9 彼の幸せはどこにある?
「ああ、なんてこと!」
そこは、アレックスの寝室だった。
ベッドには、いえ、その上の天井も含めて、私が突っ込んだと同時にベッドのマットレスに大きな穴が!
それと同時にアレックスの布団も穴が空いたらしく、一斉に部屋に羽毛が舞い上がり、マットレスからも綿が飛び出る。
アレックスに怪我がなくてよかった!
そう胸を撫で下ろす目の前わずか30センチ先に、アレックスの顔があり、私はアレックスが寝ていたマットレスの穴の中で沈んでいる。
「セラフィナ!ど、どうしてここに?君はどこにいたんだ?」
アレックスは、寝巻きのまま驚いて起き上がる。
「どうして?どうしてなの?私も聞きたい」
私とアレックスは見つめ合う。
「君をこの一ヶ月探したんだ。君の実家は瓦礫になって君はいなかったし、でも獣人の国を通過したあとはないというし。何度もあちらの国に連絡をして、うさぎの獣人であることを伝えたが、追い払われてしまって……この間も、今もだけど怪我はないの?」
「だいぶ着地が上手くなったから……はは、たくさん壊してしまうけどね……この国には住んでないの。ちゃんと国王様から言われた約束は守ってる。でも……」
国境を空中で通過したからよ。
月に国境はないもの。
そんな言い訳通用するかしら。
「も、もう来ないって決めてたんだけど、体が勝手に」
私は、すっぽり体がはまり込んだベッドの穴からゴソゴソと慌ててよじ登りながら出る。
アレックスが、私が這い出る腕を持ち上げて手伝いながら、上に上がってきた私の足を心配そうに触れる。
その触れ方にビクッとして、耳がぴくんと立ち上がる。
「耳は?耳は大丈夫?」
水色の瞳は前と同じ優しい瞳で再び胸がバクバクいい始め、喉が渇く感覚が近づいてくる。
ヤバい
「アレックス様!ご無事ですか?うわっ!賊か!」
激しい物音に気づいた兵たちが雪崩れ込んできた。
どうしよう!また大騒動だわ!
「いや違う!私が、彼女を呼び寄せたのだ。退室してくれ」
アレックスが手を大きく広げて、私を背後に隠した。
「アレックス様、なりません。呼び寄せるって、またこの女、穴を!獣人め!」
兵が、私に向かって、一斉に銃を向ける。
思わず、縋りそうになるが……アレックスを巻き込むので兵は動けない。それなのに、アレックスの首筋に噛みつきたくなる。
私はごくりと唾を飲み込んだ。
「ダメ、襲ってしまう。あなたを……」
私は、勢いよく飛び跳ねる。
「セラフィナ!!」
アレックスの叫び声が遠くに聞こえる。
「ごめんなさい。アレックス!」
私は再び、海に向かって跳んでいくのだった。
「おい!跳んでいくのだった……じゃねえよ」
ガルフとマーカスは、そうして帰ってきたずぶ濡れうさぎの私を困ったように見た。
「おかしい、私はアレックスの幸せを祈ったのに?」
長い耳は海水が入りやすくて困るわと、耳をブンブン振ったり、絞ってみたり……
「それが本当なら、その王子が君を呼び寄せたんだろうね。君と幸せになりたいと願っているということだ」
「そんなわけないですよ。すでに別のお相手を探してますし、国王様だって許すわけないんですから」
ありえないわと私は首を横に振った。
「立場を優先したから、君と別れると決めた。でも、立場と想いは別だからね」
ガルフは、私が銃を向けられたと聞き、次に撃たれそうになった時の対策をどうするかだなと思案する。
「毎回王城が壊れるなら、真っ青だよな。まあ、いけすかない国だからラッキーだけどさ」
マーカスはそういうけど……
「王城を壊す上に、獣人が王子の貞操を奪ったら、死刑じゃ済まないわよね」
私の水浸しの耳は、更にしょんぼり垂れ下がった。




