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婚約破棄破棄されたので流行らない喫茶店をはじめました  作者: みずとき かたくり子


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61話 謝罪のかたち

61話 謝罪のかたち


閉店が続く「雪の庭」。


表の看板は裏返されたまま。 窓辺のレース越しに差し込む光だけが、静かな店内を照らしていた。


コン、と控えめなノック音。


応対に出た忍の前に立っていたのは―― スタードール店長、アルベルトだった。


「分かっている。閉店中だということは。」


低い声でそう言いながらも、彼は帰る様子を見せない。


「だが、どうしても謝罪をしたい。」


忍は表情を崩さない。


「お嬢様は、現在どなたにもお会いにならないおつもりです。」


「……そうか。」


アルベルトは苦く笑った。


「当然だな。私も、あの場で熱くなりすぎた。だが私は、店として正しいことをしたつもりだ。」


忍は静かに問い返す。


「謝罪に、条件はございますか?」


「条件?」


「例えば、再び提携の話を持ち出す、あるいは――レシピの件を蒸し返すなど。」


アルベルトは一瞬言葉に詰まり、やがて視線を逸らした。


「……話ができるなら、今後のことも相談したいとは思っている。」


忍は静かに扉を少し閉じる。


「では、お引き取りください。」


「……そうか。」


アルベルトは短く息を吐き、深く一礼した。


「また来る。」


足音が遠ざかる。


忍はしばらくその背を見送り、静かに扉を閉めた。



---


数時間後。


再び、扉が叩かれる。


今度は、より控えめな音だった。


応対に出た忍の前に立っていたのは、 黒のフードを目深に被った青年。


第一王子アルフレッド。


「……会えない可能性は承知の上だ。」


低く、落ち着いた声。


「それでも謝罪したい。」


忍は淡々と告げる。


「お嬢様は、現在どなたともお会いになりません。」


王子はわずかに目を伏せた。


「そうだろうな。」


沈黙。


そして彼は、懐から封筒を取り出す。


「言い訳は書いていない。ただ、私の非を認めただけだ。」


さらに、簡素な花束を差し出した。


「店の空気を壊したのは事実だ。私は、あの場で王族として振る舞ってしまった。」


忍は一瞬だけ目を細める。


「……条件はございませんか?」


王子は小さく首を振る。


「ない。許されなくても構わない。伝われば、それでいい。」


その言葉には、駆け引きがなかった。


忍は一礼する。


「確かにお預かりいたします。」


王子は深く頭を下げ、静かに去っていった。



---


店内。


忍は花束と手紙を雪乃の前に置く。


雪乃は砂時計をひっくり返しながら、ちらりと見る。


「……花?」


「謝罪の印だそうです。」


雪乃は少しだけ眉を動かす。


「食べられないわね。」


忍は何も言わない。


「手紙は?」


「弁解はなく、謝罪のみです。」


短い沈黙。


雪乃は花束を指先でつつき、視線を逸らす。


「……飾っておいて。」


「かしこまりました。」


雪乃は立ち上がる。


「ちょっと散歩に出るわ。」


「どちらへ?」


「気分転換。」


それ以上は言わない。


忍は止めなかった。


雪乃は静かに外へ出ていく。


閉まった扉の向こう、 柔らかな光の中へ。


――そして入れ替わるように、 新たな気配が近づいていることを、 この時まだ誰も知らない。




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