5 母の本当の願いは何?
「あなたたちは大変ね。満月の度に暴れたくなるなんて。なんだったら、おとなしくなるように祈ってあげましょうか?」
「満月に暴れない狼なんて、ただの犬だ」
「我々の沽券に関わる」
せっかくの提案を、二人は断固拒否する。
普通に生活していたら、全く違和感のない人族にしか見えないイケメンなのに……なんていうか、考え方が単細胞なのよね?
「母とはどうやって暮らしていたの?」
「どうって?こんな感じだよな」
マーカスは、少し首を傾げて椅子すらなくなってしまった床に座り込む。
「人族とかわらないんじゃないか?彼女の望みは、ここで平穏に暮らすことだった。だから、平穏に暮らせない満月の夜は、俺たちへの制裁を忘れなかった。繁殖は彼女の求める平穏ではなかったからそれきりだし……」
「なにそれ?結婚したんでしょ?」
結婚しないのに、父とガルフを手玉に取って、結婚した途端に二人ともと関係を持たないってどんな女だ?
「責任を取りたいと言ったのは俺からだし、その後はこんなふうに満月対策をして過ごしていたよ。君という子供を良い環境ではないとわかって置いてきたから、他の人とこれ以上、子供は作りたくないという思いがあってね」
「でも、戻ってすぐあなたと関係を持ってしまったと……」
私は言ってることとやってることが違うじゃないのと呆れ顔でガルフを睨む。
「だから、彼女は平穏を月に望んだ。本当の願いである君と会いたいという思いは、月の雫に溜め込んで叶わない夢として込め続けただけだったのに」
ガルフは、マーカスを睨む。
「つまりは、母が私に月の雫を渡してくれと言ったのが誤り?」
「死に間際に、月の雫に祈りを込めてたから、何かやってるのか聞いたら、私の願いを叶えてくれる道具だと言ってたからさ……どうすればその願いが叶うかって聞いたら、月の光にこれを当てれば叶うって言ってたんだよ」
マーカスは、母の願いは私に会うことだと知っていた。
だから、私に声をかけたが、私は拒否。もし、気持ちが変われば、月の雫を月に当ててほしいと願ったわけか。
でも、母は死んだ。
そして、月の雫は、その次の月のうさぎの私の願いを叶えることになったと……
あの時何を願ったんだっけ?
母に会ってもいいかな?は多分願いじゃない。
晴れてこの家から出ていける……だろうか?
それなら、叶ったから何も起こらないわよね。
父母に一矢報いてやりたい?
これも365日思っている自信がある。
満月の夜――私は月に何を叶えてもらおうとするのだろう?
私があの時本当に望んでいたことは……
私は、ほぼまんまるになったお月様を恨めしく眺めた。
◇
いよいよ、今日は十五夜
まだ、昼間なのに家の中はスタンバイオッケーの真っ暗闇だ。
「間違えても私を襲ったら蹴り飛ばすからね」
「本能が暴発しても、ソフィアに数多く蹴飛ばされて飛ばされてきた俺たちが言うんだから大丈夫。絶対、君がノリノリにならない限り未遂だ」
「そういえば、私はいつ繁殖期になるのよ?」
3人で顔を見合わせる。
「突然来るからな?いつだ?」
「さあ?」
「勘弁してちょうだい。」
それじゃ母の二の舞じゃないの!
父親みたいなのに引っ掛かったら、不幸の連鎖だわ。
「どうしてもダメなら、最悪どっちか選べ」
「そうだな。とりあえず、相手が確定する方が安心じゃないか?」
致し方ないとばかりに、バカ狼の親子がアホな提案をしてくる。
「いやよ!まずガルフは、私の義父にもなるのよ?倫理的に嫌!無理無理!そして、マーカスは私の義兄よ?これは倫理的にギリセーフだけど、コイツが全ての元凶だと思ったらあり得ないわ」
プイッと私はそっぽを向く。
「とにかく、まさかの繁殖期がきたら、あんたたち二人を月まで蹴飛ばす。それ確定!」
とにかく何事もありませんようにと祈るのみだ。




