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婚約破棄破棄されたので流行らない喫茶店をはじめました  作者: みずとき かたくり子


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第79話  パネットーネと月の可愛い?復讐 


第79話  パネットーネと月の可愛い?復讐 


スタードール店長室にて


 華やかなシャンデリアがきらめき、上質な香りが満ちる大規模カフェ『スタードール』。

 昼下がりの店内は客で賑わい、優雅な音楽が流れていたが、月は臆することなくその空間を歩いた。


 受付に名を告げると、店員はすぐさま態度を正し、月を店長室へ案内した。


 扉が開く。

 そこには、雪乃に次ぐ敏腕パティシエと称される男――アルベルトが余裕の笑みを浮かべていた。


「よく来てくれた。さあ、座ってくれたまえ。」


 月は一礼し、ソファに優雅に腰掛ける。

 抱えていたリボンで束ねた紙束と、布に包まれた小瓶を静かに机の上へ置いた。


「こちらをお持ちしました。」



---


◆雪乃の妹からの贈り物?


 アルベルトは紙束を手に取り、ぱらりとめくる。

 その内容を理解した瞬間、彼の表情が固まった。


「……これは……オペラ、ザッハトルテ、タルト・タタン……パネットーネのレシピ!?

 ま、まさか全部提供してくれるのか?」


 月はフワリと微笑む。


「ええ。お客様からのリクエストも多いのですが……私たちの規模では、一日にひとつが限界ですの。

 でもスタードール様なら、きっと多くのお客様に喜んでいただけますわ。」


 穏やかな声音。

 その奥に「逃さないでね」という圧が潜むことなど、彼はまだ知る由もない。


「……君は本当に雪乃店長の妹なのだな。状況をよく理解している。」


 アルベルトが感心するように頷くと、月は優雅に笑みを深めた。



---


◆月の“条件”


「ですが――一つだけ、お願いがございます。」


「……お願い?」


 アルベルトの眉がわずかに動く。

 月はその反応さえ楽しむかのように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「これらのスイーツは、どれか一つだけではなく……

 すべてを同時に、毎日提供していただきたいのです。」


「す、すべてを……!? 毎日……!?」


 アルベルトが思わず声を上げるが、月はさらりと頷く。


「スタードール様の規模なら可能ですわ。

 それに……お客様のためにも、その方がいいでしょう?」


 アルベルトは腕を組み、しばし考え込む。

 だがやがて、ゆっくりと頷いた。


「……確かに、我々ならできる。

 そして客も必ず喜ぶ。いいだろう、その条件、受け入れよう。」


 満足げに微笑む月。

 しかし、その笑顔の裏に潜む“別の意図”は、まだ誰も気づいていなかった。



---


◆小瓶に潜む意味


 月は続いて、布に包んだ小瓶をそっと差し出した。


「そしてこちらも、お渡しいたします。」


「これは……?」


「――パネットーネ専用の酵母ですの。」


「なんと……!」


 アルベルトは目を見開いた。


「こんな貴重なものまで提供してくれるとは……!

 これは……大切に使わせてもらおう。」


 両手で小瓶を抱えるアルベルトの姿を見て、月は満足げに頷いた。


「どうぞ。これがなければ“本物”は作れませんもの。」


 その瞬間、月の瞳の奥で鋭い光がきらりと揺れた。

 しかしアルベルトは、気づくどころか深々と頭を下げてしまう。


「本当に感謝する。必ずこのレシピを最大限活かしてみせる。」



---


◆月の帰路 ― 小さな“闇の勝ち誇り”


 スタードールを後にし、夜の街を歩く月。

 煌びやかな看板を一度だけ振り返る。


 月は一度だけ振り返り、スタードールの看板を見上げた。

「……楽しみですね。」

それだけ呟くと、何事もなかったかのように歩き出す。

その背中は、小さく、可憐で――

誰よりも無邪気に見えた。

 その背中には、天使の愛らしさと、悪魔の策略が同居していた。

 月の“甘い罠”は、静かに、しかし確実に動き始めていた――。



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