それでも俺は止まらない
『私は、大和がキスしたいならいつでもいいよ』
突然梨花から送られてきたメッセージに俺はスマホの画面を見ながら固まっていた。
今まさに、晩飯の用意でもしようかと、スマホを片手に冷蔵庫を開けようとしていたこの体は見事に、固まっている。
「は……え……はっっ!!?」
なんともまぁ、情けない声を出すのだろうか。
これで梨花に男として見られたいなんて言っているのだから、ちゃんちゃら可笑しい。
もう少し、まともな返事をできるようになってから出直せ。
そんな風に自分をおちゃらけたい時がほんの少し前の俺にはありました。
彼女から突然のメッセージに驚くような男にはならないという、訳の分からない自信を持つ時期が。
が、実際にこうしてみれば、メッセージでなくても突然の訪問にさえ驚いているのだからそんな自信なんて無いに等しい。
そんな理想と現実の違いを実感しながら、俺は梨花からのメッセージを再び見返す。
『私は、大和がキスしたいならいつでもいいよ』
何度見ても内容は変わらず、梨花本人によるキス許可の文言だった。
「ま、マジか……。キス、していいのか……?」
動揺は声の異常な震えで外に漏れ出てしまったが、それ以上に嬉しくて堪らない。
まだ、実際にキスをしているわけでも無いのに、キスをしたような幸福感に胸が満たされていた。
それこそ、梨花と付き合い始めた時や、手を初めて握ってハグまでした時や、背中に胸を押し当てられドキドキを共有した時のように……。いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。それほどまでに、俺は今、幸せの中にいる。
が、いつまでもそれが続くわけではなかった。
「って、ダメだな浮かれちゃ。このままじゃ、きっと明日もやらかす……」
梨花とのキス。その時、俺は決まって暴走している。
一人善がりに、自分の気持ちだけでキスをしようとしていた昨日。
梨花の気持ちを汲み取ろうとするも、結局煽られて乱された心を落ち着かせる事が出来ず襲うようにキスをしようとした今日。
何も反省してないわけではない。
今日だって、梨花の気持ちを尊重してイチャイチャに取り組もうと心に決めていたのだ。
それがあのザマなのだから、どうしようもない。
このままでは確実に梨花を傷つけてしまう。
そんな事はさせたくないのだ。
かといって、彼女と別れるというのは絶対に嫌だ。
お互いに好き合っているのに別れる理由が無い。
梨花が俺に愛想を尽かしたというのならそれは仕方のない事だが、彼女が別れを申し出ない限り現状での最善を模索し続ける。
それが俺なりの梨花との付き合い方だと思っている。
「とりあえず、いつでも冷静でいれるようにしないとだよなぁ……。梨花は基本、勢い任せだし」
いつまでもじっとしてても仕方がないと思い、俺は引き続きブツクサと呟きながら晩飯の準備を進める。
「かと言って、勢い任せの梨花をそのまま放置するわけにもいかないし、やっぱり力は欲しい……よな?」
冷蔵庫からベーコンブロックを取り出し、食べやすい大きさに切っていく。
「でも、ちょっとやそっとの力で梨花の猪突猛進っぷりは止められないよなぁ……」
途中、切れない部分があったが、その時はまな板に叩きつけるように包丁にくっつけたまま叩き落とした。
「って、なるとやっぱり落ち着かせるもの……梨花が落ち着くもの……」
なんとか、ベーコンブロックの退治が終わり、今度は卵を溶き伏せる事にした。
「やっぱりソフトかなぁ……試合になると途端に静かになるし」
頭上の棚からボウルを取り出し卵を一玉割り入れて、掻き混ぜ始める。
「そういえば、今日の勉強も急に静かになったな。って事は集中すれば静かなのかな、きっと」
あっという間に掻き混ぜられた溶き卵に、冷凍庫から取り出した万能冷凍食材『ミックスベジタブル』を適量混ぜ合わせていく。
「もっと梨花を知らないとな……。もっと、たくさん……、余す事なく…………」
最後に炊飯器からご飯を取り出し、よく熱したフライパンに油を適量垂らし馴染ませてから、全ての材料をその中にぶち込んでいく。
そこからは呟く事はなくなり、ただ目の前の食材が今夜の晩飯へと成っていく様を見届けている、ただそれだけだった。
そんな俺のスマホにはただ、梨花への返信を済ませた画面が開かれている。
『明日、外に出掛けないか?』
と俺が送った直後の画面が。
その後、彼女からすぐに『デートだね!? いいよ、行こう!!!!!』と返事が来たのは予想がついていた。




