8 彼の幸せを祈ったはずなのに
「で?結局、父親の家と元婚約者のお見合いパーティーをぶっ潰して終わったわけ?」
私たち3人は再び、満月が終わり家に戻ってきた。
私は、3人に、昨夜、壊れた家の壁の石を積み直しながら、満月の夜のことを語り始めた。
それを聞きながら、マーカスは、私の肩を叩いて、「やったじゃん」という顔をしているが、それが自分の願望だったわけではない。
今回は結果的に、城と自宅の修繕費を父が支払えるとは思えないから、破産だな。ざまあみろで終わったのだが……
アレックスは、あのあと踊っていた彼女と上手く縁繋ぎ出来たのだろうか?
「あと繁殖本能が目覚めました」
これから、毎回満月の夜が厄介だわと悩ましく思いながら、私は、はぁーっと重いため息をつく。
それをみて、違うことを考えて、慌てたのはガルフだ。
「えっ!それは……どいつと関係を持ったの?」
心配そうに、私を上から下まで見つめる。
「見つめても何も変わりません、アレックスを襲うことはありませんでしたし、落ちた先が海だったので嫌ってほど頭が冷えました」
「へぇ、じゃあ俺たちも頭を冷やせば満月に左右されなくて済むな」
へへっと、マーカスは私に笑いかける。おそらく気を遣ってくれているのだろう。
「確かに。頭が冷えたら、冷静になれましたよ。じゃあ、満月の夜はみんなで海水浴でもしましょうか」
私も笑いかけながら、積み上げた石に固定の接着剤をかけた。
「それはいいと思うけど……これでセラフィナの願いはちゃんと叶ったの?」
ガルフは、それが叶わないとこれからも願いが叶うまで同じことの繰り返しだよと心配そうに眉を下げる。
私は、へへっと苦笑いした。
「叶うわけがないし、完全失恋です。でももう大丈夫です」
あの時、アレックスと共に踊る自分を夢見ていた。
もし、あのまま婚約者だったら、今日のパーティーは本来、私との婚約のお披露目のはずだったからな。
城を壊して、兵を差し向けられることなんて私が望むわけがない。
でも…………
「願いは叶っていませんが、心から願う新しい願い事があるから大丈夫です」
「そうなのか?それなら……まあいいが……叶わない限り延々と叶えようとしてしまうからな。月の雫は」
ガルフは心配そうに私を見つめていた。
◇
夜になり、昨夜より少し欠けたお月様が周囲を明るく照らす。
アレックスの隣にいたのは私ではなかったけど、どうか彼が幸せになってくれるようにと心から願うわ。
私は、月の雫を月の光に当てる。
そして、あんな形であっても、最後にアレックスと話ができて良かったと、謝れて良かったと思うのだ。
本当の私の希望とは違ったけど、今度こそ本当に叶えたい願いは純粋に彼の幸せだ。
そして、少しだけ母にも思いを馳せた。
初めて、アレックスと庭園で出会ったのは綺麗な満月の夜だった。もしかしたら、母は、月の雫に私と会うことではなく、こんなふうに私の幸せを願ってくれていたのではないかしら?
結局、母は亡くなったから、その願いはリセットされた。
更に、次の月の雫の持ち主として、私は獣人として目覚めたから、幸せは消えてなくなった。
だけど、普通はあんなに運良く庭で王子と出会わないわよね。
「ここが、獣人の国で良かった。城を壊したからって追っ手も来ないし、アレックスの結婚した姿を見ることもないもの」
幸せを願うけど、アレックスが他の人と幸せになった姿を見たいかと言われるとごめんだ。妬みの感情が生まれそう。
あの夜のパーティーで、アレックスが握っていた女性の手や、腰を支える手、彼の後ろに隠れる女性の姿を思い出すだけで、胸が苦しくなる。
「時がきっと解決してくれるわ……」
私は、空を見上げながら寂しく微笑んだ。
だが、次の満月――つまりは30日後、私は再びどこかに跳んでいた。
「いやあああああああああああ!どうしてぇー!」
どうするの?
私どこに飛ぶの?
繁殖期に入るんだから海水に飛び込まないと、希望しない人と付き合ってしまう。
それなのに、家で、二匹を蹴り飛ばした後に、地面を軽くステップしてしまった。
「どこに飛ぶのよ!」
そして目の前の見慣れた風景をみて再び叫ぶ。
「えーっ!もうここに用はないわ!」
勘弁して!
再び王城が目の前に!
「ダメダメダメ!本当にもうここに用はないの!」
アレックスの幸せを私は祈ったはず!
そのはずなのよ!それなのに――
ドッカーーン




