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絶品なるお昼と這い寄る気持ち

「……はい! これで、完成!!」

「なんか、どっと疲れたよ……」

「大丈夫? もっとイチャイチャする?」

「それこそ死にそうだから勘弁」

「あはは、大和も冗談も言うんだねぇ〜〜」

「いや、割とマジで冗談じゃないんだよなぁ……これが……」


 左手にチョーカー、改め、革製のブレスレットが梨花によって巻かれた俺は、全身ぐったりである。

 こんな時にイチャイチャなんてしたらそれこそ再起不能になりかねない。


 せっかく先程、梨花を振りほどいてトイレで気分をスッキリさせたと言うのに、またイチャイチャされたらきっと俺は壊れてしまう。


 いや、まぁ……梨花に耳元で「好き好き」言われるのは最高だったのだけど。正直、刺激が強すぎて押し倒す以上のしかねないのでしばらくは勘弁してもらいたい。

 具体的には受験終わって、大学入学するくらいまでは。


「とりあえず、飯にしよう。飯食わなきゃやってられないよ。適当にチャーハンでいいか?」


 気分転換がてら、俺はそう言ってキッチンに足を運ぼうとする。

 昼飯はイチャイチャ優先で何も食べてないし、梨花への気を紛らわすには丁度いい。

 このまま梨花と密着していたら、本気の本気で梨花を襲いかねない。


 チョーカーを俺の左手首に巻き終わった今でさえも、梨花はニギニギと俺の手を離してくれないのだから。

 全身密着よりはだいぶマシではあるが、それでも彼女を恋しく思ってしまう事に違いはない。

 さっきまでチョーカーをつけるのを怖がっていたのがバカらしくなるほど、目の前の梨花にメロメロだ。


 こんな状態が長く続けば、それはもう大変である。


 そんな事態を回避するべく俺は即急にキッチンへと足を運ぼうとしていたのだが……


「あ、待ってお昼、作らなくて平気だよ」


 シャツの袖をクイッと掴みながら俺を引き止める梨花。


「ん? どう言う事だ?」

 一体何事だろうと思い問いかけてみれば、

「私、今日は二人分のお昼持って来たの」

 と梨花はそう告げながら、普段より特別大きめなカバンからバスケットを取り出してくるではないか。


 その光景に俺の脳髄に雷撃が走った。


「お昼……? 梨花が……? いつも人一倍、いや、二倍くらいお昼を食べる梨花が……お昼を持ってきた!?」

「そんなに驚く事!!? 私だってちゃんと女の子らしい事できるんだから!!!」


 俺の動揺に、梨花は頬をプクッと膨らませながらカバンから取り出したバスケットをずいっと前に突き出す。


 あまりにも自信満々な梨花に俺は思わず、失礼な思考をしてしまった。


 ───きっと、簡単なものなのだろう。


 と。


 決して梨花を馬鹿にしているつもりはない。ただ、梨花は得意不得意、好き嫌いの差がとてつもなく激しい。

 そして俺は勝手に『梨花は家事が苦手』だと決めつけてしまっていた。

 実際、お昼も昨日まではずっと俺が作っていたのでそう思ってしまっても仕方がないだろう。


 別に、梨花の作った料理が食べたくないわけではない。ただ、それ以上に梨花が美味しそうに俺の作った料理を食べてくれる姿がとてつもなく好きなだけなのだ。


 とはいえ、どんなものを作ってきたのか、当ててみたくなる。

 そう思い、俺はバスケットを指差し答えあわせをしようとしたが……

「あ、分かったきっとおにぎ───」

「ふん……だ!!!!」

「おにぎりじゃない、だと!!?」

「どうよ! この見事なサンドイッチは!!」


 梨花の自信満々な掛け声と共に姿を現したのは、想像していたよりも遥かに凝ったもの。

 思わず、俺は驚愕してしまった。


「これ、本当に梨花が……?」

「当然でしょ? あ、でも形とかはうまく整えられなかったから、そこは勘弁ね? ちゃんと味は美味しいはずだから……」

 梨花の言う通り、形はグチャグチャでお世辞にも美味しそうには見えない。

 しかしそれは彼女が作ったと言うフィルターを通していない人に限る。


 今の俺からは絶品のサンドイッチにしか見えない!!

 いや、むしろ愛しい彼女からのお昼が美味しくないはずがなく───


「んじゃ、早速一つ……」

「ドキドキ……」

「……っっっ!!!!」

「や、大和……? やっぱりダメだった? ごめんね、残りは私が責任持って全部……っ!」

「美味いぞ! これ、美味いぞ梨花!!!」

「……へ?」

「レタスとトマトに絶妙に合うゴマだれに、時々顔を見せるキュウリがいい味を出してる!!」

「そ、そんなに美味しいの……?」

「当たり前だろ。むしろ、不味いわけない!!!」


 梨花の自信なさげな言葉とは裏腹に、とても完成度の高いサンドイッチの味が口いっぱいに広がる。

 そんな俺の反応に梨花は驚いていた。

 彼女の反応を見るに、あまり自信はなかったのだろう。「味は美味しいはずだから」と言っていたのも、自信のなさの表れだったのかもしれない。


 しかし、実際は言葉の通りの美味さである。


「いやぁ……美味かった……!」


 俺はあっという間にバスケットの中のサンドイッチを食べきってしまった。

 それこそ、

「あはは、ほとんど大和に食べられちゃったよ」

 梨花にほどんど食べる隙間を与えずに。


 いくら梨花のサンドイッチが美味しかったとはいえ、ほとんど食べてしまった事に罪悪感を覚える。

 確認できた範囲では、梨花が口にしたサンドイッチは二切れほど。対して俺は六切れ。流石にこれは見境がなさすぎた。


 これでは普段の梨花の食事量を注意できたものではない。

 そう思いながら、俺は空になったバスケットを大事に抱える梨花に対して頭を下げる。


「すまん。美味すぎてつい……」


 きっと、怒られるんだろうなぁ……。


 そう思いながら、身構えていると予想外の言葉が梨花の口から返ってくる。

「ううん。全然平気! むしろ……アレだね」

「アレ? アレって?」

「大和が私のお昼ご飯食べてる時の気持ちってこんな感じなんだね、って」

 と。


 そして、梨花が今、どんな表情をしているのかと顔を上げれば

「もっと大和が好きになっちゃったよ」

 と顔を赤らめながら笑顔の彼女。


 胸が強く、固く締め付けられる感覚がしたが、きっと気のせいではないのだろう。


 今、この瞬間にも俺は彼女への『好き度』を更新してしまった。


 あぁ、手を握りたい。

 あぁ、抱きしめたい。

 あぁ、キスがしたい。


 あらゆる『したい』が頭の中を駆け巡る。


 が、時間は有限で、間も無くして休憩時間終了を告げるアラームが俺のスマホから鳴り響く。



「あ、勉強再開しなきゃだね。課題を増やされるのは勘弁だよ〜」


 そう言って梨花は俺の側から少しだけ離れ、彼女の勉強道具が置かれている所定の位置に戻る。

「…………」

「大和?」

「あ、あぁ……そう、だな……」


 俺は何を思ったのか、しばらく何も動けずにいた。


 そして今、この時になって初めて、左手のブレスレットに意識が向かう。


 ───これでもう、梨花から意識が離れる事はなくなるんだろうなぁ……。


 と。



 梨花の『好き』への独占欲が強いように、俺もまた『梨花』への独占欲が強いんだろうなぁと、これからの生活で思い知らされる事になる。



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