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夏が終わる前に

「それじゃあ、また明日〜」

「おう、気をつけて帰れよ?」

「大丈夫だよ〜。まだ明るい時間だし〜」

「それもそうだな」


 左手にブレスレットをつけるようになって数日。

 俺と梨花はいつものように勉強会を行って、気づけばあっという間に夕方。

 かれこれ、こんなやり取りをするのも二週間は続けてる気がする。


 もうずっと、このまま続けていたい気もするがもう間も無く終わりが近づいてきてしまっている。


 ───九月まで、もう時間が無いのだ。


 楽しい事はあっという間に過ぎるとは言うけど、こんなにも濃厚で短い夏休みは初めてだったから物足りなく感じてしまう。


 去年までの俺は

「夏休みが終わって欲しくないって嘆くヤツは、夏休み中にダラけていたヤツに違いない」

 と心の中で思っていたが、今ならハッキリ言えてしまう。


「夏休み終わって欲しくない!!」

 と。


 別に夏休み中ダラけていたわけではないし、日々の勉強も怠らなかった。

 だが、足りないのだ。時間が足りないのだ……。


 梨花とのイチャイチャを心ゆくまで堪能するには……!!




 ここ数日、俺は梨花が帰った後、悶々とした気持ちで左手のブレスレットを見つめる事が日課になっている。

 理由はいくつかあるが、そのうちの一つが『梨花が居なくなり寂しい』という事である。


 正直、こんな事思っている時点でだいぶ女々しいのだが、ブレスレットをつけてから尚更女々しくなったと感じる。


『もっと梨花と一緒にいたい!』

 そう思う時間と頻度がブレスレットをつけてから増えた。

 お昼を返上してイチャイチャする事もある。


 それでも物足りないのだ。彼女が帰った後に、悶々としてしまうのだ。


 そんな気持ちを抱きながら、梨花を玄関で見送ろうとしていたが、少しだけ勇気を振り絞る事にした。


「あのさ梨花。明後日……時間あるか?」


 という言葉と共に。



「うん? もちろんあるよ。というか、夏休みいっぱいは大和の部屋に通うつもりだったし」

「なら、明後日の勉強会終わりにさ、花火大会行かないか?」

「花火大会……?」

「嫌か?」

「嫌な訳ないじゃない。ただ、その……」

「その?どうしたんだ?」

「大和からこうもストレートに誘われるとは思ってもみなかったから」

「まぁ、たまにはな」


 俺からの予想外の誘いに戸惑いを見せる梨花。

 ポリポリと左頬を掻き、キョロキョロと目線が泳ぐ彼女の様子で、どれくらいの戸惑いか分かる。


 普段は梨花がストレートに『イチャイチャしたい!!』と言うだけに、誘われる事に慣れていないのだろう。

 手を繋いだばかりだった頃の数週間前の梨花の可愛い真っ赤な照れ顔を思い出す。


 あの時から、俺はずっと梨花への想いが加速した。

 それと同時にある構図が出来上がってしまっていた。


「いつも引っ張られてばかりというのも、ちょっとモヤモヤするしな……」

「大和……」


 いつも梨花から誘ってばかりなのだ。

 イチャイチャしかり、この間のモールデートしかり。

 俺は梨花からの提案を受け入れてばかりなのだ。


 梨花への想いは本物なのに中々行動に移せない自分にモヤモヤしていた。

 そんな中、ポストに入れられた一枚のチラシ、『花火大会のお知らせ』。


 いつ誘う? 今でしょ!!



「それで、どうだ? 花火大会、行くか?」

「もちろん!! 今からもう楽しみだよ!!!」

「それなら誘って良かったよ」


 気持ちが落ち着いたのか、いつもの調子に戻った様子の梨花に俺は安堵する。


 が、それは一瞬で、梨花の表情が突如として暗くなる。

「あー、でもどうしよう……」

 との言葉を述べながら。



「ん? 何か都合悪かったか? それなら無理しなくても」

「あー違うの!! 花火大会には行けるよ? そこは心配しないで?」

「そうなのか? でも何かあるなら言ってくれよ。都合は合わせるから」

「大和が心配する事はないから大丈夫!! モーマンタイ!!!」

「……そう言われると余計に心配になるんだが」

「本当に大丈夫だってば」

「ならいいんだけどさ」


 梨花の反応に不安になるも、彼女は頑なに「大丈夫」と口にする。

 何かあるのは明らかなのに、それが何かを探り出せないもどかしさが辛い。

 だが、それでも梨花は意地でもなんでもない事にしたいようで、笑顔をふりまく。


 どうやら、教えてくれる気配はなさそうだ。


「それじゃあ、また明日」

「おう、また明日」


 結局、梨花が何に悩んで暗い表情をしたのか分からないまま、彼女を玄関で見送る。


「なんか気になるけど……まぁ、本気で何かあるなら教えてくれるよな」

 と、独り言を口にしながら。



 ◇◆◇◆◇◆


 大和の家を出て、数分。私は部活寮に帰るや否や、自分の部屋へと駆け込んだ。


「麻那ぁ〜!! 麻那、麻那ぁ〜〜!!」


 と、ルームメイトに助けを求めながら。



「あー、うるさいのが帰ってきたよ……」

 そう言いながらルームメイトの清水麻那はあからさまに嫌な顔をするが、私は構わず泣きつく。


「麻那ぁ〜!! 助けて〜〜!!!」

「はいはい、今日は一体何があったの」


 麻那はいつものように、私の頭を撫でながら事情を聞いてくれる。

 最近、麻那の順応性が高くて助かります。


 そんな事を思いながら、私は麻那に今日あった事を告げる。

「大和から花火大会に誘われた!!」

「おー、いいじゃん。行ってらっしゃい」

 麻那は至って普通に祝福してくれる。


 前までの麻那なら「ノロケるな。勝手にデートして幸せ太りしてろ」とか言ってたのだが、最近はそう言う事を言わなくなった。

 やっと大和と私の付き合いを認めてくれたのかな?


 そんな事を考えるが、今はそれよりも大事な事があるのだ。

 それを相談する為に、麻那に泣きついているのだから。


「あのね、麻那。私、大変な事に気がついちゃったの!」

「……一応聞くけど、それは一体何? そろそろ食堂に集まる時間だから手短にね?」

「アレがないの……」

「アレ?」


 私の言う“アレ”が全く見当がついていない様子の麻那。


 花火大会といえば、“アレ”しかないだろう。


「私、浴衣を持ってないの!!!!」


 声高らかに悩みの種を打ち明けるも、麻那は何故か呆れ顔をしていた。


 そして間も無くして、食堂から食事の用意ができたと言う放送が寮中になり響いたのだった。



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