第34話 結局、不定休が正解だった
第34話 結局、不定休が正解だった
――それから数日後。
「雪の庭」の前には、いつものように看板が下がっていた。
> OPEN
※気が向いたら
弥生はその看板を見上げ、静かに息を吐いた。
「……結局、この表記に戻りましたね」
「ええ」 忍は淡々と答える。 「最も正確ですから」
店内では、雪乃がカウンターに頬杖をつき、紅茶を飲んでいた。
「ふぅ……やっぱり、この時間が一番落ち着くわ」
「お嬢様」 弥生が慎重に声をかける。
「今日は……営業日ではなかったはずですが?」
「ええ、そうね」
雪乃はあっさり認めた。
「でも、朝起きたらね。
なんだか、ケーキが焼きたくなったの」
「……営業する気は?」
「三時間だけ」
忍と弥生は顔を見合わせた。
結果。
その日は、三時間だけ営業した。
偶然通りかかった常連が数人入り、
雪乃は機嫌よく紅茶を淹れ、
弥生と忍は慣れた手つきで店を回した。
「今日、開いててよかった」 「不定期だけど、来る価値はあるよな」
そんな声が、自然に聞こえてくる。
営業が終わると、雪乃は満足そうに椅子に深く座った。
「……やっぱり、やりたい時にやるのが一番ね」
弥生は、もう反論しなかった。
「週休二日制は……どうなったんですか?」
「失敗ね」
即答だった。
「理論は完璧だったのよ?」
「……はい」
「でもね」
雪乃は紅茶を見つめながら続ける。
「七日も休んだら、暇になるし」
「はい」
「暇になると、やりたくなるし」
「……はい」
「やりたくなったら、やらない理由がないのよ」
忍が静かに言った。
「つまり」
「そう」
雪乃は小さく笑った。
「私は、計画的な休みが向いてないの」
弥生は苦笑する。
「それ、最初から分かっていました」
「ひどい」
「事実です」
こうして。
「雪の庭」は正式に――
定休日なし
営業日未定
営業時間:だいたい三時間
という、
どこにも真似できない運営方針に落ち着いた。
雪乃はそれを、堂々と宣言した。
「不定休こそ、私の正解よ」
「開くかどうかは、その日の気分」
「閉まっていても、悪意はありません」
「ただ、気が向かなかっただけ」
忍が看板を書き直しながら呟く。
「……ある意味、最も誠実ですね」
「でしょう?」
雪乃は満足そうに微笑んだ。
その日の夕方。
看板は CLOSE に戻っている。
雪乃は紅茶を飲みながら、ぽつりと言った。
「でもね」
「はい?」
「明日は……もしかしたら、開けるかもしれないわ」
弥生と忍は、同時にため息をついた。
「“かもしれない”が一番困るんです」 「予定が立ちません」
雪乃は楽しそうに笑う。
「それでいいのよ」
こうして今日も。
喫茶店「雪の庭」は、
店主の気分と紅茶の香りに支配されながら、
平和に、自由に、営業している。
――不定休こそが、
雪乃にとっての“最適解”だったのだから。




