梨花のちょっとしたワガママ
「あ……これ、いい……」
引き続き俺たちがいるのは装飾品エリア。
俺の事を気遣って比較的目の負担にならないような場所を選びつつも、梨花は楽しそうに探索を続けていた。
俺の事を考えながらも、きちんと自分のやりたいことも叶える。
なんていい選択なのだろうか。これ考えたの、目の前にいる梨花ですよ? あとで褒めてもいいですかね??
そんな事を考えている中、梨花の足がとある店の前でピタリと止まる。
その店はネックレスやイヤリングなどの、安価かつオシャレなアイテムを販売している店で、俺や梨花でも入れる雰囲気のところだった。
照明も比較的落とされていて、目にも優しい。
「ん? どれだ?」
「これこれ。オシャレでカッコよくない?」
「へぇ……チョーカーか……」
キラキラした目で見つめる梨花の視線の先に目を向ければ、そこには黒革のチョーカーが赤く光る小さな水晶を正面に携えて佇んでいた。
値段は、高くもなく安くもなく。
今の手持ちの半分くらいで買えるくらい。それくらいの値段だ。
決して普段からそんなにお金を入れているわけではないし、金遣いも荒い方ではない。
かと言って、キラキラとした眼差しをショーウインドゥに向けている梨花を無視できるだろうか。いや、無理だ!
そうなれば、もう俺が取る行動は決まっていた。
「よし、ちょっと待ってろ」
「え? ちょ、大和……?」
俺の声に何か感じるものがあったのだろう。梨花の声がやや慌てているように感じた。
だが、そんな事で俺の決断は止まらない。
「すいません、店頭にあるあの黒革のチョーカー、貰えますか?」
そう言って、ショップの店員を呼び購入の意思を示した。
しかし、梨花は喜ばしい反応するどころか、袖をクイクイと引っ張り困った顔をする。
「あの、私そこまでお金ないし見てるだけで十分なんだけど……」
と、言って。
梨花を困らせるつもりは無かったのだが、彼女としては見ているだけで良かったのだと今更ながら知り、少しばかり俺は後悔した。
かと言って、あれだけギラギラした目を見せつけられて黙っている方がもっと後悔しそうだ。
だから俺は
「いやいや、欲しそうにしてただろ。それに、これくらいは買わせてくれよ。今まで、プレゼントとかしてこなかったんだしさ」
そう言って、梨花の声を振り切り、袖を掴んでいた手を優しく包み込んだ。
すると、俺の気持ちが伝わったのか、困った表情から落ち着いた表情へと変わる梨花。
「……いいの?」
首を傾げながら梨花は俺に問いた。
「もちろん」
そう言って俺は即答する。
「ちょっとワガママも言っていい?」
「俺が叶えられるものなら、なんでもいいぞ」
梨花のわがまま宣言にも即答。
別の色がいい。他の店も見てから考えたい。実は隣のも気になっていた。
恐らくはこんな類のものだろう。そう俺は思っていた。
「二個でもいいかな……?」
「別にいいけど、どうしてだ? スペアとかか?」
「ううん、大和の分」
まさか、こう来るとは思わないじゃん……。
「ペアでつけてみたいなぁって……」
「うーん……俺がチョーカーかぁ……似合わなそうだなぁ……」
「そんな事ないと思うよ? だって大和カッコいいもん! きっとこのチョーカーも似合うよ!!」
「そうは言ってもなぁ……」
思わぬ展開に俺は口ごもってばかりになってしまった。
梨花にチョーカーはきっと似合うと思う。可愛さにかっこよさが付け加えられ今以上に魅力的な女の子になるに違いない。
だが、俺にチョーカーはないだろう……。
決してブサイクとまでは思わないが、普通の男にチョーカーは似合わない。
そう思い、俺は自分用のチョーカーを購入するのを渋っていた。
そんな時、彼女に助長する人が横から現れる。
「あの、お客様? 少々提案があるのですが、よろしいでしょうか」
この店の店員さんであった。
ニコニコと営業スマイルをしている店員さんだが、そのスマイルの裏からは「絶対に逃がしませんよ〜?」と言わんばかりの圧力が見え隠れしている。
そしてその圧力に抗えないまま───
「ありがとうございました〜」
「結局買っちゃったよ……」
二つのチョーカーを購入してしまい、財布の中は英世さん一枚になってしまった。
だがまぁ、後悔はしていない。
「えへへ〜大和とペアセット〜〜」
「ま、梨花が嬉しそうならいいか」
満面の笑みが俺に向けられているのだから。
そんな彼女は店を出るや否や、スキップを始める始末。
「ね!! 早速つけてもいい?」
「んじゃ、ちょっと一休みできるところでも行くか。流石に目が疲れたから、今度こそ落ち着けるところに」
「はいはーい」
どんな梨花も可愛いとは思うが、やはり喜びを前面に出している時の梨花が一番かな。
そんな事を思いながら俺と梨花は、“装飾品エリア”から次なるエリアへと向かうのであった。
文字通り、落ち着ける場所、屋上のテラスへと。




