愛しの彼女の『好き好きコール』
───独占欲。
それは誰しもが心のうちに秘める『独り占めしたい』という欲望の総称。もしくは複数ある欲望のうち、秀でて強い欲の事。
つまりは、『好き』の度合いが強すぎるが故の欲という訳だ。
言ってしまえばそれは人にとってなんとも自然な事で、人の『好き』の対象は違えど、『好き』の度合いも違えど、『好き』である事には変わりないのだ。
そう、『好き』の形は人それぞれだ。
たとえ───
「大和〜大和、大和大和〜〜!! 好き、好き好き、大好き〜〜」
梨花が俺のありとあらゆるところに自分の体を押し付けながら『好き好きコール』をしていたとしても。
「ちょ、梨花……コレはちょっとやり過ぎだって……!!」
「え〜何が〜〜? せっかく私が大和の左手首にチョーカーをつけてあげようとしてるのに不満な訳〜〜?」
「いや、それに関しては色々吹っ切れたから不満はないんだけど……」
「じゃあ、何がダメなの?」
「あのさぁ……前にも言っただろうけど、俺だって男な訳よ」
「うん、そうだね。大和はカッコいい男の子だね」
「別にカッコよくはないがな」
にへら、と口元を緩ませながら「またまたぁ〜」と笑う梨花。
正直、今の状況から考えたらとっても笑える状況じゃない。
梨花の女の子らしい柔らかい体が、思春期真っ只中の男である俺の体のあらゆるところにギュッギュッッ……!! と押し当てられているわけで……。
まぁ、言ってしまえば《《色々》》と限界という事だ。
それだというのに、当の本人は何の悪気もなく、今もなお後ろから思いっきり体を押し当ててくる。
腕は胸に、足は腰に、と筋金入りに。
それに加えて『好き好きコール』である。
どこまで俺は我慢しなければならないのだろうか……。
「はぁ……キツイ……」
思わずため息が出るレベルである。
けれど、ため息をついただけで今の現状が変わる訳もなく、今もなお梨花は俺の体にべったりだ。
そんな梨花に俺は彼女の頭を撫でながら問いかけた。
「あのさ、梨花。あの時俺が梨花を押し倒したのは覚えてるか?」
と。
「もちろん。忘れられないよ」
「まぁ、そうだよな」
梨花の返答に俺は「彼女に怖い思いをさせてしまったもんな……悪いことしたなぁ……」と心の底から反省する。
いくらあの時梨花に分からせる目的があったとは言え、怖い思いをさせなくてもいい方法があったのではと考えてしまう。
……が、実際はそうでは無かった。現実はそうではなかったのだ。
「あの時の大和を思い出すだけでキュンキュンしちゃうもの!!」
「そうそう、キュンキュン……え、キュンキュン!? ビクビクじゃなくて!!?」
「どうしてビクビクしなきゃいけないの? 私、大和を怯える理由が無いんだけど……」
「むしろ、怯えさせた覚えしか無いんだけど……」
「え?」
「え??」
おかしい。何かがおかしい。
押し倒されてキュンキュン……? いや、待て、どうしてそうなる。まるで意味がわからんぞ。
まったくもって梨花と話が噛み合っている気がしない。
嫌な予感がした俺は梨花に再び問いかける。
「えっと、梨花さん? 一つ質問」
「はいどうぞ?」
「梨花さんは俺を男として認識してるんだよね?」
「もちろん。大和以上にカッコいい男の子なんて、私知らないし」
「あ、あぁ……そう……」
うん。とりあえず、今の梨花がめちゃくちゃ可愛いという事は分かった。
思わず、口ごもってしまうほどの可愛さだ。どうしよう、もっと好きになってしまう。
いや、もうすでに胸いっぱいに好きなんだけども……。
自問自答。独り惚気を続けながらも俺は三度目の問いかけを梨花にする。
「もう一ついい? この前、梨花を押し倒しちゃった時あるじゃん?」
「うん、あるね」
「あの時、どう感じた?」
「あぁ、大和はカッコいいなぁって」
「怖いとか感じなかった訳だ」
「だって、大和が望んで人の嫌がる事をしない人だって分かってるから」
「……そう、か」
真顔である。真顔で、俺の事をカッコいいと言ってのける梨花に俺はもう、何も言えなかった。
そして俺からの問いかけがもう無いと感じ取ると梨花が再び動き出す。
「それより、もういい? 私、もっと大和とイチャイチャしたいの! 時間いっぱいまでイチャイチャしたいの!!」
「わ、分かったから!! 暴れるなって!! 色々、柔らかいのが体のあちこちに当たって身動きが取りずらいんだって!!!!」
梨花の柔らかいものを不意に触らないようにしながら、俺は暴れる彼女を宥めようと必死になる。
具体的には頭をもっと撫でたり、胸に巻きつかれた腕をギュッと温めてみたり。
だが、まぁ……そんな事では梨花のイチャイチャ衝動が抑えられるはずもなく、むしろ
「あぁ、時々大和の動きがギコちなかったのはそういう事だったのね」
「そういう事、っていうのはどう言う意味だ?」
「いや、時々足の先に硬いのが当たるなぁって……」
一番触れて欲しくなかった所を口にされてしまう始末。
「〜〜〜〜〜!!!!!」
その日、俺は初めて梨花にガチ怒りをしたのだった。




