小悪魔な彼女 /“好き”の加速が止まらない
「ここなら、いいんじゃない?」
「こんなところもあったんだな」
「ね。私も初めてきたよ」
静かなところを求めて俺と梨花がやってきたのは屋上のテラスエリア。
ウッドチップやウッドデッキなど、どこか懐かしさすら感じる場所。
透明な屋根に覆われている場所な為、雨の日でも楽しめるが売りなようだ。
そんな場所に俺と梨花は足を踏み入れ、入り口からやや遠目に配置されているベンチに座る。
「それより、早く。チョーカーつけたい!」
「はいはい、分かってるよ」
オシャレに無縁だと思っていた梨花の意外な言葉に俺は動揺せずにはいられなかった。
「しかし、梨花がチョーカーに興味持つとはなぁ〜。ちょっと意外だよ。……あ、はい、これ梨花の分」
「私だってオシャレに興味持つことくらいあるのよ?」
思わず漏れ出た俺の本音を聞いた梨花は、俺の言葉に不満があるのか、軽くふくれっ面をする。
そんな彼女を怖いどころか、可愛いと思ってしまうのだから俺はトコトン梨花が好きなんだなぁと実感する。
けれど、ここ最近の梨花は可愛いだけの梨花ではなくなってしまった。
「それより、どうして私にチョーカーを渡すの?」
「え、だってつけるんだろ?」
「初めては大和につけて欲しいって思ってたんだけど……」
「お、俺がつけるのか……!!?」
「ダメ、かな?」
小悪魔的な仕草と知恵を覚えてしまったのだ。
何に影響されたのか、誰の入れ知恵なのかは分からないが、ネオ・ニューな梨花からのおねだりに俺が抗える筈がなく
「わ、分かったよ……!」
そう言って、俺は梨花からチョーカーを受け取り、距離を詰めるのだった。
◇◆◇◆◇◆
あぁ、なんて大和はこんなにカッコいいんだろうか……。
彼は自分にはチョーカーは似合わないと言っていたが、むしろ急に男らしくなる彼だからこそつけて欲しいのに……。
あ、待って? それだと今度は私が大和を襲いかねない。
今以上にカッコいい大和を目にしてしまったら、自分の理性を抑えられる気がしない。
少なくとも、今までしてきたイチャイチャ以上の事をしてしまう自信がある。
───今日は、《《やりたい事》》がある為、抑えなければならないけれど。
そんな事を考えながら、大和の目を見つめていると、彼の顔がズイズイと近づき始めた。
「……じっとしてろよ?」
「分かってる」
「間違っても、耳に息吹きかけたりするなよ?」
「はいはい、しませんしません」
「本当に分かってるのかよ……」
そう言って大和は私の首にチョーカーを巻く為、正面から腕を私に伸ばして体を寄せる。
少しだけ警戒しながら体を寄せてくる大和に「あぁ、本当に大和はかっこいいなぁ……」と思いながら、私はそのまま体を大和に委ねた。
安堵。安心。信頼。
大和に抱いている想いがトクントクンと脈打つ。
そしてそれ以上に私の心に棲まう大和への恋心がそれらの想いを荒ぶらせる。
男の表情。男の意地。男の力。
大和の部屋へ初めて行った時から今日までに新たに抱いた彼への想いが加速する。
しかし、それは決して嫌なものではなく、むしろ新たな一面の彼に再び恋してるのだから不思議だ。
今までのように、こっそり私を応援するような恥ずかしがり屋な大和も好きだが、やはり少しばかり“男”を見せる大和も好きなようだ。
結局、大和が好きなことに違いは無いが、《《好きの濃度》》は今までの比では無いほどに時間を追うごとに濃くなっていく。
そして、今、大和が私の首元に手を伸ばしてチョーカーをつけようとしているこの瞬間にも……。
「んん……っ」
「ちょ……動くなって!」
「ごめん、ちょっとムズムズしちゃって、つい……」
「少し我慢してくれ、頼むから……」
「分かってるって……」
鼻元に感じる大和の匂いに思わず反応してしまうと、その反応に大和は私以上に大きく反応する。
はぁ……はぁ……、と大きく呼吸している事から、きっと緊張しているのだろう。
そんな彼の様子に、思わずキュンとしてしまう。
このまま、「大好き」と伝えたいものだが怒られてしまいそうなので、口に出すのは控えた。
その後、落ち着きを取り戻した大和は再び、私の首にチョーカーを付けるよう奮闘し始める。
───さてと……。そろそろ準備しないと、だよね。
そう思うと同時に私は、大和に気づかれないようにポーチから小さな容器を取り出した。
お手洗いの時に、決意した事を思い出しながら、容器の蓋を開けそのまま中身を唇に塗っていく。
普段からつける事のないソレの感覚に、少し違和感を覚えながらも私はしっかりと唇にソレを塗り込んだ。
そして、間も無くして大和が満足気な表情をして私の体から離れていく。
「よし、できたっ!」
「うん、私も」
「わ、私も……? それって一体どう言う……」
私の首にチョーカーを巻き終わり、それはそれは満足そうな表情の大和。
だが、その表情はみるみるうちに不安の表情へと変わっていく。
そんな彼を目に据えて、そんな彼を受け入れるように私は大和に熱い眼差しを向けながら、ゆっくりと手を添える。
「大和……」
大和は何も言わない。何も言ってくれない。何も言わせない。
そんな色々な想いを胸に秘めて、そのまま私は……
「こんな私を好きになってくれてありがとうね」
大和の男らしい唇めがけて、キスをした。
───手に握りこむリップと同じような、甘酸っぱいレモン味を求めて。




