91話 開店宣言と、雪の庭の朝
91話 開店宣言と、雪の庭の朝
朝の街路に、ひんやりとした空気が流れていた。
「雪の庭」の扉を開け、月が一歩外へ踏み出す。
その姿は、まるで一幅の絵のように整っていた。
動作の一つひとつが美しく、品があり、背筋はすっと伸びている。
人は思うだろう――この店、天使が仕切っているのかと。
月は開店板を静かに掲げ、くるりと振り返った。
その瞬間、声が通りに澄み渡る。
「――『雪の庭』、開店いたします」
並んでいた常連客たちは、その声だけで幸せそうに微笑んだ。
「お、今日も来てよかったな」
「スイーツの匂いがもうしてくる…!」
月は深々と優雅に頭を下げる。
「本日は、ガトーショコラと紅茶をご用意しております。どうぞゆっくりお過ごしくださいませ」
その笑顔は、寒い朝を一瞬で春に変えるほどの力がある。
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◆ 月の接客、完璧という名の芸術
ひっきりなしに入店する客たちを、月は一人ひとり丁寧に迎える。
「いらっしゃいませ。お席はこちらです」
「本日の紅茶は風味がまろやかですので、ガトーショコラとよく合いますよ」
その声に、客は自然と顔をほころばせる。
――店の空気が明るく華やぐ理由は、言うまでもなかった。
一方、カウンターでは。
雪乃が紅茶をすすり、
花が隣で魔導回路の線をさらさらと描き続けている。
「今日も月姉様、絶好調だね」
花が微笑むと、雪乃は目を細めた。
「ええ。本当に頼りになるわ。私はゆっくりしていられるもの」
――この姉を見て「店長」と認識する者は、おそらくいない。
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◆ 賑わう店内と、虚空を見る店長
客足は開店直後から止まらず、席はほぼ満席。
「ここ、本当に落ち着くよなぁ」
「ガトーショコラだけで来る価値あるわ」
そんな声が飛び交う中――
雪乃はというと、紅茶を片手にふんわり微笑みながら、
「やっぱり月が仕切ると安心ね。私、店長って感じがするわ」
と、誇らしげに胸を張る。
花がペンを止めて、じとっと見つめた。
「……それで本当に店長なの?」
「もちろんよ。姉としての権限があるもの」
(店長職って、姉妹制度だったっけ?)
忍と弥生は、思わず目で会話する。
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◆ 雪乃、まさかの接客
そんな中、扉が開く。
「いらっしゃいませ」
――雪乃が立ち上がった。
弥生は持っていた皿を落としそうになり、
忍も思わず二度見した。
「自分から接客……!?」
「お嬢様、どうされたんでしょう……?」
雪乃は優雅に案内し、客は嬉しそうに頬を紅潮させている。
「す、すごい……」
「雪乃様の接客って、なんだか……貴族の舞踏会みたい……!」
月でさえ、思わず笑みを漏らした。
「まあ、たまにはこういうのもいいね」
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◆ しかし、店長タイムは一瞬だった
――雪乃の接客は、開店後わずか数十分。
店内が落ち着くと、彼女はすっと定位置に戻り、紅茶を淹れ直した。
「ふぅ……働いたわ」
「一瞬じゃないですか!!」
(まさに雪白じゃない…)口には出せない。
ジパング門外不出の紅茶七品種の一つ
雪乃イメージの茶葉 最高の香りと味を誇りながら一瞬で飛んでしまいただのお湯になる。別名怠惰な茶葉…その意味を反芻する弥生。
弥生が突っ込み、忍が天を仰ぐ。
「少しは店長らしく……!」
雪乃は気にしない。
「月がいるから大丈夫よ。ね?」
「……まあね」
月は肩をすくめつつも、顔はどこか誇らしげだった。
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◆ 花の無邪気な総括
花はペンを動かしながら、ぽつり。
「雪姉様らしいけど、月姉様は大変そう」
雪乃が微笑んで花の頭をなでる。
「大丈夫よ。月はこれが似合ってるんだから」
「任せて」
月は静かに微笑み、また客席へ向かった。
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◆ 雪の庭の朝は、いつも通り優雅に始まる
注文の声が飛び交い、
スイーツの香りが客を満たし、
スタッフは軽やかに動く。
そして、
月は凛と輝き、
雪乃は紅茶と優雅に寄り添い、
花は魔導回路を描き続ける。
――今日も「雪の庭」は、美しい日常で満たされていた。




