愛しき彼女とのメッセージ
「さてと……明日からどうしたもんか……」
簡単なシャワーを浴び終わり、今から晩飯の準備に取り掛かろうとしながら俺は、キッチンでブツクサと悩み呟いていた。
悩みの内容はもちろん、梨花の事。
俺が悩むとしたら、勉強の難問か、梨花か。それくらいだ。
そしてここ最近、というより直近の二日間、梨花の事ばかり考えている。
決勝戦直後の梨花の様子から始まり、その明け方に梨花が直撃してきたり、あまりにも急激な距離の縮まり方に戸惑ったり……。
とにかく梨花尽くしの日々なわけなのだが、このまま続いたら間違いなく梨花を傷つけてしまいそうで怖くなってきたのだ。
それは、昨日に引き続き今日もまた、梨花にキスを迫った事でよく分かった。
俺はおそらく梨花に対する独占欲が強いのだろう。
一年の頃から彼女と恋人らしい事を求めて、それでも胸のうちにしまい込んでいく内に、それらが凝縮され、強い独占欲へと変貌。
きっと、そういう事なのだろう。
改めて、俺が男なのだと実感すると共に、醜さも同時に感じる。
『彼女があれだけ俺を求めてくれているのに、俺は更に求めるのか』、と。
そう心の内で呟いていると、自ずと答えは出てくる。
だが、それをいつ、どうやって梨花に伝えるかだ。
明日、彼女が来てから?
それとももう少し間を置いてから?
逆をついて、今すぐに電話で伝える?
ダメだ、どれをしていいか分からない。
俺はこんなにも優柔不断だったのかと、思い知らされる。
梨花みたく、猪突猛進でありたい。
梨花みたく、やりたい事を素直に『やりたい』と言える人物でありたい。
梨花みたく、何事にも前向きに考えられるようになりたい。
梨花は俺の事を好いてくれているけれども、俺はそれ以上に梨花の事が好きなのだ。大好きなのだ。尊敬すらしている。
彼女がいるから、今日までめげずに勉強をやってこれたし、彼女に頼りに応えられるように努力もした。それこそ、ソフト部の『鬼軍曹』清水に負けないくらいには。
梨花とは違い、清水自身はスポーツ特待ではないけれど、彼女はそれに遜色ないくらいに努力を続けてレギュラーを勝ち取り部長へとなった。
正直、敵わないとさえ思う。清水の努力に敬意を払わないわけにはいかなかった。
しかし、それ以上に梨花の隣を一人占めされている気がしてならなかったのだ。
梨花は俺のものだと、言ってやりたかったのだ。
きっと、それが空回りしてしまっているのだろう。
梨花を愛しているし、梨花が誰の支配下にあるわけでもない事は頭では分かっている。
それでも、心まで説き伏せる事は出来ずに、気づけば梨花を心のままに襲っていた。
そう、今日の昼のように、強引に梨花の唇を求めて。
「……とりあえず、メールだけでも送って謝らないとな」
改めて、自分がやってしまった事の重大さを思い知りながら、俺はテーブルの上のスマホに手をかける。
そしてそのまま梨花とのメッセージ欄を開く。
四日ぶりに開いたそのメッセージ欄には梨花との準決勝直後のメッセージが残されていた。
『大和! やったよ!! 次で優勝だよ、優勝!!』
『お、お、もちつけ梨花!! しんこちゅうだ!!しんこちゅうをするんだ!!』
『それを言うなら深呼吸でしょww 大和ってば、慌て過ぎww 落ち着けも、もちつけになってるし』
『す、すまん……嬉しくてつい』
『あはは、知ってる。三塁スタンドで大和が一人、大喜びしてるの見えたから』
『そ、そんなに目立ってたか?』
『まぁまぁ目立ってたよ〜』
『それはちょっと、やらかした……』
『いや、むしろみんな嬉しそうだったよ〜? あそこまで喜んで貰えると決勝ももっと頑張りたくなるよねー、って』
『そうか。それならよかった』
『明後日、頑張るからね』
『応援してる』
『ありがと! 大好き!!』
長く付き合いのある友人のようなメッセージの後に、残された梨花からの愛の言葉。
決勝進出が決まった時の興奮気味なやり取りをしつつも、キチンと愛がある事を忘れていない。そんなやりとりが彼女との間で交わされていた。
そして最後に、日が変わり二日前、
『大丈夫か?』
『……大丈夫、明日には立ち直るから』
行われたやりとりはこれだけだ。
そしてその翌日には梨花が早朝にやってきて、俺は大変驚いたのだった。
そんなメッセージ欄に俺は追加のメッセージを送ろうとしていた。
『さっきは、ゴメン……』
と。
だが、そのメッセージを送る事は叶わなかった。
その直前に梨花からメッセージが届いたからだ。
『私は、大和がキスしたいならいつでもいいよ』
と。




