94話 野次馬計画
94話 野次馬計画
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開店の朝と“バレバレな変装”
いつものように月は店の外へ出て、丁寧に開店ボードを立てかけた。
「お待たせしました――雪の庭、開店です」
鈴のように透き通る声が朝の通りに溶けていく。
すでに列ができていた客たちの最前列には、
“変装している”つもりの第一王子の姿が。
月は(バレバレなんだけど)と内心で突っ込みつつも、外面は完璧な笑顔で対応した。
王子は軽く会釈を返し、開店と同時に店内へ。
迷うことなく、いつもの席で紅茶を楽しんでいた雪乃のもとへ一直線に向かった。
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唐突な申し出
「雪乃店長」
不意にかけられた声に、雪乃はカップを置き、ゆったりと振り返る。
「……王子様?」
“変装失敗”を悟ったのか、王子は照れたように微笑み、深く頭を下げた。
「先日の件の謝罪も兼ねて……ぜひ、僕と食事に行っていただきたい」
「……食事、ですの?」
雪乃はまるで猫のように小さく瞬きを繰り返す。
本人は戸惑っているが、王子のほうはすでに全て段取り済みらしい。
「落ち着いたレストランを予約してある。君が気に入ってくれると嬉しい」
「えっ……もう予約を?」
「もちろんだ」
雪乃の目がさらに丸くなる。
「ずるいですわ……」
そう呟きながらも、断る気配はない。
王子の柔らかな眼差しに押されるように、そっと頷く。
「……では、お言葉に甘えて」
王子の顔が、ぱっと明るく輝いた。
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聞き耳全開の店員たち
店員たちはそれぞれ持ち場で忙しく動いている――ふりだけしている。
全員の耳はしっかり雪乃と王子へ向いていた。
「第一王子が……食事に誘うなんて。ものすごいことですよね」
弥生が忍にささやく。
「ええ。……花様まで聞き耳立ててますよ」
視線をやると、花が机に肘をつき、わくわくした顔で二人を見ていた。
「月姉様、これって……雪姉様が王妃になるかもしれないってこと?」
「気が早いわよ!」
月は思わず額を押さえた。
「だって、王子って結婚したら王妃を迎えるんでしょ?」
「そうだけど……雪姉様は何もわかってないのよ。ほんとに」
花はしばらく考えてから――
「……つまり、雪姉様って鈍感?」
「だから声を大にして言わないの!」
月が慌てて花の口を塞ぐ。
忍はぽそり。
「いや……ほんとに鈍感ですよね」
「ね……」
弥生も苦笑で同意。
「ちょっと! そこ肯定しない!!」
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妹たちの作戦会議(正式名称:尾行)
王子と雪乃の会話は和やかに続き――
その裏で妹たちの“重大議題”が始まっていた。
「これは……妹として見守らないとね」
月が腕を組み、真剣に言い出す。
「護衛のため、尾行が必要ですね!」
弥生が力強く同意。
「尾行て……」
忍が呆れながらも腕を組む。
「しかし……心配なのは確かです。第一王子と二人きりなど、前代未聞」
クラリスとセリーヌが勢いよく手を挙げる。
「「私たちも同行します!」」
「……全員、ただの野次馬じゃない?」
花が冷静なツッコミを入れる。
「ちがうわよ!」
月がビシッと振り返る。
「これは“姉を思う妹の責任”なの! 立派な使命よ!」
「でも、月姉様も興味あるだけだよね?」
「っ……そんなことない……はず……」
「……」
(図星だ)と花は心の中でため息。
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尾行計画、発動
「ともかく!」
弥生が手を叩く。
「雪乃様を一人にはできません! 私たちがしっかりお守りしましょう!」
「「はい!」」
クラリスとセリーヌの返事は軍隊並みの勢いだ。
忍は小さく笑い、月は満足げにうなずく。
「これで完璧ね」
(完璧なのは尾行計画じゃなくて、野次馬魂なんだけど……)
と花はこっそりため息。
こうして――
王子と雪乃の食事会を“見守る”(建前)尾行作戦は、誰にも止められないまま動き出した。
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