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巫女の守護者 連載版  作者: 司馬田アンデルセン
時針の覡
24/27

時折の覡7

 黒坂羽黒の特訓は長時間の雷曲亭覇天との戦闘であり、それ以外は主に呼吸の整え方であった。そして今やっている特訓は真剣を使った模擬戦であった。が、その様子は覇天が一方的に攻撃を与えており、それを羽黒は必死に防御、あるいは受け流すしかすべはなかった。それでも時折に見せる羽黒の返し技はそれなりにと、もう少しの所で届きそうであった。

「羽黒さんさっきから攻撃を受けてばかりで中々と良いように展開できていないな」

 羽黒と覇天の模擬戦の様子を見てありのままの感じたことを文鳥亭は口にした。その言葉を聞き美琴もその模擬戦を眺めた。確かに外から見ても羽黒は押されている。そして押されているだけ以外にも美琴には押されている他に流れも読み取れた。流れは以前と変わりなく覇天にと流れが掴まれている。一方の羽黒は流れを掴もうとはしているもののそれを我が物にとできていない。

「まあ、最初のうちはあんなものじゃろう。して、文鳥亭よ、お主はどれだけのことを知っている?」

「どのくらい?どう言うことですか美琴さん」

「そうだな、もっと分かりやすく言うのであれば天海、天海ノ定海都筑についてじゃ」

 美琴の説明にやっと何について指しているのかを理解し、文鳥亭は少し顔を俯かせ、しばらく考えた後に言葉を選ぶようにして言った。そこには少しどう答えればいいか戸惑いながらの回答であった。

「基礎的なことですかね。それ以外の事は詳しくは。美琴さんは、もっと詳しく知っているんですよね?」

「うむ。とは言え、今の状況がどうにも理解できなくてな。天海が敵であれば天海自ら、あるいはその信者が来るものじゃが、今は何故だか手が回っていないどころか、その代わりに抑止力団体が敵となって余の前に現れてきている」

 当然の疑問と言えばそうであった。以前まで、封印される前の頃は分かりやすく天海であった。しかし今の状況ではまるで天海の代わりに打って変わって抑止力団体が敵として前に現れた。そこが美琴には分からなかった。

 未だに羽黒は覇天にと押されており、繰り出される技を受け流すか守るしかなかった。連続して繰り出される覇天の剣裁きは全てが見えない。例えるのであれば感覚的には伝わってくるのに見えない誰かがパンチをするかのような感じだ。それが何回も連続してやってくる。羽黒にとってそれは初めてではなかった。似たような技の繰り出し方をする人を知っている。それは父、和徳の繰り出す一本一本の技に似ていた。だがその時はしっかりと見えていた。だけど覇天の技は見えない。

「どうした。それではいつまで経っても勝つことは出来ませんよ。流れを我が物にしてください」

 覇天の指摘にただ舌打ちをして「承知している」とでも返すかのようにして技を流していた。

 ただ受け流していても分かることはある。流れは相手に完全的に掌握されている、ならばそれを奪うまでだ。そのためにも相手の流れをここで断ち切る、あるいは崩さなければいけない。そこで考えた手は突きだ。連続して繰り出す技に合わせて突きを出し刀が交わった時にそのままの勢いで押し通すだけだ。その後のことは考えてはいない。でもそうでもしないと今の状況を打開できないと羽黒は瞬間的に判断したのだ。

 羽黒の繰り出した突きは目論見通り覇天の刀に当たった。その瞬間で覇天の攻撃は止まった、正確には刀と刀がすれて軌道がずれたのだ。覇天の攻撃は刀を振り下ろす、それが羽黒の突き技によって流れと勢いが崩れた。その僅かな隙に羽黒は刀を押し通した。だが、それでも押し通すことは叶わなかった。刀を覇天にと押し通すと同時に自分の視点が上、すなわち空にと向いた。理解するのにそんなに時間はかからなかった。足払いをされた、早く次の対応を取らねばと受け身を取る。だが手に構えている刀が邪魔となり足かせになる。しかしここで離してしまえば明らかにその後の戦いが不利になるだろう。それでも戦い続けるためには形に囚われては勝てない。

 突き技を繰り出されて流れを断たれたことには驚いたがまだ羽黒は完全には流れを読む、乗ることは出来ていない。そのためかわざとらしく足払いをしてみせたがそれに気付く様子もなく引っかかった。そこに覇天は刀で羽黒の喉元に刺すように追撃をする。これで今回の勝負も終わったと確信した時だった。羽黒が手にしていた刀を自らと投げたのだ。その方向は間違いなく自分自身であった。弧を描くように回転してやってくるそれを避けることは容易い。ただ体を横に逸らすだけで済む、しかしそれでは駄目だ。何故だか分からないがそう流れが告げる。理由は分からない。明らかに自分が勝っているはずなのだ、その粋を信じてそれを避けた。投げた刀は避けることはできた、しかし避けた次には羽黒の殴りの追撃が迫って来ていた。

 剣道の形に囚われないやり方、今の行動が羽黒なりの答えであった。たとえ投げた刀が当たらなかったとしても少しでも意表を突くことができればそれでいい。覇天が流れを溢したところで自分の流れにする。その流れを活かして羽黒は拳を入れ込む。あと一歩で拳が覇天にと届くところだった、急激に腹部の所にと痛み、何か強い物に圧迫される衝撃が襲う。見ると覇天が刀の柄頭で腹を殴られ、その衝動を直に受けて大きく後ろにと飛ばされる。そして飛ばされた羽黒を追うように覇天は刀を構え襲い掛かる。先の攻撃で未だに振動が抜けきっていない体を動かすのには無理がある。それでも動かさなければ負ける。しかし次の一瞬で勝負は決まった。羽黒が倒れた体を起こそうとした時には既に刀が自分の喉にと向けられていた。

「これで、今日の分は終わりだな。早速行動にと示すのはいいが、まだまだ囚われているところがあるな」

 覇天は羽黒の投げた取りに向かい、羽黒の倒れている姿に微笑み返して物信にと刀を返した。一方の羽黒はそれを少し不満げに受け取った。それを見かねて覇天は少しでも羽黒の内なるやる気を出すためにも気の利いた言葉を選んで言った。

「そうしょげるな。まだ一日目だぞ、むしろ今日一日でここまで己の体を引き上げることができているもんだ」

「でも、それでもダメなんですよね?」

 羽黒の瞳は自身の弱さと未熟さに対する不満の目つきであった。その不満の目つきに覇天は羽黒の肩に手を置き、軽く叩いて軽く触れ合う程度にして言った。

「そこまでムキになるな。それに、どうした?まるで何かに急いでいるようじゃないか」

 何かに悩んでいるのではないかと思った覇天は単直にと接するように羽黒の顔を見て言った。一方羽黒は覇天から刀を無作為に受け取り、急いでいるような足取りで茅葺の方にと向かいながら横目で流すようにして言った。

「そりゃあ、急ぎたくもなりますよ。強くならなきゃ、そうならなきゃ僕は信用されないんですから。距離を置かれる気持ちって分かりますか?」

 急に投げかけられ羽黒の疑問に覇天は頭を傾げ、その質問の意味を探るように「どう言うことだ」と問い返した。その問い返しに羽黒は顔を振り向け、目を細く笑わして語った。

「今まで近かった人が遠くに行ってしまうことですよ。それは、怖いことですよ。自分にはその気が無くても何気ないことで傷つけてしまい、それで距離を置かれて関係が崩れることはよくあることですよ。だからこそ僕は怖くて、嫌なんですよ」

 昨日の夜の美琴とのやり取りは完全に距離の置かれたような態度であった。あの後どのようなやり取り、どんな心変わりがあったのか羽黒は知らない。それ故に羽黒はあのような態度をとる美琴が不思議、もっと正確に言うならば心配であり不安であった。そのためにも自身が強くなって美琴を安心さてあげなければならないと思ったのだ。

「とにかく、僕は少しイメージトレーニングをします。少しでも流れをイメージとして得たいので」

 そう羽黒は自分と覇天の模擬戦を眺めていた文鳥亭と美琴を余所に、あるいはそこに 

いないかのように無下にでもするかのように張り付いた顔で茅葺へと入って行った。それを出迎えた雪穂は羽黒を心配するように羽黒に詰め寄り「大丈夫?」と声を掛けた。それに対し羽黒は「あぁ」とその場であぐらをかいてその場に座った。

「疲労的には大丈夫だよ。ただ、ちょっと不安に駆られただけさ。いや、少し怖いだけかもね」

「怖い?それってどんな風に」

 答えることに少し戸惑い、暫く考えた後に言葉を選ぶようにして手を合わせて言った。

「随分と前の事さ。従弟に本馬加佐見(ほんまかざみ)って奴がいてさ、中学の後輩でもあったんだよ。僕の事を慕ってはいたけどひと悶着があってあの日以来顔を合わせていないんだ。だけど、関係が悪化したっての言うのは分かる」

「また、またそれを繰り返しそうで怖いの?でも、それはどうして?もしかして覇天さんと上手くいってないの」

「覇天さんじゃないよ・・・美琴だよ。昨日の夜、寝る前に美琴と会って話をしたんだ。その時に美琴が、どこか遠くにいたように思えた。そして、美琴の目には僕の姿は映っていなかった。それが怖いんだ、突然の変化が」

 羽黒の悩み、不安はとても雪穂一人では解決できるものではない。それでも一つずつ、少しでも悩みと不安を解決できれば羽黒の心も和らぐと思い、心の内を紐解くかのように聞き込むようにして心の内を開こうとした。

「羽黒さんは聞きましたか?美琴さんの記憶が完全に戻った事を」

 その言葉に羽黒は驚きの顔を隠せず、身を乗り出すほどであったが身を制して「そうだったのか」とだけ呟いた。その様子は雪穂にとっても驚きであった。まさか美琴が羽黒にと伝えて無かったとは思えなかったのだ。

「まあ、そう言うことか。それほどまでに僕は信用、期待されていないのかもな」

「そ、そんなことないですよ。期待、信用されているからこそ黙ってるんです。安心して戦って貰うためにも。それに、距離を置いているのも記憶が戻ったばかりだからだと思いますよ。まだ、しっかりと美琴ちゃんは心を整理できてないんだと思います」

 雪穂の考え方はそれっぽいものだ。だからこそより強くならなければならない。だからこそ流れを掴む感覚を十蔵の記憶から引き出して自分のものにしなければならない。

「そうかもな。なあ、雪穂。もしも、もしも僕が僕じゃなくなったら雪穂はどうする?」

 突然の質問、しかもそれは意味の分からないものであった。だが羽黒の眼差しは本気の眼であった。だからこそ雪穂も本気で答えなければ。その想いを胸に雪穂は自分の思う羽黒の在り方、自分から見た生きようを直球で述べた。

「私は、私は羽黒さんのことをどこまでも真っすぐで、迷いのない打ち込みの強さに私は惚れました。それ以外だったら私はきっと羽黒さんには惚れてはいなかったでしょう。だから、私は今の羽黒さんが変わっても私は今の羽黒さんに付いて行きます」

 雪穂の眼差し、言葉は真意からなるものであった。少しは流れを読めるようになった今の羽黒にはそれが嫌でも伝わる。だからこそそれは同時に心を蝕む物にともなった。自分の打ち込みに迷いがない、真っすぐである、それらは見る側にとっては真意であったとしても羽黒からすればそれは偽り、もとい違ったものだ。当然迷いこそはあるが、真っすぐな打ち込みではない、ただの反し技だ。羽黒の早い打ち込みから見るもののほとんどが、羽黒が打ち込んだ、一瞬の隙を突いた、との評価が飛び交うがそれは違う。ほとんどあの時、全国大会で見せた返し技がほとんどであり、ただそれが早くて返し技に見えないだけなのだった。雪穂ならそれが分かってくれていた、返し技だと見抜いていたと勝手な期待が綻び、真っすぐな打ち込みを信じている雪穂にと申し訳ない気持ちが溢れかえった。

「雪穂は・・・僕の父さん、和徳の事はどれくらい知っているんだい?」

 羽黒は口をパクパクと気の動揺が表に出るほどに行動を隠すことができずに雪穂にと聞いていた。雪穂は少し羽黒のことを気に掛けるような顔で見ていた。

「真っすぐな打ち込み、もっと言えば迷いが無いって言える完全無欠の打ち込みだって思う。だけど僕は、父さんには敵わない」

「・・・そうかもしれませんね。羽黒さんは、和徳様と同じような打ち込みをしたいんですか、それとも、その言葉の意味には他の意味があるんですか」

 雪穂は自分の言葉の真意を探ろうとしている。そんな些細なことまでもが分かる。鬱陶しい、もっと言えば分からないで欲しい。さっきの模擬戦では全然であったが今では細かなことまでもが分かる。心を落ち着かせろ、そう自分にと訴えるが他の流れも分かる。美琴と文鳥亭がこちらにとやってくることも、そしてそこには覇天の姿もある。その流れが分かった途端だ、その場から離れたくなった。何故かは分からない。でも本能的にここにいては嫌だと思ったのだ。

 美琴と文鳥亭、そしてその後ろから覇天が茅葺にと入って来た時だった。羽黒は突如と走り出して茅葺を抜け出し、竹林のどこかへと向かって走り出していた。もちろんその様子を見ていた一同は羽黒を心配するようにして見ていた。

 どこかへ、今はただどこかに行きたいと思いながら走り出した。自分でも何がなんなのかは分からない。

 走り出してしばらくした。随分と開けた場所にと辿り着いた。もちろんその場所には特に建築物、人工物はない。ただ開けただけの場所だ。そこで冷静を取り戻した羽黒は呼吸を整え、大丈夫だと自分にと必死に訴えた。

「逃げる、そんな必要ないのに。どうしちゃったんだろうな僕は」

 空を眺めるといつの間にかと夕方模様となっていた。そんな景色が更に羽黒の気持ちを更に混乱させる。

 自分が何者だとか、なんなのだか面倒くさいこととは一切無縁だった。だが、今は、トキハリの話を聞いてからは無縁ではないことに気付かされた。それどころか苦しむ羽目にもなったのだ。

 十蔵の生まれ変わり、十蔵の記憶を受け継ぐことを聞いてあの場ではそれなりきのことを言ったが実際の所はどうも不安だけであった。自分が自分でいられるのかが不安なのだ。

「自分は自分、だったらいいのにな。美琴を守るんであったら、なんで僕なんかを生かすために刀の腕だけ置いて行ったんだよ、十蔵さん」

 苦言を漏らしていると誰かが来る気配が察知できた。すぐさまに羽黒は流れを読み取ってみて誰が来るのかを読み取ろうと試みた。すると頭にすらすらと流れるように情景が入る。それは美琴が、美琴一人がこちらにとやってくる様子であった。やって来る方向にと大きく「美琴か?」と問うように言葉を投げると美琴が姿を現して言った。

「なんじゃ、余がここにくることが分かっておったのか。どうした、急に逃げるようにして皆驚いていたぞ」

「分かってるよ。ただ、あそこから逃げ出したくなっただけさ。今日の朝から、流れに敏感になってるだけで、さっきのもそうさ」

「敏感になって戦いに集中できなかった、それが負けた言い訳か?」

 美琴と羽黒は互いに苦笑を浮かべて二人だけの場を和らげた。そしてしばらくした後に美琴が羽黒を気にするかのように心配した眼差しを向け、気を遣うような言葉を放った。

「流れを読めるようになって、怖いのか?それとも、何か別の事であったりするのか?」

 様子はいつもの美琴だ。自分の知っている感じのそれだ。昨日の夜とは全くの別の様子だ。それだけでも羽黒としては嬉しかったが同時に不安、心配でもあった。

「美琴の方も、昨日の夜とは違って元気があるようで良かった」

「あの時は、ただ理解に時間が掛かっただけじゃ。色々とあったからのう、それについては・・・」

「雪穂から聞いた。記憶が、戻ったんだって。喜ぶべきかどうかは分からない、そんな気はする。でも、そのおかげで真の敵、明確な敵も分かった」

 今の敵は天海ノ定海都筑、抑止の柱の一柱でもある天海だ。勝てる気はしない。相手は神、人々が称えるものにどう勝てばいいのだろうか。どう逃げればいいのだろう、不可能に近い。羽黒はその事が理解できていた。だからつい言葉に漏らしていた。

「天海、抑止の柱相手にどう立ち向かえばいいんだろうな。どうする、巫女さん?」

 不意なその言葉に美琴は少し驚いたかのように目を丸くし、羽黒の方を向いて口をパクパクとして見つめていた。羽黒はつい、それとも偶発的に美琴に対してあの呼び名で呼んでしまったのだ。

「ああ、悪い。つい気が動転して変な風に呼んじゃった。悪気はない、すまない美琴。それより、抑止の柱の事だよな。天海が抑止の柱だってことには驚きだよな」

 驚く表情の美琴に対して羽黒はすぐに話題を変えようと慌てるようにして言うも美琴はその言葉に執着するかのように顔を近づけ、眉間を振るわせ、一歩、また一歩足を後ずさりしながらも羽黒の顔を捉えていた。

「・・・すまない。そんな気はなかった、言葉が自然と出たんだ。まるで、僕みたいじゃない感じかな」

 哀愁を漂わせる諦めの顔を美琴にと向けて羽黒はただ力なしに言った。

「それが、覇天の言っていた器なるモノか?いや、今はそのようなことを聞くべきではないな。確かに、今の羽黒の流れ、雰囲気は正体こそは分からぬが、羽黒であって若干羽黒ではないな」

「でも、それは刀の腕だけだろ?それ以外は依然と変わってないんだろ」

 その言葉に対してしばしの沈黙、どのように言葉を選ぼうと迷う美琴。だが言葉を上手く選ぶことができずついには首を振ってそれを否定した。その事をすぐに受け入れられず、目を振るわせ、虚ろな思いを胸に浮かべて手を震わせた。

 トキハリは確かに刀の技術だけを残したと言った。だが美琴はそれ以外の何かが自分にあると見抜いたのだ。

「そっか、そうなのか。でも、驚きだな。美琴が流れを読めるなんて、もしかしたら僕よりも上手いんじゃないか」

「そうじゃろうか。余は昔の知識、加えて言うならばミャルクヨの知識、力があるからできる業じゃ。それらに頼らずに自らの力で成せる羽黒の方が凄いぞ」

 自分の力、そんなはずはない。自分が流れを読むことができるのは十蔵の力の御蔭であるそのはずなのに他人からはどうやらそうは見えていないらしい。それ故に悔しい。我が物とすることができていないこと、自分自身が評価されていないことが。

「僕は、凄くない。僕はただ、とある人が残した腕を頼りに技を成り立たせているだけだよ。そんな不明確な力でも、美琴はいいのかい?」

 初めての問いであった。今まで守ってきた、守護者をしていた者とは思えぬ質問は美琴を驚愕させたと同時に危険すらも感じた。今の羽黒は明らかに何かに迷っている。それはつまり守護者としての気力と資格をなくすことだ。それだけは今の状況ではあってはいけない。

「あってはいけない、そうなると何が悪いんだ、美琴。今の美琴の本音を、必要としていることを聞かせてくれ」

 まるで全てを見透かしているかのように心の内を暴いたことに驚きを見せる美琴。羽黒は見透かした眼ではなく、変わらず虚ろな眼でとらえていた。

 返す言葉が見つからない、どう答えればいいか分からない、それらの思惑に駆られ中々と言葉に出すことができない。それを見透かした羽黒は美琴を突き放すかのようにその言葉を放った。

「いいよ、大丈夫。僕はがむしゃらなりにもやってみるからさ。だから、今は少し一人で考えさせてくれないか」

 自ら距離を取ることを決断する羽黒。今の状況ではそれしか思いつく手がない、いや、それしかない。ただ一つの確認を取るためには今は一人の状況を作るしかないのだ。そのことを心なしか察した美琴は言葉はかけずにただ頷いて羽黒を置いて茅葺の方にと向かって行った。そして羽黒はその様子を見送り、そこに残った。

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