81話 さらなる混乱と、とどめを刺しにいく月
81話 さらなる混乱と、とどめを刺しにいく月
◆開店前の異変
翌朝のスタードール本店前――。
早朝のはずなのに、店の前には異質な熱気が満ちていた。
まるで王族の婚儀でもあるかのような人だかりが、通りを埋め尽くしている。
「今日は“雪の庭”のパネットーネが提供されるって聞いたぞ!」 「限定だって! 急げ、すぐ売り切れるぞ!」
月が派手に宣伝していたのだ
オベラやザッハトルテ、タルトタタンでたくさん客を集め、それらは、口コミで広がるものの雪の庭では、もう提供されないが、それがスタードールで提供されることを月が派手に宣伝していたのだのだ。雪乃のときは、雪の庭で提供されたメニューが直後にスタードールに提供されることは、なかったので、ここまでここまで熱狂は発生しなかった。しかし、月は、その新しいスイーツへの興奮が冷めやらなぬ直後にスタードールに提供したうえスタードールから提供されると宣伝したのだ。
噂は一晩で街中を駆け巡り、誰もが興奮を抑えきれない様子だった。
スタードールのスタッフは、引きつった笑顔で顔を見合わせる。
「こ、こんな人数……聞いてませんよ!」 「仕込み分なんて、開店五分で消えますって!」
そして、開店の鐘が鳴った瞬間――
客が雪崩れ込む波が、店内を飲み込んだ。
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◆追いつかない厨房
厨房は、すでに戦場だった。
「パン、パネットーネ!? 次焼けるのは十二時間後だってば!」 「ザッハトルテのチョコが固まらない! あっ! リンゴ切らした!」 「オペラの層が崩れていくぅぅぅ!!」
焦げた匂い、甘い香り、絶望の叫び声――
混じり合って、もはやカオスと化していた。
パティシエたちは汗だくで動き回り、次々と皿を出していくが――
「完売です!」 「こちらも完売しました!」
完売札が立つ速度の方が早い。
厨房の隅で、若いパティシエが壁にもたれてつぶやいた。
「これ……明日まで身体が持ちませんよ……本気で……」
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◆店長・アルベルトの決断
「店長! 仕込みのスイーツ、すべて完売です!」
アルベルトは、硬直したまま答える。
「……なんだと?」
「追加は絶望的です。このままではクレームが殺到します!」
報告を受け、アルベルトは深く頭を抱えた。
「…………仕方ない。今日は……早めに閉店する。もうこれ以上は無理だ。」
その決断は、まさに“敗北宣言”だった。
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◆閉店騒動
突然の閉店アナウンス。
店内は一瞬静まり――そして爆発した。
「ふざけるな! これじゃ食べられないじゃないか!」 「雪の庭ではこんなこと一度もなかったぞ!」 「スタードール、もう終わりなんじゃない?」
怒りの声が渦巻き、スタッフは泣きそうな顔で謝罪を繰り返した。
厨房では、パティシエたちが魂の抜けた表情で床に座り込む。
「……続けられないな……こんなの……」 「誰だよ……あんな鬼レシピ持ち込んだのは……」
その声を背に、アルベルトはゆっくりと店長室へ戻る途中で足を止めた。
(……まさか。月。
あの少女……最初からこの未来を読んでいたというのか……?)
彼の背中は、敗残兵のように重かった。
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◆月の庭・閉店後
一方そのころ。
月の庭では、月が優雅に紅茶のカップを傾けていた。
「ふふ……予想通りの展開ね。スタードールも、少しは身の丈を理解したかしら。」
弥生は青ざめて尋ねる。
「月様……あれも計画していたんですか……?」
月はにこりと微笑む。
「当然よ。あの店でも毎日全種類を出せるはずないもの。
だから“お客様が全部頼みたくなるように”仕向けてあげただけ。」
忍が顔をゆがめる。
「……ですが、混乱は想像以上でした。やりすぎでは?」
月は軽くウインクした。
「大丈夫よ。相手が欲張ったのが悪いの。私はほんの手助けをしただけだもの。」
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◆月の正論(?)
弥生が小声でつぶやく。
「……でも、スタードールが逆恨みしてきたら……?」
月はキョトンと目を丸くした。
「逆恨み? どうして?」
「えっと……あの……色々と……」
「私、感謝されるようなことしかしてないのだけど?」
忍と弥生は同時に固まった。
「だって、あのレシピも酵母も“無償提供”したでしょ?
さらに“あの人気スイーツがスタードールで食べられる”って広めてあげたのよ?」
「……」
「むしろ、“ありがとう月様”って言われたいくらいよね。」
忍は叫んだ。
「月様!! それ全部“罠”ですよ!!」
月はケロッと笑う。
「罠じゃないわ。ただの“現実”よ。」
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◆真意と使命
弥生が不安そうに尋ねる。
「雪乃様が知ったら……きっと怒られますよ……?」
月は一瞬だけ目を伏せ――
そして優しく微笑んだ。
「え?どうして?スタードールにたくさんお客様を送り込んで雪姉様の理想の静かなお店にしたのよ」
そして勢いよく立ち上がった。
「さ、次の新作を考えなきゃ! お客様もしばらく落ちつくし、もっと手の込んだものを出そうかしら?」
弥生と忍は肩を落とし、互いに目を合わせた。
「……理屈は正しいんですけど……怖いですね。」 「ええ。でも……姫様の妹ですから。」
そして二人は、心の底から祈った。
(――雪乃様、どうか一刻も早くお戻りください……!)
その夜、雪の庭には――
柔らかな香りとともに、静かな“復讐の余韻”が漂っていた。
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