落ち着きを求めない付き合い方
「いや〜あはは、ドキドキしたねぇ〜」
「笑い事じゃないって、全く……」
俺と梨花は囲っていた集団を抜け出し、モールの中を歩き出していた。
先ほどまでの光景を笑い事で済ませようとする梨花に俺はただただ呆れるしかできない。
梨花の可愛い一面は、俺だけが知ってればいい……。
何人たりとも、俺と梨花のイチャイチャを邪魔する権利はない……。
そんな想いが沸々と湧きそうになるが、慌ててそれをため息と一緒に沈めこむ。
今ここで湧き上がらせても意味のないことだと俺はよく分かっているからだ。
だが、その思いを沈めこませる為のため息がやや強かったのだろう。
「怒ってる?」
そう言って、不安そうな表情で俺の顔を下から覗き込む梨花。
『大好きな彼女にこんな表情させて何してんだ』、と心の中で呟きながら俺は梨花の言葉に答えた。
「怒ってはないけど……もうちょっと落ち着いてデートしたいな、って」
と。
「そっかぁ……よかったぁ……」
俺の言葉を聞き、怒ってないと分かると一転して笑顔の梨花。分かりやすいったらありゃしない。
不安そうな表情も、安堵した表情もどちらも魅力的で、そんな彼女に俺はもっと好きになってしまう。
そんな梨花は嬉しさを表情だけでは抑えられなくなったのか、一時的に握っていた手を離すと、その場で両手を広げてクルッと左回転を一回。
その後、俺の側に寄り添うように再び手を握り直す。
しかも、さっきまで以上に深く強く。当然、握り方は“恋人繋ぎ”だ。
どれだけこの子は俺の心を揺さぶれば気が住むのだろうか。
どれだけ彼女を好きになれば心を揺さぶって来なくなるのだろうか。
どれだけ俺は彼女への好きを更新し続けなければならないのだろうか。
梨花が部活を引退した翌日から彼女への好き度は日々増していくばかりである。
それはとても良いことなのだが、いつか爆発してしまうのではないかと、不安になる。
『リア充爆発しろ』と言う言葉もあるくらいなのだから……。
こんな具合に、ツラツラと彼女との付き合いの不安を考えていると、梨花はのんびりとした口調で言葉を発する。
「でも、そうだねぇ〜。私も落ち着いて大和を感じたいなぁ〜」
と。
ふと、梨花の方を見てみれば天を仰ぎながら目を閉じている彼女。
彼女なりに何かを考えているのだろう。猪突猛進な梨花にもそう言う時間があっても、いいと思う。
そして、そんな梨花も俺は好きなのだ。
やがて、考え事が済んだのか、ゆっくりと目を開ける梨花。
「ね、あっちの方とか静かそうだからさ、行ってみない?」
「あぁ、いいぞ。行こうか」
どんな事を考えていたのかを聞くことはなく、俺は梨花に引っ張られる形で彼女が指差した“静かそうな場所”へと足を進め始める。
彼女が指差した場所に辿り着くまでに、何を考えていたのかを聞くことが出来たのだろうが、俺はそれをする事は無かった。
梨花の満足そうな表情を見たら、聞く必要は無いかな、そう思ったのだ。
そして、まもなくして、俺と梨花は“静かそうな場所”、改め、“装飾品エリア”へと足を踏み入れることになった。
「わはーー! オシャレなのがいっぱい!!」
“装飾品エリア”と言うだけあって、シャンデリアといった部屋のインテリアのみならず、イヤリングやネックレスといった身近な装飾品など、様々なものが店ごとに売られていた。
そんな普段とはまるで違う世界のような店構えの数々に梨花は興奮気味である。
オシャレとは無縁そうな彼女がここまで目を輝かせるとは思っても見なかった。
そして、思ったよりも目の負担が大きい場所だとも……。
「うぉ……なんか、ギラギラしてて目がチカチカするな……」
「大和はギラギラしたのは苦手?」
「苦手というより、落ち着いてるのが好きだからなぁ」
装飾品エリアなのに、落ち着いていないエリアとはこれいかにと思う人もいるかも知れないが、俺が言ってるのは音だけの話ではない。
目に入るものがどれもこれも光り物ばかりで、気持ちが落ち着かないのだ。
そう言うこともあって、さっきから俺は梨花と手を繋いでいない方の手で、視界を極力遮ってどうにかして落ち着こうと努力している。
エリアを出ようとは言わない。梨花がせっかく楽しんでくれているのだから、台無しにしたくないのだ。
しかし、梨花はやはり俺の様子が気になって仕方のないのだろう。店三割、俺七割といった具合に目線を送る彼女。
やがて、梨花はこんな疑問を投げかけてきた。
「でも大和って私のことずっと好きでいてくれてるよね?」
と。
「ん? どゆこと?」
俺は思わず聞き返してしまった。
梨花がしている質問の意図が一瞬わからなかったのだ。
しかし、梨花は引き続き疑問を投げかけてくる。
「いや、大和ってさ、図書館とか人気の無い喫茶店みたいな静かなところ好きだよなぁって、ふと思い出してさ」
「まぁ、確かにそういう所は好きだな。落ち着いて勉強できるし」
「それなのに、騒がしい私のどこを好きになったのかなぁって、思っちゃって……」
手は引き続き握られているものの、梨花が言葉を紡ぐと同時に握る力が徐々に弱々しくなっていくのが分かる。
梨花がどこか不安に感じている事も、一緒に伝わってくる。
しかし、手のひらで伝わるだけでは無いのが俺と梨花の付き合い方だ。
「ねぇ、大和はどうして私に付き合ってくれるの? 落ち着きのない私に」
そう言って、梨花は直接、不安を俺に投げかけてくる。
こう言う彼女だから、俺は梨花を好きになったのだ。
思ったことを、思ったままにせずきちんと伝えてくれる梨花が。
「別に俺、梨花に落ち着きを求めてないよ? むしろ、落ち着きのない梨花だから俺は好きになったんだから」
───好きを求め続ける彼女に、俺は好きになったのだから。




