95話 馬車のお迎え ピヨピヨ大作戦
95話 馬車のお迎え ピヨピヨ大作戦
閉店後の静けさと、煌びやかな訪問者
「本日の営業も終了です。お疲れさまでした」
弥生の声が店内に響き、短い営業時間を終えた「雪の庭」は片付けモードへと移行した。
すると――
カララン……
閉店直後のはずなのに、扉に吊るされたベルが響いたわけではない。
店の外に止まった“輝く何か”に、皆の視線が吸い寄せられたからだ。
店の前に止まったのは、宝石のように装飾された馬車。
月が小声で「夜でも眩しい馬車なんて、あの人しかいないわね……」と呟く。
そして馬車から降り立ったのは――
第一王子。
凛とした気品を漂わせながら雪乃の前に立つと、恭しく一礼した。
「お迎えに参りました、雪乃店長」
差し出された手はまるで絵画のように美しい。
雪乃はエプロンを外しながら、さらりと笑う。
「営業時間が短いって、こういう時には便利ですわね」
「ふふ、そう言っていただけると嬉しいです」
そう返す王子の頬は、わずかに紅潮していた。
---
尾行を企む妹と店員たち
店内では、全員が“後片付けの手を止めずに”見ているふりをしながら、視線は完全に外へ。
「お二人、本当に絵になりますね……」
弥生がうっとり。
「でも、もし何かあったら?」
忍は真剣な目で状況を見つめる。
クラリスとセリーヌは緊張した表情で頷き合う。
そして月は――腕を組み、冷静に見えるが、その目はメラメラしていた。
「……妹として見守る責任があるわよね。王子の意図が純粋なのか、確かめないと」
「護衛を兼ねて尾行ですね!」
弥生がすかさず拳を握る。
「……尾行て」
忍が冷静に突っ込む。
しかし、止めようとする者は誰一人いない。
そんな中、花だけがやれやれと呆れたため息をついた。
「みんなでゾロゾロついていったら、バレバレだよ」
「じゃあ、どうするの?」
月が眉をひそめる。
花は小さなポシェットを開き――
「雪姉様を追って、ぴよぴよさん」
ピヨ。
手に乗っていた茶色い小鳥が羽ばたき、夜空へ飛び上がる。
同時に、店の壁に鮮明な映像が浮かび上がった。
「な、何これ!?」
クラリスが目を見開く。
「『魔ドローン・ぴよぴよさん』。追跡も録画もできて、絶対に気づかれないよ?」
花は得意顔。
忍が額を押さえる。
「花様……本当に、ただの子どもじゃないですね……」
月も呆れつつ安心したように微笑む。
「まあ……これなら、遠くから見守れるわね」
こうして尾行計画は、追跡盗撮へと華麗に進化した。
---
馬車と絶景のレストラン
ぴよぴよさんの映像には、雪乃を乗せた馬車が王都を進む姿が映し出される。
一方、馬車の中。
「今日は私のわがままに付き合わせてしまったな」
「わがままではありませんわ。誘ってくださって光栄です」
雪乃は微笑んで答えたが、その頬にはほんのり緊張の色が宿る。
やがて馬車は丘の上のレストランへ。
「さあ、こちらへ」
王子の手を取り馬車を降りた雪乃は、目の前に広がる光景に息を呑んだ。
「……まあ」
眼下の王都は宝石箱そのもの。
無数の光が瞬き、港町まで続く光の帯が幻想的な夜景を描いている。
「夕暮れから夜にかけてが一番美しいのです。お気に召したでしょうか?」
雪乃はしばし見つめ、
「……素敵ですわ。こんな場所があったなんて」
その横顔を見て、王子の微笑みがさらに深まった。
---
堂々たる第三王女、現る
レストランの扉が開くと、整列したスタッフが一斉に深い礼を送る。
しかし雪乃は――
その空気を当然のように受け止め、堂々と歩を進めた。
“第三王女”として育った気品は、隠そうとしても滲み出る。
「随分と物々しいお出迎えですね」
軽い皮肉を飛ばす雪乃に、王子は照れ笑いを浮かべた。
「あなたを迎えるなら、このくらい当然です。……雪姫様」
「やはり、お気づきでしたか」
「もちろんです。ここの者たちも、あなたに敬意を払っておりますよ」
スタッフの目に、確かに尊敬の色が宿る。
「貸切……ですの?」
「いえ。一日ランチ一組、ディナー一組のみが利用できるレストランです」
「……特別感がすごいですわね」
「ええ。あなたを招くために用意しました」
雪乃はそっと微笑み、目を伏せる。
「……光栄ですわ」
窓の外の夜景は、まるで二人を祝福するように広がっていた――。
---




