出し、右からはアナベルが白熱した短剣を持って急降下してきた。

二人の士官は、数十メートルの上空で彼に追いつこうとしていた。


絶望的な空中での捻りを使って、レオンはエピック短剣の背でポールの斬撃を弾き、その反動を利用してさらに上への推進力を得てアナベルの刃をかわした。

彼らの連携攻撃は恐ろしかった。彼の友人は、彼に対する致死の戦闘兵器と化していた。


空を駆け上がり、ついに軍事拠点の屋根より高く飛び上がり、追跡者たちから不可欠な高度を確保した時、レオンの視線は海軍基地の全体的なパノラマへと落ちた。


まさにその瞬間、ある決定的なディテールが彼の注意を引いた。


眼下で、信頼する副官たちを含め、すべての海軍兵士や民間人が司令官のハイブ・マインド(集合意識)に操られたマネキンのように動き、彼を狩り立てようとしている一方で……


この島にいる「下等な生き物」や「純粋なモンスター」たちは、完全に自分たちの世界で生き続けていたのだ。


商業ドックの下の方では、巨大な水牛たちが騒動に全く無関心な様子で、のんびりと重い荷車を引き続けていた。

造船所では、小さなゴブリンの建築家たちが、喉を鳴らすような歌を口ずさみながら、疲れを知らずにモルタルを混ぜ、木をノコギリで挽いていた。


港の外の岩礁では、甲殻類のモンスターの群れが、スパイダーマンの銀色のサイキック・ウェーブに完全に免疫があるかのように、魚を巡って争い続けていた。


その啓示は、雷のようにレオンを撃った。


『操り人形師の糸は、複雑な知能を持つ者、つまり「屈服させることのできる発達した精神」を持つ者にしか効かない。純粋なモンスターには、上書きするような理性がない。奴らはあのスキルに完全に免疫があるんだ!』


彼の最大の不利は、たった今、基地を取り戻し、仲間を救うための必勝の武器となった。


「ちょっと待ってろ!」


レオンは下を見下ろし、基地全体が彼を追おうと無駄な努力をする中、アナベルとポールが屋根に着地せざるを得ないのを確認して叫んだ。


そして、彼は城壁を越えて急降下し、崖の間の隠された入り江に向かって一直線に飛んでいった。


「すぐ戻る。そして、俺の最高にイカれたクルーを全員連れてきてやる!」

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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