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婚約破棄破棄されたので流行らない喫茶店をはじめました  作者: みずとき かたくり子


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90話 雪乃店長復帰


90話 雪乃店長復帰

 その朝、「雪の庭」には少しだけ特別な空気が漂っていた。

 ――店長、雪乃の“復帰日”だからである。


 もっとも。


 雪乃本人は復帰初日だというのに、

 カウンター席に座った瞬間、いつも通りぼんやり遠くを見つめていた。


「……今日も平和ねぇ……」


 まるで三日ぶりの出勤ではなく、

 いつも通りの“お昼寝前の準備運動”くらいのテンションである。


 忍は、そっと額を押さえた。


(……はい、いつも通りですね店長……)


 唯一張り切っているのは、月だ。


「ふふっ。雪姉様、今日からまた店長なんだから、無理しないでいいのよ?

 お店のことは、全部わたしに任せて♡」


 姉への甘やかしが過保護レベルである。


 雪乃はというと――

「じゃあ、月に任せるわ」

 と、秒で甘えた。


 忍と弥生は、同時に深いため息をつく。

 月という存在で、雪乃は、さらに全く何もしなくてすむようにになってしまってるのだ。

((それで本当にいいと思ってるんですか店長ォ!!))



 ---


 ■月が仕切り、姉は甘え、スタッフは苦労する


 この店が何事もなく回っているのは、ほぼ月のおかげだ。


「忍、今日のデザート提供、タイミングずらしてね。

 弥生は奥のテーブルから優先でお願い」


「はいはい、了解です……」

「かしこまりました」


 店長・雪乃の復帰により、何も変わらないどころか、

 月の指揮力がさらに上がったという謎の現象が起きていた。


 雪乃は、そんな妹の働きを見守りながら、マグカップを片手にぼんやり。


「……月は優秀ねぇ……」


 その横で、忍の心の声が聞こえる気がした。


(働かない店長に優秀な妹……!構図が強すぎる……!)



 ---


 そして花は、今日も“天才”


 一方その頃、雪乃の隣には、ちょこんと花が座っていた。


「……」


 無言で紙に何かを書き続けている。


 花が熱心に描いているのは――

 不思議な曲線と、複雑に絡み合う線の数々。


 弥生が恐る恐る覗きこむ。


「花姫様、今日は……その……お絵描きですか?」


「うん。構造が浮かんだから、形にしてるだけ」


「構造……?」


「うん。魔導回路のね」


「――――」


 店内の空気が、止まった。


 だが誰も、それが一流の魔導技師でも解読できない精密設計図だとは気づいていない。


 ただ一人、雪乃だけがふわりと笑った。


「花の描くものは綺麗ねぇ……。何だか流れるみたいで和むわ」


 隣で月が、さらりと爆弾を落とす。


「雪姉様、それたぶん“和む”どころか、国が動く技術よ?」


「そうなの?」


 雪乃はまったく動じない。


(この姉妹の感覚は、一般と一致する日は来ない……!)



 ---


 雪の庭、今まで以上に今日も平常運転


 結局、店長が復帰しても、

 働くのは月とスタッフ、好きなことをするのは花、

 そして雪乃はカウンターでぼんやり。


 店長としての仕事とは――

 **“店に存在し、優雅に座っていること”**らしい。


 それでも、


「いらっしゃいませー!」


 月の明るい声に客が笑顔で応じ、

 忍と弥生が軽快に動き、

 雪乃と花が並んで静かに過ごす姿に、客もどこか安らいでいく。


 ――不思議とこの店は、今日も完璧に回っていた。


 

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