いっぱい食べる君が愛おしい
「さぁ、大和!! いっぱい食べようね!!!!」
日が変わってデート当日。
俺と梨花は最寄りの駅から少し歩いたところにある大型ショッピングモール『バルコニーモール』へとやって来ていた。
ここは洋服やバッグはもちろん、食材や家財道具など様々なものが各テナント店舗に取り揃えられている。
そしてその中にはフードコートエリアもあるわけで、お昼直前にやってきた俺と梨花は立ち並ぶ店々を見向きもせずフードコートへと直行したのである。
お昼時だし、腹がそこそこ減ってる俺にとってはフードコート直行はありがたい事だったが、どうも梨花の言動に引っかかるものがあった。
というより
「梨花さん、もしやデートを大食い選手権だと勘違いしてないか?」
彼女の目の輝きがどこか怖いものを感じるのだ。
「え、そんなわけないじゃんー!」
そういって否定する梨花だが、依然としてフードコート内の店舗が紹介されている看板から目を離さない。
そしてその看板には、美味しそうな料理の写真がこれでもかと貼られている。
つまりはそういう事だ。
「そう? ならいいんだけど……とても、そうとは思えなくてなぁ……」
「あはは、どうしてそうなるのさ〜。私だって、そこまで馬鹿じゃないって」
「そうだよな。流石に、見くびりすぎだよな? うん、もう少し梨花を信用してみるか」
梨花の言動に不安を感じつつも、自信満々な彼女の言葉を信じ、俺は少しだけ様子を見る事にした。いつでも彼女を止められる心構えをしながら。
そんな事をつゆ知らず、梨花は少しばかり不機嫌そうに言葉を紡ぐ。
「そうそう。もう少し、大和も麻那も私を信用してくれてもいいと思うんだよ!!」
「清水にも心配されるのか。……まぁ、でも今日のデートの報告で清水を見返してやればいいもんな。頑張れ、梨花」
「うん! 頑張るよ〜!!」
どうやら俺と同じ懸念を昨日の段階で『鬼軍曹』の清水も抱いていたようで、予め梨花に釘刺しをしていたようだ。それでもなお、怪しい言動をしているのだから、梨花の不安要素は末恐ろしい。
それでも、梨花なりに心配されまいと頑張っているようで思わず応援したくなる。
が、その応援を裏切るのもある意味彼女らしいというか、彼女らしく───
「で、どの店が食べ放題なの???」
「この子、やっぱり何も分かってなかった!!」
ショッピングモールの中だというのに、思わず大声で突っ込んでしまう俺なのであった。
「『串屋伝説』?」
「あぁ、ここなら時間内食べ放題だし問題ないかなって。嫌か?」
フードコートから少し離れた位置にあるレストランエリアの一角の店、『串屋伝説』の前に俺と梨花はやってきていた。
フードコートには流石に食べ放題の店は無く、かと言って普通に食べていてはおそらく彼女が満足する前に財布の中身が消え去ってしまう。
その点、『バルコニーモール』内唯一の食べ放題店、『串屋伝説』なら彼女と俺の願い両方を叶えられると思い、現在に至る訳だ。
出来れば、フードコートで彼女が満足するくらい振る舞える甲斐性があればよかったのだけど、学生の俺にはそんな事できるはずも無く経済性を選んでしまった。
食べ放題店に逃げてしまった事を梨花はどう思っているのかと、少し心配になりながら彼女の様子を伺っていると、思いの外嬉しそうな表情を浮かべている。
それどころか、満面の笑みを浮かべているではないか。
「嫌なんて事ないよ! むしろ、ガッツリ食べていいんだよね!? 楽しみ過ぎて朝ごはんがあまり喉通らなかったから、お昼どうしようかなって思ってたら、こんな素晴らしいところがあったなんて!!!!」
「……せめて、朝ごはんはちゃんと食べてこような? いや、まぁ俺とのデートを楽しみにしてくれてたのなら素直に嬉しいんだけどね」
「楽しみも楽しみ! 超楽しみにしてたんだよ!! それこそ、試合前日や当日くらいには!!!」
「それなら良かった」
どうやら、梨花的にも『串屋伝説』はお気に召してくれたようだ。
彼女とのデートで串揚げ屋ってどうなんだ、という声がどこからか聴こえて来そうだが、生憎俺は普通のデートを知らないし、彼女が嬉しそうならそれで構わない。
現時点で、梨花が嬉しそうなのだから俺はそれだけで満足なのだ。
それに彼女が試合前日や当日と今日のデートを並べてるという事は、相当ご満悦という事だ。尚更嬉しいものだ。
梨花にとって『試合をしている時が至福の時間』らしいのだ。そして、その前日に試合の準備をしている時も。
それだけ、今日のデートを楽しみにしてくれていたと言うのだから嬉しくないはずがない。
「それじゃあ、入ろっか。思いっきり腹一杯食べよう」
「食べ尽くしてやるー」
「まぁまぁ、お腹壊さない程度にな〜」
俺はそう言って、嬉しさをなるべく表に出さないようにしながら梨花を、油の匂いが充満する店の中へと誘導する。
その時の梨花はとても楽しそうで、それでいて何かに燃えている。
それが、まさかあんな事になるとは思いもしなかった。
◇◆◇◆◇◆
時が経ち、六十分後。食べ放題制限時間残り三十分となった頃の、俺と梨花はと言うとそれはもう、ちょっとしたパニックが起きていた。
「あの、梨花さん……? まだ食べるの……?」
「んぐ……んぐんぐ……!」
「ちゃんと飲み込んでから喋ろうか。食べてる途中で話しかけた俺も悪いけど。はい、オレンジジュース」
「……ぷはぁ」
「で、さっきはなんて?」
「まだまだだよ! って言おうとしたんだけど、お口がいっぱいで上手く言えなかった。恥ずかしい」
「恥ずかしさポイントそこなのね」
テーブルの上には食べた跡の串棒が筒一杯に刺さっている他に、サラダのボウルやドリンクボトルの空が置かれている。
これらほとんどが梨花一人で食べたようなもので、俺が食べた量はこれの微々たるものでしか無い。
それでも梨花の食べるペースは衰えず、お腹の中にブラックホールを仕込んでいるのではと思うほどだ。
けれど、俺は彼女を幻滅する事は無い。それどころか、ちょっと抜けているところが愛らしいとさえ思える。
口の端の揚げカスでさえも、俺は愛せる気がした。
が、それとコレとは話が別である。
「というより、梨花って少食って言ってなかった!? これだけ食べてまだ物足りないの!!?」
そう。大食いに関して言えば、話は別なのだ。
だが、梨花にとってはあくまでいつも通りなようで
「え? 他の部員はもっと食べるよ? 麻那は私の二倍は食べるもの」
「マジか……全然そうはおもえねぇ……」
「そりゃ、普段の食事はそんなに食べないようにしてるからね」
と、次に食べる串揚げをフライヤーで揚げながら、普通だと口にする。
そしてひと段落ついたのか、更に言葉を続ける。
今度は串揚げを見ながらではなく、まっすぐ俺を見て。
「私ね、大和のでは隠し事は無しにしたいの。だから、我慢は基本しない」
「そ、そうか。それは嬉しいな」
隠し事は無しにしたい、きっとこれは紛れも無い彼女の本心なのだろう。
「それに、せっかくの食べ放題だしね。いっぱい食べないと損じゃない?」
たとえ、本心を伝えられた場所が食べ放題の場所であっても、いざ伝えられてみれば関係なかった。
それに、深い付き合いになってまだ日は浅いけれども彼女の事を否定したいわけではないのだ。
むしろ、全部受け止めたいのだ。
「なるほど、確かに」
だから俺は彼女のこと考えに賛同してみる事に。
「というわけで、残り時間ギリギリまで食べれる分でも食べようかなって」
「んじゃ、俺もその手伝いでもするかな」
「そうこなくっちゃ! 大和、大好き!!」
深く付き合いだしてまだ数日だけれども、少しずつ梨花に染められている自分がいる気がした。
そしてそれが不思議と心地よい。
きっと、これが好きになると言う感覚なのだろう。
もうすでに俺はたくさん彼女を好きだと言うのに……。
更に好きになれると言うことなのだろうか。
そう言うことなら、俺はこれ以上の“好き”に耐えられるのだろうか。
そんな事を考えながら梨花と食事を進めていると、店員さんが苦笑いしながら食べ放題時間終了の案内をしに来たのだった。




