92話 動かない姉と、動きだす天才
92話 動かない姉と、動きだす天才
昼どき。
店内はスイーツの甘い香りと、お客様たちの楽しげな声で満ちていた。
厨房では月と弥生がフル稼働。
フロアは忍・セリーヌ・クラリスの三人が必死で回している。
その瞬間だった。 接客の手が一拍遅れ、テーブルに小さな空白が生まれる。
その“隙”を見逃さなかったのは、誰でもない。
雪乃の隣で魔導回路を描いていた、小柄な天才――花が、静かに立ち上がった。
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◆ 小さな影、戦場へ
花は紙をテーブルに置くと、ちょこちょこと客席へ歩いていき、
「ご注文をお受けいたします!」
透き通る声と、太陽みたいな笑顔。
その瞬間――店内の空気がふわっと変わった。
「えっ、かわいい……!」「店員さんの妹?」「天使きた……?」
あちこちのテーブルから歓声が上がり、
花はあっという間に人気者となった。
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◆ 店員たちの動揺
「は、花様!? お待ちください!?」
忍が慌てて追いかける。しかし花はにこにこしながら、
「みんな忙しそうだったから。少しだけ、お手伝い!」
と元気に答える。
セリーヌはおろおろ、クラリスは苦笑しながら呟いた。
「……花姫様、意外と接客向いてるのかもしれませんね」
可愛いは正義である。
しかも相手は天才魔導師の姫。
もはや敵うはずがない。
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◆ 月の苦笑
厨房から顔を出した月は、客席で愛想を振りまく花の姿に思わずため息を漏らす。
「花……あなた、自由すぎるわ……」
弥生は小声で笑った。
「でも、本当に接客の天才ですね。お客様、みんな笑顔です」
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◆ 花人気、爆発
「花ちゃん、こっちお願い!」
「花ちゃんが持ってきて~!」
次々と声が飛ぶ。
「はーい!」
花は嬉しそうに返事しながら客席をくるくる回る。
――が、厨房の月は別の意味で青ざめていた。
(……可愛い。でも目立ちすぎる。
もし“スタードール”の店長がここを見ていたら――)
忍が横からそっと囁く。
「たしかに……あの人なら、花様をスカウトしかねません」
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◆ 月、華麗なる防衛線
「花ちゃんお願い!」
と客が声をかけた瞬間。
月がすっと前に出る。
「ご注文、私がお伺いします」
微笑みながら、柔らかく、しかしきっぱりと。
「花はまだ小さいので、あまり無理はさせられないのです。どうぞご理解くださいませ」
「あ……もちろんです。あなたも素敵なお姉さんですね」
月は自然に視線を自分へ引き戻し、場を整えていく。
フロアはふたたび穏やかな空気へと落ち着いた。
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◆ 姉妹の攻防
「月姉様、過保護すぎる……」
花がむくれたように頬を膨らませる。
月は苦笑しながら、そっと頭に手を置いた。
「倒れたら意味ないのよ。あなたを守るのは、姉の仕事だから」
花は口を尖らせつつも――言い返せなかった。
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◆ 動かない姉の見解
カウンター奥では、いつも通り動かない店長・雪乃が紅茶を飲みながらぽつり。
「花がすごいのは、計算してないからよ。あの子はただ“いいと思ったこと”をそのままやってる。それが魅力になるの」
「……それが一番危険なのよ、雪姉様」
月がため息をつく。
雪乃は“店長”のくせに、今日もまるで動く気配がない。
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◆ 忍と弥生の結論
「本当に……月様がいなかったら花様に店を乗っ取られてますね」
「でも、あの二人がいれば大丈夫ですよ。この店は最強です」
二人は同時に頷いた。
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◆ そして、雪乃は動かない
「月さんもかわいいよー!」
客からの声に月が赤面している隣で――
雪乃はにやっと笑った。
「……私もそろそろ店の役に立とうかしら」
弥生が即座に言い返す。
「今日こそ、本当にお願いします」
「私はここで“癒し”を提供してるの。それも大事でしょう?」
弥生は無言で天を仰いで戻っていった。
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◆ 雪の庭、今日も平常運転
花の無邪気な笑顔。
月の絶妙すぎるフォロー。
雪乃のマイペースな店長ぶり。
三者三様の魅力が絡み合い、店は今日も笑顔と甘い香りで満たされる。
――そして「雪の庭」は、いつも通りにぎやかで、幸せな一日を紡いでいくのだった。




