第84話:雪乃の帰還と天才(天災)の来襲 2
第84話:雪乃の帰還と天才(天災)の来襲 2
雪乃の視線が、ふと花の背中に向けられた。丸い布包み――だが、どう見ても子どもが背負うレベルではない大きさだ。
「花? その大荷物、何を持ってきたの?」
問われた花は無言でしゃがみ込み、布包みを床に降ろした。
――ゴトン。
重みを感じさせる鈍い音が店内に響く。
「は、花様……?」
弥生が恐る恐る覗き込む。
花は淡々とした顔で布をほどいた。
現れたのは、金属の塊……しかし、ただの金属ではない。
「説明する」
花はすっと立ち上がり、指先で金属部分を軽く叩いた。
「これは、沸騰水を加圧して抽出するマジックアイテム。圧はだいたい九から十気圧。コーヒー用」
クラリスの口が開いたまま止まる。
「そ、それって……もしかして……エスプレッソ抽出器ってことですか!?」
「そう」
短い肯定が返ってきた。
「て、手作り……なんですか?」
クラリスの問いに、花は当然とばかりに首を傾げる。
「うん。作った」
「つ、作ったぁ!?」
店内の声が揃って跳ね上がった。
雪乃は花の頭を軽く撫で、苦笑混じりに言う。
「この子、マジックアイテム作りに関しては天才なのよ」
「天才どころじゃ……」
忍は呆然と呟いた。
月は誇らしげに胸を張る。
「私たちの妹だから、当然ね!」
弥生がはっとしたように雪乃に問いかけた。
「はっ!店の冷凍ストレージの製作者
?」
「ええ。あれも花の作品よ。あと、他にもいくつか便利なものをもらってるわね」
クラリスが信じられないといった声を漏らす。
「これほどの技術をお持ちなのに……どうして王宮や研究機関ではなく、ここに?」
花はきょとんとして答えた。
「興味ない。研究発表とか式典とか、人が多いの苦手」
淡々と語ったその一言に、店員全員が心の底から納得した。
「……姉妹そろって自由すぎる……」
忍の呟きに、弥生も無言で頷くしかなかった。
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■ 発酵管理の救世主、現る
花は今度は布包みの奥から、四角い箱状の物体を取り出す。
「これ、お土産二つ目」
「これは……?」
弥生が覗き込む。
「保温ストレージ。設定した温度を一定に保てる。発酵用」
その瞬間、クラリスの瞳が星のように輝いた。
「発酵!? つまり、パン生地の温度を安定させられるって……?」
「できる」
「すごい……!」
弥生も思わず感嘆の声を漏らす。
「発酵ってほんの数度違うだけで失敗しますから……これは本当に革命ですよ!」
「雪乃様や月様の作業も、これで格段に楽になりますね」
忍がしみじみと呟いた。
雪乃はためらいなく感心のため息をつく。
「やっぱり花は天才ね……店がますます楽できそうだわ」
「任せて。改良案、まだ三つある」
花はさらりと言った。
その自信満々な笑みは、確かに希望をもたらす。
――だが同時に。
(あぁ……予測不能の嵐がまた一つ増えた……)
弥生と忍は心の中で同時にため息をついた。
こうして、“超天才の妹”の参入によって、「雪の庭」はまた一段と騒がしく、そして賑やかになっていくのだった。




