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巫女の守護者 連載版  作者: 司馬田アンデルセン
時針の覡
22/27

時針の覡5

「さて、ここまでだ。どうだい?何か思い出した、あるいは何かつかんだかな?」

 映像がぷっつりと消えるかのように今まで見てきた光景、主には十蔵と言う男の話が終わった。まだ続きがあるようにも思えたが、それはトキハリによって中断されてしまった。

 思い出した、何かつかんだ、それらの意味することが羽黒には分からなかった。唯一、つかんだものであれば、それは六桜の呼吸についてだろう。十蔵のやっていた流れに乗る、流れを読む動作は間違いなく今の六桜の呼吸についての事だろうと察しがついた。そして、それがどうやって、どうすればできるのかについてもある程度は理解してみたつもりだ。

「いや、思い出したことはない。だけど、六桜の呼吸についてはなんとなく分かった。六桜の呼吸、それは流れに乗る、流れを読むことなんだろう」

「そっか。では本当に何も思い出せないんだね?」

 トキハリは再確認するかのように羽黒にと顔を近づけ、まるで羽黒の全てを覗き込むかのようにした。その瞬間羽黒の体は何かに縛られるかのように動けず、何かに押しつぶされるかのような感覚が念によって伝わって来た。そして、ナニカに対して怯えるかのように冷汗がどっと沸きだした。

「嘘は、ついてないようだね。だとしたら、器としての機能が故障、あるいは何かが欠けた・・・だとしたらどこでだ?いや、きっかけはいくらでもあるのか?()が見逃しているだけで既に器としての形が消えた・・・それもあり得る」

 独り言を呟くように淡々とトキハリは思考した。そしてその行動はやがて羽黒を束縛していた念も解除され、どっと出ていた冷汗もいつの間にかと去っていた。

 顔が近づいただけ、ただそれだけであった。そしてそれが離れればそれに比例するかのようにその恐れは遠ざかり、収まる。まるでそれは台風のように。

「トキハリ様、もしかしたらアレが、あの事件がきっかけかもしれません。その際に・・・その、欠落したのでは」

 ミャルは何かに気付いたかのように、恐る恐るとトキハリにと申告した。するとトキハリは目を見開き、まるで何かに対して畏怖するかのように。そして再びトキハリは羽黒にと近づき、羽黒の顔にと手をかざした。

 黙々とトキハリは何かを眺めるようにしてただ手をかざしていた。そしていつしか顔は険しい顔にとなり、やがてそれは溜め息となって意思表現された。それは、呆れであった。しかしそれは羽黒にと対してでは無かった。ここにいて、ここにいないものに対しての者であった。

「今更になって、怖じ気でもしたか、それとも日和おったな」

 かざしていた手を離し、一歩、二歩と後ろにと下がって行き、さっきまで持っていた杖を横にと宙に浮かしてそこに腰を掛けた。

「結果だけを言えば、君は桜花十蔵なる者の器になる予定だった。つまりは、桜花十蔵が記憶を保有したまま現世に出現する・・・そうだな、生まれ変わりだとでも思ってくれればいい。羽黒君、君は十蔵の記憶と感情、意志を背負う、受け継ぐ者としてそうなるはずだった。だけど、部分的にそれは欠落してしまった」

 自分が桜花十蔵の記憶、感情、意識、意志を受け継ぐ者。それがどう言う意味なのかについて最初は分からなかったがそれについてどんどんと分かってきた。それはつまり、自分が自分ではなくなると言うことだろう。だとしたら、だとしたら自分と言う存在は何なのだろう。その衝動に駆られ、羽黒は慌ただしくなり、鼓動も早くなり、立っていることすらも厳しくなるほどだ。

「じゃ、じゃあ、僕は。黒坂羽黒である僕はどうなるんだ?僕としての証明は・・・」

「本来であれば、黒坂羽黒と言う名の桜花十蔵が誕生されるはずであった。だけど、とある事故で君を生かすために桜花十蔵は君の代わりに死んだ。だけど、唯一君の体に残したものがある。それが、彼自身の刀の技術だ」

「刀の技術?それって、もしかして六桜の呼吸とかについてなのか」

 トキハリはゆっくりと頷いた。そして、羽黒が腰に差している刀を杖で指して言った。

「羽黒君の剣道としての腕は確かに君のものだ。だが、六桜の呼吸については桜花十蔵が残していったものだ」

 十蔵、それはトキハリが羽黒にと見せた物語の主軸にといた男、そして美琴の姿によく似た巫女の守護者。その者が使っていた業、流れを読み解くものだ。そして羽黒が使えていたのもその十蔵が残してくれた技量のおかげであったわけである。

「さて、君がなぜ六桜の呼吸が使えたのかが分かったところで伝えておかなければならないことがある。この、思い出はしっかりと頭の中に残っているかな」

 トキハリは一振りと杖を振るった。その瞬間であった、羽黒の頭に一つの記憶があふれ出した。それは、一柱の神と対等に話している記憶だ。どのような事を話し合っているかは分からない。それでも確かに羽黒はその神と対等に話した。そして、大事な何か、存在を教えてもらった。それはとても大事だ、それなのになぜ今までそれを忘れていた、記憶として表に出なかったのだろう。

「そう、君は一柱の神にと出会って天海と言う存在を知る。天海ノ定海都筑、それが天海だ。だけど天海は君が話した一柱の神の存在を殺した。だから君はその記憶を持っていなかった」

「つ、つまり、なんだよ・・・僕の敵は天海だって言うのか?雪穂にあんなことをするように仕向けたのが天海で、そいつは抑止力団体を動かして美琴を狙っているってことか?」

 ただ頷く、それがトキハリとミャルの返答であった。

 美琴を狙う、その理由は分からない。それに、雪穂をそそのかしたことも分からない。

「そんなものだよ、神様は。天海が、天海ノ定海都筑が美琴を狙っているのはあっている。だけど、正確には彼女ではなくミャルクヨの方を狙っているんだよ」

 空を眺めるようにトキハリは不敵な笑みを浮かべた。そしてミャルは付け加えるかのようにして言った。

「クヨと、私は知識を司る神でもあった。そして、天海ノ定海都筑はクヨと私が持っている知識を手に入れるため様々な策と知恵を出した。元々天海ノ定海都筑は神としての格はとても高く、強かった。それは知恵を持っていたとしてもそれは覆すことはできないことだった」

「それって・・・つまりはどう頑張っても天海ノ定海都筑、天海には勝てないってことじゃないですか。これじゃあ、どれだけ頑張ったって最後まで守り抜くのは・・・」

「難しいって?」

 羽黒が言わなかった言葉をトキハリが代わって言った。難しい、もっと言ってしまえば不可能にだって近い。

「羽黒君、君がミャルクヨに最初に捧げた物は覚えているかな?確か、寿命だったよね」

 そうトキハリは羽黒にと確認を取るかのように問いただした。それに対して羽黒はただ頷いた。寿命の五分の一、それを捧げて自分の刀を呼び出した。

「あの時捧げられた寿命はまだある。正確にはミャルクヨが預かっていると言った方が正しいかな。ミャルクヨがそれを使わない限り、君は生き続けられる。致命的な攻撃、即死的な攻撃を受けない限りは巫女の加護で治癒は早くできるからね。あとは、分かるね?」

「はは、ははは、そうかよ。美琴が死ぬまで、あるいは狙われるのが収まるまで寿命では死ねないってことか・・・抑止力団体とかは一回しか手合わせしてないが、精神が持つか不安だな」

 苦笑、不安、対峙していた相手が強いと言うことは少し分かっていた。それでも真実を聞かされればそれは途端とイメージは変わった。何時しかは終わると思ったそれは、ただ守るしか打つ手はなく、勝つことなどできないものであった。絶望はない、あるのは脱力であった。

「この真実を聞いて、君はそれでもミャルクヨの巫女を守るのかな?それとも、ここで全てを放り投げる。選ぶのは君だ、黒坂羽黒君」

 放り投げる、それは簡単なことだ。だけど、それをすれば誰が美琴を守るのだろう。誰も、彼女を守る者はいなくなるだろう。例えいたとしても結果は薄々と分かることだ。だが、自分には桜花十蔵が残した刀の腕が、六桜の呼吸がある。少しの可能性はあるだろう。それでも、いざ決めるとなると足がすくむ。決定的な言葉も出てこない。

「迷い、か。きっとそれも答えなんだろう。だけど、それでも君は選ばなければいけない。いや、彼の意志を背負わなければいけないよ。巫女を、彼女を人として守ることをね。君だって願ったはずだ、彼女の幸せを。人の幸せを願うって言うのは、そう言うことなんだよ」

 十蔵の意志、それは今なら分かる。美琴を守ることだろう。彼がどのようなきっかけで美琴をそこまでして守ろうと思ったのかは分からないが、その想いは羽黒自身の心にも伝わった。

「・・・分かった、やってみる。だが、これだけは約束してほしい。もしも僕が、打つ手を無くしたら、その時は少しでもいいから助けてくれ。ここまで教えてくれたんだ、それくらいの義務はあるはずだ」

 難しい顔と険しい形相で羽黒はトキハリの顔を見つめた。

 答えはしばらくしてからであった。トキハリは形相を一つ変えず、迷うようなそぶりも見せずに「分かった」とそう一言返した。

「打つ手は、こちらでも考えてみよう。天海が危険であると言うことは我が理解しているつもりだ。今の天海は、現世の世界の抑止力団体と言う名の宗教団体を操ることができる唯一の存在だからね。他の抑止の柱は、互いに無干渉と言うルールを決めた私なりの罪滅ぼしだとでも思ってくれ」

「・・・そうですか。そのルールで、天海に手を出せるモノがいないってことですか」

 帰ってくる言葉はなく、ただの頷きだけであった。

 それを心配するようにミャルは羽黒にと忠告した。

「羽黒さん、あなたはどうするつもりですか?ただ守るだけではあなたはいつかは壊れますよ」

「壊れる、か。そうならないことを願いますよ。それに、今はやるだけの事をやりますよ。そうすれば、何かいい策が出てくるかもしれませんから。そのためにも、僕は六桜の呼吸を覚えなければいけませんしね」

 今やれることはただ自分の力を鍛えるしかない。そのためにも十蔵が使っていた流れを読み解く業、六桜の呼吸を習得しなければならない。十蔵の意志など関係ない、自分がやるべきだと思ったことを成すだけだ。それが、今自分にとってできる最良の策に違いない。

「まあ、ちょっとしたおまけだ。あっちの世界には我の覡である雷曲亭がいる所にと君を運んどくよ。後は、君が好きにするといい」

 雷曲亭、ここの場合だと雷曲亭覇天の事だろう。まさかあの男がトキハリの覡であったことに羽黒は驚きを見せ、そうだったのかと確信を得た。

「でも、いいんでしょうか?多分だと思うんですけど流れを読んで迷いの、なんとかっていうやつを抜けていくのに。これじゃあ修行と言うか、試練の意味がないような気がするんですが」

「それは大丈夫だよ。だって、あっちで我の(げき)に教えてもらえばどっちみち変わりないし、十蔵が残した刀の腕、業はしっかりと羽黒君の所に残ってるわけだから大丈夫さ」

 残っている、確かにそう言われればそうでもある。だが、それは無意識であって正確には自身の業としてものとしていない。そのため弱化の不安が羽黒にはあった。それでも、今はトキハリの言うように少し急いだほうがいいのかもしれない。そう思い羽黒はつい、流れに任せて頷きを示した。

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