4 月の雫は願いを叶える強制アイテムでした
「で、お前はここに住むことになった」
「なによ、あなたのせいでこうなったの。しかも飛ばされて戻ってくる間に家も片付けてあげたわ。感謝してよね」
家の外には、呪術でも始めるのかと言わんばかりに、狩りを終えたあとの鹿、熊、虎、鷹などの頭が置かれている。
あれは、満月の夜に昂った二人の狼が、その結集した力で、一ヶ月分の食糧として狩った獲物の残骸だそうだ。
部屋に破られ散らばった服は、二人が満月の中雄叫びを上げて自分の服を破りすてたものだそう。
壊れた食器は、力がみなぎって砕けたもの。
「また明後日の満月で散らかるよ」
マーカスは、意味のないことをするという目で私を見る。
「あら?満月には、私も母並みに強くなるらしいから、二人で暴れるなら遠くに蹴り飛ばすわよ!」
私は、試しにその場で軽く片足でトンと地面を叩いてみる。
その瞬間、
ビュンッ、ガツン!
天井に吹っ飛び、頭を打つ。
「いったあああ、どうすればいいのよ。コレ」
「どうすればって?普通ここまで脚力に振り切ってないよな」
頭を押さえて涙目になる私を、呆れたように見下ろすが、振り切りたいわけではない。
「月の雫の力を侮ってはいけない。ちなみにソフィアは腕に振り切っていた。月のうさぎは餅つきが得意だからね」
ガルフは、そう言って再び家の壁を眺める。
そういうことですか?二人をしばくたびに壁に穴が空いたと……
私は、はぁっとため息をついた。
「それで本題だが、その月の雫は月のうさぎの願いを叶えてくれるものだ。君に渡した時には、ソフィアは生きていたから君と会うという目的で良かった。しかし、ソフィアがいなくなれば、その月の雫は次に使う月のうさぎの願いを叶えるものになる」
「私と会うことは母の願いだったから?」
「そうだ。普通はソフィアが亡くなれば何も起こらない。だが君も、潜在していただけで、月のうさぎだった」
「まさか!じゃあ、私の願いを叶えるために、私はうさぎになって失恋したってこと?むしろ、願いが叶わなかったじゃないの!」
「現時点では……だが、月には恐ろしい強制力がある、次の満月が危ない。」
「次?」
まだこれ以上、危ないことが?
次の満月は明後日……
「願いを叶える準備は整ってしまった。君は、このあと月の力を借りて満月の夜、君の希望を叶えるために勝手に動き出してしまう」
「私の願いって、私はただアレックスと結ばれたかっただけよ。それは獣人になって、叶わなくなった。勝手にどう動き出すのよ?」
「どうとでも動くさ。その脚力で、その王子を掻っ攫う。その王子を押し倒す。そして、その王子が他の女に心移りしていたら……」
マーカスはブルっと震える。
「そこで、言葉を切らないでちょうだい!」
こっちがブルっと震えちゃうわよ。
「全ては、君のうさぎの全ての力を持って叶えようとするだろうね。月の雫とはそういう代物だ」
「今から!今から願いを変えるわ。例えば美味しいものを食べるとか、豪華な家に住むとか、新しい出会いを求めるとか!」
「それが心からの願いなら、その健脚を使って美味しそうな食材を自ら狩るだろうし、豪華な家を一人で建ててしまうだろうし、新しい誰かを襲ってくるだろうね」
「いやあああああああ!」
いろいろ問題ありすぎじゃないかしら?
誰かがなんとかするんじゃないの?
自分で狩り取ってくるの?
「じ、じゃあ!私は求めるわ。あなたたち二人が私をなんとしてもここに留めるように願うわ」
そう、慌ててわなわなと震えて言うと、ガルフとマーカスが顔を見合わせる。
「それだけは、やめておいた方がいい」
「それが元で、俺とソフィアは結婚することになったんだから」
「どういうこと?」
ガルフの言い分はこうだ。
「満月の日に暴れ出す獣人はうさぎだけじゃない。俺たちもだ。俺とマーカスはお互い満月の夜に激しい親子喧嘩を繰り広げてしまった。その仲裁に入ったのが、人族から追い出されたばかりのソフィアだ。」
「つまり?」
「俺は親父から殺される前に、ソフィアに助け出され命拾いした。」
マーカスが、うっとりと感謝しているように母のことを語る。
「だが、俺は、その後ソフィアに連れ出され繁殖の餌食にあった」
ガルフは、抗えませんでしたと反省の弁を述べる。
3人の間に、なんとも言えない気まずい空気が流れる。
「いやあああああああああっ!」
私は、両手を頭に当てて叫ぶ。
なんで、母は、父だけじゃなくて狼も襲ってるのよ!
私が、暴れないように押さえてもらおうと思ったのに、二人を、それも親子を襲いかねないなんて!
「そ、それなら普通の人族に戻してっていうわ!それなら、心からの願いになるでしょう?」
そうだ!リセットだ。
元ある形に戻りたい。
それがいい!そう思った瞬間、心に影がさしていく。
元ある……でも、それは……無理。
私が獣人と人族の子供だった事実は消えない。
アレックスを騙して失望させてしまった事実も……父のせいにしているけど、こう言う結果を恐れて言わないで結婚できるならと思った私がいたのも事実。
それに……父の元に戻りたいとは思わないわね。
それこそ、ざまあにフルボッコにしたい要望はあるけど。
「とりあえず、脚に鎖巻いておくか?」
「そうすれば、俺たちの貞操は守られる……」
「私の貞操は?あんたたちだって狼でしょ」
むむっ!
私たち3人は固まる。
「月の光を塞いで、家に月の光さえ入れなければどうなの?」
「それしかないな!俺たちも乗りかかった船だ!」
「その間の二日間、心からどうでもいいことを願え!それしかない」
私たち3人、誰が満月に反応しても破綻する。
家の壁は更に石を積んで厚く
窓という窓は覆い尽くす
ものというものを外で燃やし尽くしてキャンプファイアーしてしまう。
がらんと何もなくなった家の中で、後は祈るのみ!




