96話 小鳥騒動と優雅なる特別空間
96話 小鳥騒動と優雅なる特別空間
特別な客だけが招かれる高級レストラン。
淡い光に満ちた空間は、静謐で、完璧で、まるで絵画のようだった。
――そこに、その事件は起きた。
「こ、小鳥が侵入しました!」
控えめにしてなお切迫した声が、ホールスタッフの口から漏れる。
特別空間に動物が迷い込むなど、店の名誉にも関わる大事件。
スタッフたちは騒ぎを起こさぬようにしながら、素早く店内を見回った。
「天井に……いないか?」 「カーテンの影では?」 「照明付近を確認!」
冷静を装いながらも、彼らの目は必死だった。
……しかし、小鳥の姿はどこにもない。
「……見間違い、だったのでは?」 「そうであってほしい……」
誰もが事件の早期幕引きを願うなか――。
当の“侵入者”は天井梁の上でじっと羽を休めながら、周囲の混乱など意に介さず翼を震わせていた。
その名も、《魔ドローン・ぴよぴよさん》。
花が趣味と天才の暴走で作った、光学迷彩・小鳥型マジックアイテム。
店の照明環境では、まず見つけられない。
そして今、ぴよぴよさんはひっそりとカメラを回し、
雪乃と王子の優雅な食事を“完璧に”記録していた。
---
◆雪の庭・盗聴劇場、開幕
その映像はリアルタイムで「雪の庭」に送信されていた。
月がモニターを覗き込み、じと目を向ける。
「ねぇ花……これ、本当に“観察用”って言ったけどさ。どう見てもスパイ機材だからね?」
「えへへ。でも便利だよ? 見て、ほら、ちゃんと映ってる」
無邪気に笑いながらぴよぴよさんを操作する花。
モニターには、上質な席で向かい合う雪乃と王子の姿。
クラリスは思わず頬を押さえた。
「す、すごい……本当に見えてます……」
花はさらにポシェットから小型スピーカーを取り出し、配線を繋ぐ。
「はいっ、これで音声も拾えるよ」
「花ぁぁぁ!!」
月がつい叫ぶ。
「音声を拾ったら、それ盗聴だから!完全にスパイだから!!」
「だって気になるでしょ? 雪姉様、王子と何話してるのかなぁって。
それに、月姉様たちだって尾行しようとしてたじゃん」
「……うぅ、それは……」
沈黙するしかない月。
花は気にした様子もなく、スイッチを入れた。
---
◆盗聴スタート
スピーカーから、落ち着いた声が流れ出す。
『今日はお越しいただき、ありがとうございます。雪乃さん』 『こちらこそ。素敵なレストランですね』
「おおお……本当に聞こえる……!」
忍が感動で目を輝かせる。
「花様……完全に趣味が悪いです」
弥生は呆れたようにため息をつく。
「いやでも!何かトラブル起きたら即対応できますし!」
忍はなぜか前向きだった。
「対応って……そもそも問題を起こさせない方がいいのよ……」
月は頭痛を押さえる。
しかし画面の中では――。
王子が穏やかに微笑み、雪乃のグラスへ静かに飲み物を注いだ。
『雪乃さんは、こういう場所が本当にお似合いだと思います』 『そんな……でも、ありがとうございます』
「きゃー……!」
クラリスは頬を染め、完全に視聴者モードへ突入。
花が誇らしげに胸を張る。
「ちゃんと綺麗に映るでしょ。音も聞こえる」」
「花……お願いだから、二度と悪用しないで……」
月が心底不安げに言う。
「大丈夫。慎重に使ってるよ~」
――その「慎重」という言葉に、全員が同時に首を傾げたのは言うまでもない。
---
◆一方その頃、レストランでは
スタッフたちはまだ店内をくまなく探していた。
「……やはり見間違いでは……?」 「いやしかし、確かに羽音が……」
残念ながら、本物(?)の小鳥は今も天井梁の上で元気に撮影中である。
もちろんスタッフたちは、
まさか今この瞬間もスパイ活動が続行中だとは夢にも思わなかった。
静謐と品格を誇る最高級レストラン。
その裏で、妹たちの“趣味の悪い観察会”が密やかに展開されているのであった。
---




