魅惑のお風呂タイム
「さてと、可愛い後輩ちゃんに注意喚起も終わった事だし、そろそろお風呂でも行こうか」
「そ、そうだね……変な汗も出ちゃったし」
「何よ、変な汗って。風邪でも引いたの?」
「いや、そうじゃないんだけど……」
「そうじゃないの?」
私たちの部屋から頭を下げて退出していく後輩の姿を見ながら、私は隣にいる麻那に恐怖を覚えていた。
それは怖すぎて恐ろしいとかそう言うものではなく、理詰めをして部長としての信念を見せつけられたが故の恐怖だった。
言ってしまえば『麻那を敵にしなくてほんと良かった……』である。
しかし、麻那は至って冷静で、自分がした事は当然の事と言わんばかりに真顔。
その姿にかつての苦戦した試合を思い出しては
(言えない……麻那の説教姿に、現役プレー中に弱音吐いてしこたま怒られた事を思い出して、トラウマ復活しそうだったなんて……)
と冷や汗の理由を心の中で口にする始末。
それでも、麻那は何も動じない。
いや、今のは心の内を読まれて動じて貰っては困るんだけどね……。
「ん?」
依然として真顔で私を見つめる麻那。
もしかして、心の内を見透かされてるのではと怖くなってしまい、
「と、とりあえずお風呂、いこ!? 早く行かないと閉まっちゃうから!!」
私は慌てて麻那の腕を引っ張り始める。
「あぁ、はいはい、分かりましたよ」
この時の麻那はどこか楽しそうで、もしかしたらからかっていたのかも……そんな事を考えながらも私は彼女の腕を握り続ける。
そしていざ浴場に到着してみると、部屋の中で感じていた緊張感なんてものは感じなくなる。
それよりも
「……ゴクリ」
「……今度はどうしたのさ、梨花」
「いや、普段は全然目立たないから気にしてなかったんだけど、こうして見ると相変わらず大きいなぁって……」
普段では滅多に見ることの出来ない麻那の豊満な胸にドキドキして堪らないのだから大変だ。
ぶるるん……っ! と、麻那が体をスポンジで擦る度に揺れる胸に視線が誘導されてしまい、さっきまでの緊張なんてものは吹き飛んでしまった。
しかも、それが着痩せするタイプの女の子の胸となればなおさら、興味が出てしまう。
麻那本人曰く『練習中は胸押さえつけとかないとウザくて仕方ない。むしろ無い方がいい』と言うことらしい。
胸がそんなに大きくない私にとって、少し羨ましいくらいの言葉だ。
そしてそれは今も変わらないようなのだが、
「胸が大きいってそんなにいいものでもないわよ。むしろ私は梨花のような程よい大きさになりたかったわよ」
「へ、私? なんで??」
突然の私への麻那の鋭い目に、思わず身構えてしまう。
だが、それを超える早さで麻那は私の胸に手を伸ばすと───
「小さすぎず大きすぎない丁度いいサイズに、それでいてちゃんとモチモチしてて揉み応えもある!!」
「ちょ……なんか、くしゅぐった……ひゃうっっ……」
そのまま私の胸に触れ、くすぐり始める。
その時の麻那の声はとても楽しそうで、止める気は湧かなかったのだが、それでも限度というものはあるだろう。
「程よく小さい上に感度良好ときた。なんなのこの差は!! 私なんか、大きすぎて肩が辛いし、かといって脂肪の塊だから妙にフニュフニュしてるし……あぁぁ!! 梨花が羨ましい!!!」
「やめ……麻那、やめ……死んじゃう……くしゅぐったくて……死んじゃうぅぅ……」
「あ、ごめん。興奮しすぎて、つい」
「は、はひぃ…………」
もはや麻那からの八つ当たりなのだろうか、とさえ思えた。
私の大きくもない胸を手で下から支え始めたと思いきや、むにむにむにむに……と執拗に揉んでくる麻那。
それだけに留まらず、後ろから抱きつかれ背中に麻那の大きな背中を感じさせられる始末。
なんだろう、これは何かの当てつけなのだろうか……。
そんな事を覚えながら、私は座っていたイスから転げ落ちるのだった。
「大丈夫? 落ち着いた?」
「だ、大丈夫……死ぬかと思っちゃった……」
「ごめん、ちょっと調子に乗っちゃった」
「気にしないで。夢の中で大和に会えたから。なんか『こっちに来るな!!』って必死になって手を振ってたけど」
「全然大丈夫じゃないじゃん!! そんなにくすぐり弱いなら言ってよ!!!?」
「いやぁ、はははは」
「全然、笑い事じゃないんだけど……」
私がイスから転げ落ちてから、麻那はそれはもう大慌て。
まだ浴場に残っていた後輩や同級生を呼び出しては、私を脱衣場に運び出すと干上がってないか、のぼせてないかを確認しようとしていたが、そんなわけないじゃんと突っ込みたくて仕方なかった。
くすぐったくて、倒れただけだというのに……。
まぁ、くすぐったすぎて走馬灯みたいなものを見たのだから、それは心配になるか……。
そんな事を考えていると、私が落ち着くのを待っていた麻那が本題を切り出す。
「で、色々あって忘れそうだけど、梨花はどうなの? 理想を諦めてもう早く城廻とキスしたい? それとも、もうちょっと理想を追いたい?」
と。
正直、私は分からなかった。
キスはしたい。けど、理想のキスをしたい。でも、大和に我慢させるのは嫌だ。
どんな選択をしたらいいか自分には分からないのだ。
「どうしたら、いいと思う? 麻那の考えを聞きたい」
「私はどっちでもいいと思うわよ。梨花がどんな答えを出しても、間違えない限り応援する」
「間違えてたら、どうするのさ」
「その時は全力で止めるよ。大事な友人だもの」
「……でも、今回はそうじゃないの?」
「だって、キスしたいのは恋愛感情として当然の事じゃない。だから私は全力で応援するわよ」
「そう……当然の、事なんだ」
結局、麻那に聞いてもどれが正解かは分からなかった。分からなかったけれども、何となく胸のうちのモヤモヤが晴れた気がした。
「で、どうするの? 梨花の答えは」
麻那がそう私に問いかける。
興味深く、それでいて応援する目で。
その強い目に私の気持ちは定まり
「私は───」
気づけば、自分の新たな気持ちを麻那に伝えていたのだった。




