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婚約破棄破棄されたので流行らない喫茶店をはじめました  作者: みずとき かたくり子


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97話 監視者?観客?

97話 監視者?観客?


 レストランにて


高台に佇む名店は、夜景を抱く宝石箱のようだった。

天井のシャンデリアが柔らかく揺れ、雪乃と王子のテーブルを温かく照らしている。


「雪乃さん、こちらのお料理……お気に召しましたか?」


王子は真っ直ぐな眼差しで問いかけた。


「ええ、とても美味しいですわ。このソース……本当に絶妙ですね」


雪乃は上品にナイフとフォークを置く。

その所作一つで周囲の空気が澄むようだった。


王子は満足げに微笑み、ワインを軽く揺らす。


「この店は王都随一と聞いています。しかし……雪乃さんがそう言ってくれるのなら、間違いありません」


雪乃は照れ隠しのように視線を逸らした。


「こんな素敵な場所に招いていただいて……少し気が引けます。私には贅沢すぎる気がして」


「そんなことはありません」


王子の声音が、ひときわ深まる。


「むしろ……この程度では不足です。あなたをお招きするには、もっと特別でなくては」


雪乃は一瞬だけ目を見開き――すぐに柔らかな微笑へ戻った。


「……過分なお言葉ですわ」


二人の間で、柔らかい空気がふわりと揺れた。



---


 雪の庭にて


一方その頃――「雪の庭」では。


花の魔ドローン《ぴよぴよさん》が映す高画質映像が、巨大モニターいっぱいに広がっていた。


「……これ、完全にデートですよね?」


忍の呟きに、月が即反応する。


「ちょっと! そういう断定はダメ!」


だが花は、操作パネルをいじりながら淡々と言い放つ。


「でもさ、王子が雪姉様を好きなのは確か」


クラリスが顔を赤らめ、胸元を押さえた。


「なんだか……すごくロマンチックです……」


弥生は一応の良心で口を挟む。


「花様、これ以上の盗聴は……倫理的にどうかと」


「え? そんなこと言っても…みんな画像に釘付けだし」


花は悪びれもせず《ぴよぴよさん》の音量を上げた。


月も頭を抱えながらも、モニターからは目を離さなかった。



---


再びレストラン


『こうしてお話すると、雪乃さんが“ただの店長”ではないと分かります』


「まぁ……普通の店長とは少し事情が違いますから」


雪乃はさらりと返す。

本来の身分を多く語る必要はない――それが彼女の自然な矜持だった。


王子は真っ直ぐに彼女を見つめる。


『だからこそ……こうして共に過ごす時間に価値があるのです』


雪乃は小さく息を呑む。


「そう言われると……期待に応えなければと緊張してしまいますわ」


『緊張なさらずに。今日は立場も肩書きも関係なく……あなたと向き合いたいだけです』


「……そう、ですか」


雪乃はゆっくりと頷いた。

控えめな笑みの奥に、ほんの少しだけ心が揺れた気配があった。



---


◆再び雪の庭


「なにこれ……やっぱりデートでしよ」


忍が呟く。


「だから言い切らないでって言ってるでしょ!」


月は叫びつつも眉間にしわを寄せ、分析を開始した。


「いい? 王子は完全にデート気分。でも……雪姉様は“お詫びの食事”としか思ってないの」


弥生が目を瞬かせる。


「え? でも、こんなに雰囲気良いのに?」


「雪姉様は、自分が特別扱いされる理由を“店長だから”“立場上だから”で全部片づけちゃうのよ。

 恋愛感情? そんな発想ないの」


忍がさらに混乱する。


「ここまでストレートに誘われても?」


「王族の礼儀は過剰演出、って理解しちゃってるのよ。だから恋愛だなんて想像しない」


クラリスがぽつり。


「……つまり、天然……?」


花が淡々と補足する。


「というより雪姉様、鈍感…」


弥生は頭を抱えた。


「じゃあ……王子の努力、全部空振り……?」


「今のところはね」


月は肩をすくめて苦笑した。


「でも本気で押し続けたら……いずれ雪姉様も気づくかも」


花はモニターをじっと見つめ、小さく呟いた。


「……王子、がんばれ」


その一言に、全員は顔を見合わせ――

結局、誰も異論を唱えられなかった。


みんな、密かに同じ結論にたどり着いていたのだ。


“雪姉様の恋……少しぐらい応援してもいいかもね。”




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