58話 雪乃の堪忍袋
58話 雪乃の堪忍袋
爆発寸前の店長
「信用を失うだと?私の店は十分に繁盛している!」 「繁盛しているのは雪の庭のおかげだろう!」
王子とアルベルトの声が店内に響きわたり、
ティーカップの震えさえ聞こえそうなほど空気が張り詰めていた。
いつも静かで優雅な「雪の庭」とは思えない。
まるで決闘前の宴。
カウンターの奥では――
雪乃が腕を組み、じいっと二人を睨んでいた。
眉間には深いシワ。
こめかみはピクッ……ピクッ……。
弥生はカゴを抱えたまま、青ざめて小声で言う。
「お嬢様、だいぶ……危険水域です」
セリーヌもそっと囁く。
「つ、ついに……あの“堪忍袋の緒”ってやつが……」
クラリスの膝は軽く震えていた。
「お、恐ろしい……“静寂至上主義者”の逆鱗が……」
忍だけは冷静に言った。
「皆さん、覚悟しておきましょう。……来ます」
そして、
雪乃のこめかみが “ピキーン” と跳ねた。
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堪忍袋、ついに決壊
王子とアルベルトはついに声を荒げ始めた。
「そもそも君の店の運営方針が――」 「それを言うなら、そちらこそ――!」
その瞬間。
雪乃が、紅茶を一息に飲み干し――
カウンターをバンッ!と叩いて立ち上がった。
店内の空気が、一瞬で凍りつく。
「だーーっ!! もう無理っ!!」
王子、アルベルト、常連客、店員、
全員の動きが止まった。
セリーヌが口を押さえる。
「ひっ……!」
忍は思わず背筋を伸ばす。
弥生は「来た……!」と覚悟の顔。
雪乃は全員の視線を受け止めながら、
優雅に、しかしキレッキレの声で宣言した。
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雪乃の店長宣言
「ここは“のんびりと静かに過ごすため”の喫茶店です!!」
王子もアルベルトも、
怒られた犬のように固まった。
雪乃はさらに続ける。
「討論会場じゃありません!
政争の場でもありません!
声の大きさで味が変わる店でもありません!!」
その迫力たるや、
静かな怒りの王女そのもの。
弥生が小声で呟く。
「お嬢様の“説教モード”、久々に出ましたね……」
忍がこくりと頷く。
「王家会議より厳しいと思います」
アルベルトが思わず尋ねた。
「……これは、叱られているのか?」
王子が真顔で返す。
「当たり前だ。我々は完全に店長の逆鱗に触れている」
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まさかの宣言:閉店!
そして雪乃は、ピシャリと言い放った。
「お二人とも――
お帰りください。今日は閉店です!!」
店内が静まり返った。
「へ、閉店……?」 「お、お嬢様、それは……まさか……」
常連客まで固まる中、
アルベルトはしゅんと肩を落とし、
王子はフードの奥で深く頷いた。
「……申し訳ない」
「私も……少々熱くなりすぎた」
二人の謝罪が静かに響く。
雪乃は腕を組んだまま、
ほんの少しだけ、溜め息を漏らすように言った。
「分かればいいのよ。ここは、紅茶とスイーツを楽しむ場所。
他の用事は、他所でやってちょうだい」
王子とアルベルトは深く頭を下げ、静かに店を後にした。




