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婚約破棄破棄されたので流行らない喫茶店をはじめました  作者: みずとき かたくり子


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第77話 パネットーネと月の甘い?復讐



 第77話 パネットーネと月の甘い?復讐


雪の庭、開店


 朝の光がガラス越しに差し込み、「雪の庭」の木製の扉をやさしく照らしていた。

 開店前から並んだ常連客たちは肩を寄せ合い、期待の入り混じった声を弾ませている。


「今日は新作だって聞いたぞ!」

「昨日もすごかったけど、今日のはさらに期待できそうだな!」


 ざわめきが高まった瞬間――扉がぱっと開いた。


「――雪の庭、開店です!」


 エプロンを身にまとった月が、今日も満開の笑顔で宣言する。

 その声に、客たちの表情がぱっと明るくなり、行列はまるで吸い込まれるように店内へと流れ込んだ。


 クラリスとセリーヌが迅速に席へ案内し、ホールはあっという間に活気に満ちていく。


 月はその喧騒を背に厨房へ戻ると、すでに熟成が終わったスイーツへ視線を向けた。


「今日の主役は……あなたよ、パネットーネ。」


 その言い方はまるで恋人に語りかけるようで、どこか誇らしげでもあった。



---


◆特別なスイーツ:パネットーネ


 月が慎重に取り出したパネットーネは、黄金色の表面がふっくらと盛り上がり、切り分けると甘い香りがふわりと舞い立つ。

 洋酒に漬けたフルーツの香りが混ざり合い、思わずため息が出るほど芳醇だ。


「香りだけで幸せになれそう……」

 クラリスが胸に手を当てて感嘆する。


「これが月様の力……」

 セリーヌも頬を染め、目を潤ませた。


 最初の客へ運ばれたパネットーネが、一口かじられた瞬間――。


「ふわっ……な、なにこれ……!? 甘いのに軽い……! まるで夢の味だ!!」


 歓喜の声が店内に広がった。


 月はにこりと微笑み、ホールに出て客たちのテーブルへ丁寧に頭を下げる。


「お味はいかがでしょうか?」


「最高です! 数量限定だなんて……もっと食べたいくらいです!」


 客たちは笑顔でフォークを動かし、月はその反応に頬を緩める。


(ふふ……いい感じね。)


 その胸の奥で、小さな炎がちらりと灯っていた。



---


◆アルベルト来店


 カラン――。


 店内の空気を切り裂くように、澄んだ鈴の音が響いた。

 振り返ると、黒いコートをまとった長身の男が姿を現す。


 スタードール店長――アルベルト。


 常連客たちはざわりと動揺し、スタッフも固まってしまう。


「さっそく、本日のスイーツをいただこうか。」


 低く響く声に、クラリスとセリーヌは慌てて頭を下げた。


「い、いらっしゃいませ! 本日はパネットーネをご用意しております!」


 アルベルトは余裕の微笑を浮かべ、悠然と席につく。

 そして――厨房の奥に立つ月へ、鋭くも興味深い視線を投げた。


「噂の“妹店長”が作ったと聞いた。期待しているよ。」


 月はホールへ一歩踏み出し、まるで舞台に上がる女優のような完璧な笑みを浮かべた。


「ご来店ありがとうございます。――どうぞ、召し上がってくださいませ。」


 その声音は甘く柔らかい。

 しかし、その奥に潜む小さな“棘”に気づいた者は、まだ誰一人いなかった。



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