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巫女の守護者 連載版  作者: 司馬田アンデルセン
時針の覡
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時針の覡6

 視界が元の世界にと戻る。それでもさっきまで立っていた、歩いた場所とは違う場所である。目の前には茅葺があり、羽黒はそこが覇天の言っていた場所のことだとすぐに分かった。

 羽黒がその茅葺にと近づこうと前へと進むと、茅葺の方から覇天の姿が現れた。覇天はどことなく驚いた顔、そしてすました顔で羽黒を見ていた。

「意外と、早くここに辿り着きましたね。それで、分かりましたか流れを読むと言うことは」

 早く辿り着いた、正確にはトキハリの力によってここに辿り着いただけであり、流れを読む力を手に入れたわけではない。それでも六桜の呼吸がどのようなものかはトキハリが見せたもので分かった。

「流れを読む、流れに乗るが六桜の呼吸。そう言うことなんでしょうが、なんでそれを呼吸方法に取り入れる必要があるんですかね?」

 羽黒のその言葉にひと時ではあるが覇天は目を丸くし、正真正銘に驚いた表情を羽黒にと見せた。衝撃的ではあったが羽黒の言うことはあっていた。どのような経緯でそのような解釈を得たかは覇天には知る由もなかったがその事がただ驚きであった。まるでそれは急激な進化を目の当たりにしたかのように、そしてそれは核心を得るかのように羽黒の雰囲気は依然と比べると真っ当に見えるくらいであった。

「そこまで分かったのであれば、今回こそはまともに戦えますね?」

 覇天はさも当たり前のように刀を鞘から抜き、それを羽黒にと突き指し羽黒にと刀を抜くようにと示した。その行動に羽黒は仕方なさげに刀を抜いた。そしてその次に待っていたのは覇天の一手であった。覇天は刀を抜いた羽黒に対して一気にと距離を縮め、瞬きをした時には既に羽黒の目の前にいた。

 早い、いや、既に速さと言う言葉を通り越してそれは起こっていた。それでもある程度の感覚は分かっていた。そのため打つ手は決まっていた。羽黒は刀を振るい覇天との距離を空けさせた。そしてその次に流れに乗るように羽黒は足を一歩踏み込み、空を蹴るように今度は羽黒が覇天にと近づいた。

 体は動く、頭で考えなくても体が何をすればいいかを教えてくれる。それはまるで体が勝手に動くかのように自身では信じられないが現にそうなっているのだ。一言一句と表現することは難しいがその行動は成せる業だ。その自信が体を動かす。前までは何をどうして、と考えて行動、振るってきたが今それは不要。ただ業を成せばいいそれだけだ。

 覇天にと距離を詰めた羽黒は上から下へと刀を振り下ろした。そしてその次は振り下ろした刀を上にと振り上げるようにして覇天にと斬りかかる。そしてその一連の動きを技として成立させ、流れにと乗せて速さを極めさせていった。

 覇天は突然の羽黒の腕の上達、業の向上に驚きを心に秘めているものの顔には表さず平常を装った。今の段階では間違いなく流れに乗れている羽黒の方が技を繰り出すのでは早い。それでも打つ手はある。相手が流れに乗っているのであればその流れを断てばいい。流れを断ち、技の完成度を削ぎ落し、技として成立させないようにすれば自然と隙も生まれる。

「流れには乗れるようになっている。だが、これはどうだ」

 そう覇天は、流れにと乗り技を成らす羽黒にと足払いをするかのように自身の足を羽黒にと交わらせた。それをした途端に羽黒の流れに乗っていた技は崩れ、羽黒自身にも大きな隙が生じた。そして足払いを受けた羽黒はその地に倒れ込むように落ちた。その事に対して羽黒はただ目を丸くして覇天を見上げた。そして今の状況にと思考だけが置いていきぼりにとなって空を眺めていた。

「まったくだ。流れには乗れてはいる。技としてはいいが、行動そのものが剣道の型、剣術のそれから抜け出していない。やるなら、相手を殺す技を作れ。もっと正確に言うなら、拳や足、体全体を使って相手にと攻撃をいれろ」

 覇天はその地に倒れ込んでいる羽黒にと手を差し伸べて立つのを後押しするように羽黒が立ち上がるのを手助けした。

「今の段階で流れに乗る、読み解くことができたとしても守護者としての腕は上がらんぞ」

「それって、やっぱり倒れた時にバランスを取って受け身を取るなりして蹴るなり殴るなりして反撃をしろと?」

 その言葉に覇天は「ふむ」とちょっとした驚きのつぶやきを見せて少しは感心したようにして言った。

「まあそうだな。そこまで考えているならなぜ実行しない?」

 問いかけに羽黒はどう答えればよいか分からず口にできず覇天を見ていた。実際のところ羽黒すらもなぜその行動をとらなかったのかが分からない。

 ただ無言に立ちすさぶ羽黒。それを見据える覇天。二人の空間にはただ、ただただ静かな空間が生まれた。それでも覇天だけはその場の流れを汲み、その場なりの言葉を羽黒にと送った。

「それも合わせての鍛練だな。ついて来い、今後の事を家の方で話し合う。お前の連れもそっちにいる」

 覇天の言う、そっちである茅葺にと向かい歩き始めた。それに合わせて羽黒もまた覇天の後ろを歩き、茅葺の方にと向かった。今の時代に茅葺とはどうも違和感しかない。それでもこの場、この状況にはどうもこの茅葺が異常なほどにその環境に合っていた。

 茅葺の中に覇天の言っていた通りに美琴、雪穂、文鳥亭が確かにそこにいた。雪穂と文鳥亭は羽黒の戻りを安心したかのように安堵の息を漏らして迎えた。一方の美琴はさもそれが当たり前のように平然と落ち着いた様子であった。その様子に羽黒は何を言えば、何を伝えればよいか分からず言葉が出なかった。そんななか、雪穂が仲介役を切って出すかのようにして美琴にと接した。

「美琴ちゃん、羽黒さんが戻って来たんだから何か言ったら」

「別に、余は羽黒にはできると信じていたわけだからこれくらい当然じゃろ。だが、よく戻って来たぞ」

 美琴は羽黒の下にと近づき、羽黒の顔を見上げるかのようにして言った。その言葉に一瞬の迷いが生まれた。それでもいつも通りの余裕のある顔を浮かべて「ああ」とだけ言って覇天の方を見た。

「なあ、今後はどうなるんだ?まだまだ修行は始まったばかりだろ」

「それでしたら明日から早速やってもらいます。今日は疲れたであろう体を休ませてください。部屋はいくつかあるので各自好きな部屋を使ってください。全員分の部屋は用意できますから」

 外からは狭く見えた茅葺もこうして中に入ってみると意外と広く、覇天が言うには全員分の部屋があるようだ。その言葉に羽黒たちは感謝を述べた。

「覇天さん。本当に教えてくれるんですね」

 ゆっくりと羽黒は言葉を並べ、落ち着いた口ぶりで言った。初めて会った時のあの様子を思い出すとどうしても考えてしまう、本当は嫌なのではないか。自分がいない間に美琴や雪穂、文鳥亭が何とか説得したのではないかと感じてしまう。さきの手合わせの時には何とも感じられなかった。あの時のような感覚は一切と羽黒には伝わってこなかった。

「まさか、あの時の言葉をそのまま真に受けたんですか?でしたら、まだまだですよ」

 これと言って覇天は別段と表情を変えず、むしろとぼけたかのような顔を浮かべた。

「アレはただの挑発ですよ。起こったことは事実ですが、私は羽黒さんはそうならないよう信じていますから」

 それだけ言い覇天は別室の方へと行ってしまった。ただの挑発であった事を知った羽黒は少しの安堵と不安を感じた。信じていると言った。だが自分にはその期待に応えるだけの力があるだろうか。トキハリは言った、刀の技量は彼が、十蔵が残したと。だとしたら自分がこれまで剣道で成し得た業は全て自分の力であったのだろうか。いや、それについてはトキハリがはっきりと、羽黒のもの、と言っていた。それでも羽黒は黒坂羽黒としての技量を身に付けたいと思えてしまう。他人の、十蔵としての力ではなく、自分自身の力を証明するために。

「羽黒さん、大丈夫ですか?なんか、心ここにあらずって感じでしたよ。やっぱり、大変だったんですね」

「あ、いや、大丈夫だよ雪穂。それより、雪穂は薬丸如来のことは覚えているか?」

 羽黒のその質問に雪穂はポカーンとした顔を向け、ただ一言「なんですかそれ?」と全くもって知らないような様子であった。これではっきりとした。たしかにトキハリの言った通り薬丸如来の存在は消えたらしい。ここまですることができる力を持つ天海、それを相手にしていると考えると腰がすくんでしまう。だがそれは表にしてはいけない。そうすれば不安をあおってしまうだろう。


  ■■■


 中々と眠れない夜。羽黒は一人静かに夜空を見るため茅葺から外へと出た。夜空は自分が普段住んで見ている松賀原とは違い、星が空気李と見えてとても綺麗に見えた。自分の迷いなどどうでもいいくらいには少しは気が晴れた。それでも羽黒は悩んでいた、そして今後が大丈夫なのか心配になって来た。

「やっぱり、色々と急すぎるな。それでも、やるしかないな」

 刀を使う上での技量では十蔵として技量があるためおおざっぱにカバーできる。それでもその力が自分のものではないと考えるとどうしても不安にもなるし信用してもいいのか分からない。それどころか六桜の呼吸についてもいまいちと分からない。流れを読み解くために何故呼吸方法に取り込んでいることも分からない。

「僕の記憶にあるんなら教えてくれよ、十蔵さんよ」

「何を教えてくれ、だと羽黒?明日から修行だと言うのにこんな時間まで起きていていいのか」

 振り向くとそこには美琴がいた。今の言葉が聞かれては不味かったと直感的に悟った羽黒は慌てて美琴の方を振り向いて「聞いてた?」と顔を苦めて聞いた。しかし美琴は別段と気にした素振りは見せず、むしろ今までの羽黒が知っている様子とは変わって少し目を細め、まるでそれは廃れたような顔であった。例えるのであれば羽黒が亡き父、和徳を亡くした直後の心を閉ざしたような過去の自分のように見えた。

「お主がぼやいていたようであったから上手く聞き取れんかった。それで、何か悩み用か?」

「・・・美琴こそ、どうしたんだよ?そんな顔してよ。なんか、すっごい廃れた顔してるぞ」

 羽黒は美琴の様子を心配するようにして言った。ここに来たときはまだ美琴の顔には余裕の色があった。だが今はどうだろう、そんな様子は全くと無いかのように全てに絶望したかのような顔であった。

「はは、どうやら隠せていなかったか。じゃが、気にしなくて構わん。ただ、記憶の欠落が完治しただけじゃ。それだけじゃ」

 記憶の欠落が完治した、力なく美琴をそう言った。流石の羽黒でもここまでの変容ぶりには驚きを隠せず冷汗が走った。そして、これ以上は突き止めてはいけないと瞬間的に理解した。そうだ、今は自分が平常を保ちそっとしておくべきだと羽黒は思い、いつも通りの接し方で話を持ち出した。

「それがだな、六桜の呼吸ってものが――」

「流れに乗り、流れを読み解くもの、そうじゃろ?昔の守護者がそれに似たものを使っておったからのう」

 言おうとしたことを羽黒に代わって美琴がくみ取るようにして言った。「あぁ」と羽黒はそれが十蔵だと言うことを理解し、その者を知らないかのような態度を取って見せた。

「ある程度は分かる。なぜそれを呼吸方法にとりくむか、じゃろ?」

「そうだ。でも、なんで美琴は僕の言おうとしてることが分かるんだ?それこそまるで流れを読み解くみたいに・・・」

 その疑問に美琴は雑に作った苦笑いを浮かべて羽黒ではなく、どこか遠くを見るようにして言った。それはまるで羽黒であって羽黒ではない誰かに言うように。

「モノを食せばそのモノの力を得る、古くからあるものの例えだな。有名話であれば不死身になれる人魚の肉とかじゃろ。それ同様に流れを体に取り込めば流れを読み解くのも容易くなる。流れというのは常に世をめぐってるものじゃ。それを取り込むには呼吸方法に取り入れるのが容易いからじゃ」

「同物同治みたいなものか。読み解くためには読み解くそのものを己に吸収しろ、道理に適ってるよ」

「ふっ、同物同治とはまた随分と難しい物を知っているな。余は寝るぞ、お主も少ししたら寝ろ。体を休ませないと明日が持たんぞ」

 美琴は茅葺の方へと戻って行った。羽黒は言葉をかけようと思ったがどこか美琴が自分よりも遠くにいるように思えてしまって言葉をかけることができなかった。ただ、美琴が茅葺にと入って行く様子を見つめるしかなかった。そこにいるはずなのに羽黒には美琴がどこか遠くにいるように思えたのだ。

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