全身全霊、梨花独占
「はーい、それじゃあ大和、腕出して〜〜」
「……ん」
あっという間に休憩時間。
梨花は昼飯をそこそこに、俺へのイチャイチャを始める。
俺は彼女に従って、左腕を差し出した。
それを見た梨花はなんともまぁ、嬉しそうな声を上げる。
「よーしいい子いい子〜〜。大和エラいエラい!!」
と。
いや、それくらいなら全然よかったのだ。
ちょっと幼児扱いされるのはよろしくないが、梨花に褒められるのは悪い気がしない。
もっとも───
「腕出したくらいで頭をわしゃわしゃしないで!? それとどうして後ろから抱きついてくるのさ!! チョーカーを手首に巻くくらいなら正面からでも出来るよね!!?」
完全に逃げ場を無くされると、戸惑うものがあるけれども。
そもそも、俺がデートの時の店員さんから受けたアドバイスは、『チョーカーを手首に巻く』、すなわちブレスレットのようにする事なのだ。
それを梨花がしてくれるというだけなら、わざわざ後ろに回らずとも出来る。
なぜ、わざわざ後ろに……?
そんな俺の問いは、梨花の我儘によって一蹴される。
「ダーメ! せっかくのイチャイチャタイムなんだもん! 絶対離してあげない!」
と。
ギュッ!!
お腹に巻きつかれた梨花の腕に強く締め付けられる。
それと同時に梨花の心からの言葉によって胸も強く締め付けられる。
「それにコレは私に寂しい想いをさせた大和への罰でもあるんだから」
「うっ、痛いところを……」
正直、梨花にこの手の感情が乗った話をされると俺はとことん弱くなってしまう。
俺が自分自身への気持ちが希薄なのもあるが、何よりも梨花みたいに感情表現が豊かではないからだ。
「という事で、今日という今日は覚悟してよね〜〜?」
そんなこんなで、俺は梨花からの罰を大人しく受けなければならない。
「大和の体に私の温もりをコレでもかと思い知らせてやるんだから!!」
……正直、色々勝てる気がしないけれども。
そして、俺の嫌な予感は的中する。
「……えいっ!」
「柔らか……っ! また、性懲りもなく背中に胸を……!!」
「えへへ、正解〜〜。流石に簡単過ぎたね」
「当たり前、だろ」
ふにゅん……と感じる独特の柔らかさを間違えるはずがない。
それに、梨花の掛け声と共に一瞬力みを感じたのだ。少なからず緊張を覚える行動と考えると、彼女が胸を俺の背中に押し付けているのが容易に分かった。
まぁ、分かったところで胸のドキドキが収まるわけではないが。
そしてそれは、梨花の目で分かるところに滲み出てしまっているようで───
「でも、耳が赤くなるのはまだ早いんじゃないかなぁ〜?」
「仕方ないだろ! 梨花にこんな事されてはずかしくないわけ……!」
俺は、彼女にあの手この手とからかわれてばかりだ。
梨花にとっても俺は揶揄い甲斐があるのだろう。
「じゃあ、こういうのはどう?」
楽しそうな声色で俺にそう問いかける。
一体何をされるのだろう。そう思いながら、俺は少しでも抵抗をしようと試みるも
「おい、俺の話を最後までぇぇぇぇ!!?」
呆気なく散り去った。
梨花はとても満足そうな声で
「おー、麻那もだったけど、大和にも効くんだねぇ〜」
と一人で感心している。
「な、なんだ……今の……」
俺は何がなんだか分からず、困惑する。
自覚があるのは、左腕の二の腕から手首にかけてのこそばゆさ。
そして耳にかかる色っぽさを覚えるような梨花の息遣い。
締めに体勢を崩された事で背中に感じる胸を擦りあげられる背徳感。
もう、何がなんだか分からない……。
しかし、梨花には俺が悩みに悩んでいる事は関係ない。梨花はとても満足そうに言葉を紡ぐ。
「どう、キモチよかったでしょー? 昨日、後輩にされたのをそのまま麻那にやったら『ひゃあっっ!!』って声をあげられた後にめちゃめちゃ怒られたんだよね〜」
「そりゃ、怒られるだろ……」
梨花と同室の清水の呆れ顔が目に浮かぶ。
しかし、その清水が梨花に向けたであろう言葉が少し予想違っていた。
「『こういうのは、城廻にやってやれ!!』って」
「いや、そうはならんやろ」
「でもこうなってますよ?」
「そうだったわ。なってたわ」
思わず、漫才のような事をしてしまったが正直突っ込まずにはいられなかったのだから。
少なくとも俺の知っている清水は俺が梨花と付き合う事をあまりいい顔をしてなかった印象があるのだ。
それが『俺にやってやれ』?
いまいち訳がわからない。
が、俺がそんな事を今考えるべきではなかった。
少なくとも、梨花とイチャイチャしているこの時間は。
「えへへ〜、大和好き好き〜〜」
「あの……梨花さん? このこれの腰に巻きつくような足は??」
「え、当然、大和を逃がさない為だけど?」
「当然なのか……」
「もちろん!」
気がつけば俺は梨花に完全に身動きを封じられてしまっていた。
ヒョロイ俺なんかの力では元運動部の梨花の拘束を解けるはずがない。
つまりはまぁ、詰みである。
そんな状況で、梨花はゆっくりと俺の耳元でしっとりとした声を出す。
「私はね、独占欲が強いんだよ??」
と、口にしながら。
「あぁ……そうだったな……」
横を向けば満面の笑みの梨花。
そんな梨花の表情に俺はどこか納得するものがあった。
「梨花は本気で欲しいものをとことん追求するんだもんな」
梨花の集中力の差を見れば明らかだ。
勉強への集中度は増したものの、それを凌駕するレベルでイチャイチャへの執着度が高いのだから。
それだけ、俺を好きでいてくれるのなら独占されるのも悪くないのかもと思える。
───もっとも、俺はチョーカーに《《それ》》と近しいものを見出しているのだけれども。




