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過度なイチャラブにご注意を

「あ、あの! 予約してた花園ですけど、まだ入れますか!?」

「はい、花園様ですね。予約電話の際にお聞きした身分証明書はお持ちでしょうか?」

「はい、学生証です」

「では確認してまいります。少々お待ちください」

「はーい 」


 梨花に手を引かれること数分。花火大会の会場に集まった人集りをかき分けてたどり着いた所は、少しばかり高台になっている場所。

 花火を見るところとしては絶好の場所だ。


 そして、高台というところもあって人もそれなりにいる。

 のだが、会場入口にいた人たちとは周りの人の雰囲気が違う気がするのだ。


 言ってしまえば……少し、甘い雰囲気がするのだ。


 だが、それが気のせいではないと、梨花が受付にいた女性とのやり取りの合間に見つけた看板で知る。

 そして受付嬢の人とのやり取りを梨花がひと段落終えたのを確認すると、俺は直ぐに彼女を呼び寄せた。


「あ、あの……梨花さん……?」

「ん? どうしたの、大和? そんなに震えて」

「震えるに決まってるだろ……。看板に大きく書かれてたけど、ここってもしかして……」

「うん、そうだよ〜〜」


 怯える俺の言葉とは真逆で、梨花はあっけらかんとした声を出す。

 どうやら彼女は俺がどうしてこんなに震えているのか分かっていないのだろう。


 うん、きっとわかっていないに違いない。


 でなければ───

「二人でのんびり花火を見れる絶好の場所。カップルシートエリアだよ〜〜」


 こんなお気楽に、とんでもないことを言うはずないのだから。


 カップルシート。

 それは、自分たちが恋人同士だと言うことを公然に発表しているのと同等の儀式のようなもの。


 大抵の場合、カップルシートを使えば安くなる分それなりの通過儀礼が存在する。

 カップル専用ドリンクのような、ハート型ストローもそれだ。


 要は、『私たちはこんなにラブラブですよ〜〜』とアピールすることになる。



 梨花とイチャイチャするのに抵抗はほぼ無くなっているが、それでもあくまで家の中での話で、外で堂々とイチャイチャできるほどの度胸はない。


 故に俺は、“カップルシートエリア”と書かれた看板から反射的に距離をとってしまっていた。

 しかし、まぁ、梨花がそれに気づかないはずもなく、

「どうしてそんなに警戒するの? もしかして嫌だった?」

 不安げな表情で俺に問いかける。


 少しだけ上体を倒して下から俺の顔を見るようにして。


 うるうると揺れる瞳に俺は「その目はズルいって……」と言いたくなる気持ちを抑えながら彼女の問いに答える。

「嫌ではないよ? 嫌ではないけど、な? 周りの目が、その……」

 我ながら、挙動不審で呆れる。


 そしてそんな俺に梨花も呆れてるようで、

「もー、ここまで来て大和ってば意気地無し! どうせ花火が打ち上がったらみんな花火に夢中だから私たちのことなんて見ないって!!!」

 と、煮え切らない俺に怒りを露わにする。


 そりゃそうだよな、と思いつつも

「俺たちのことを見ないって言われてもだな……」

 と弱気な言葉を口にしてしまう。


 すると、梨花は攻め方を変えてきた。

「じゃあ、花火見ながらイチャイチャするの諦める?」

 と。


「……それは無理」


 声量は小さくも、反応は迅速。

 気は小さくとも、イチャイチャはしたい。


 我ながら、本当にめんどくさい性格だよ。

 こんな俺を好き好き言ってくれる梨花には本当に感謝しかない。


 それでも、やはりカップルシートエリアに入るのはどうも躊躇われた。



「いい加減、腹くくろうよ〜。さっき家出る前に言ってたでしょ? 『場所とるのは大変』だって」

「それはそうだけど……」

「むーーーー!! 大和の根性無し!!! そんな大和にはこうしてやる!!!!」

「り、梨花……!!?」


 突然、急激に距離を詰める梨花。

 それは本当に突然で、しかし、梨花がしてきた事は毎日していることで。


「んっ……ふ……ぅ……っ!」


 口に広がる梨花の味。浴衣の着付けの時につけたのであろう、梨花お得意のレモンリップの香りが脳髄に響く。


 溶けていく。

 凝り固まった想いが溶けていき、もっとキスをしていたいと舌が求める。


 気づけば周りの視線なんて気にならなくなり、頭の中も視界の中にも愛しの梨花でいっぱいだ。


 やがて、糸を引くようにして俺の口から舌を抜く梨花は、艶っぽい表情のまま俺に問いてくる。


「……どう? これで少しは度胸ついた?」

 と。


 度胸は確かについた。ついたがこれは……。


「荒療治、過ぎやしませんかねぇ……」

「でも、吹っ切れたでしょ?」

「……お陰様で」

「ならばよし!!」


 相変わらず、脳筋っぽさがあるのがやはり梨花である。もはや恒例である。

 しかし、そんな彼女が好きなのだから、直す気などはない。むしろこのままでいて欲しい。


 そんなことを思っていると、受付の奥から先程の女性が現れる。


「お待たせしました。本人確認が出来ましたので、学生証をお返しします」

「あっ、はーい」

「それではこのまま、シートまでご案内しますのでこちらをどうぞ」


 そう言いながら、高台の奥へと案内を始める女性。


 俺と梨花は彼女に従うようにして、その後をついていく。


 すると、人気が無くなったのを確認すると案内の女性は俺と梨花に真剣な眼差しを向けて、口を開く。


「それと、中ではあくまで健全な時間をお過ごしますよう、よろしくお願いしますね? まだ、学生さんのようですし……」


 と、言葉にして。



 花火が打ち上がるまで残り五分。

 そんな中で、俺と梨花は付き合い方の注意をされてしまうのであった。

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