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巫女の守護者 連載版  作者: 司馬田アンデルセン
時針の覡
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時針の覡4

 久しぶりの自宅への帰路。いつもであれば遅くまでの仕事のため、帰ることなどほとんどなくそこらで一夜を過ごすことが多々であった。だが、今日は春吉のおかげもあって早く帰路に就けることができた。そして、その帰路には春吉もいたのである。

「本当に、何もかもありがとうございます和泉師匠。でも、和泉師匠までも早く仕事終わらせてしまってよかったんですか?」

「なあに、若いのに任せればいい。いつまでも儂に頼りっぱなしでは悪いからのう。それに、こうしてお前さんの家に来るのもこの先いつになるかも分らんからの」

 春吉はどこか遠くを眺めるように、そしてしみじみとした声で呟いた。その言葉の意味、指すことがなんとなくと分かった気がする十蔵は春吉の顔を覗き込むようにし、様子をうかがうかのようにして言った。

「和泉師匠がそう言うことは、忙しくなるんでしょうか?」

「そうだろうな。最近では、集落を襲う賊共も増えてきた。もしかすれば、お前さんにも周辺の賊を追っ払うための白羽の矢が立つだろう」

 賊を追っ払う、その意味は賊を殺すと言うことであった。その意味が分からない十蔵ではない。直接の命のやり合い、できれば避けたいものでもあるが、今現状の立場ではそうもいかないだろう。不安を募らせ、表情を曇らせた。

 顔を曇らせ、春吉と共に歩いていた時であった。こちらにと、十蔵の下にと駆け寄ってくる少女がいた。十蔵はすぐにその少女が自分の妹、ユキだと分かった。

「お帰り、お兄ちゃん。どうだった?久しぶりに帰って来たって事はしばらく家にいられるってこと?」

 十蔵の久しぶりの帰宅に目を輝かせ、期待のこもった眼差しを向けるユキに十蔵は申し訳なさそうな表情を浮かべ、頭をかいて言った。

「すまん、今日一日だけなんだよ。でも、和泉師匠がご馳走してくれるってよ。だから、それで許してくれ」

 そう言うとユキはすぐに春吉の方を向き、さっきよりも嬉しそうな顔で、はしゃぐようにして春吉にと抱き着いて言った。

「ほんとに!?ありがとう和泉おじさん」

「ははは、嬉しそうで何よりだ。それにしても、ユキちゃんは可愛くなったの。うちの愛娘とは違って愛嬌があってめんこいわ」

 そう春吉がユキを持ち上げ、地面にと下した時であった。突如として冷たい眼差しが春吉と十蔵を襲った。

「誰が、私と違ってですかおじ様。できればそのような醜態を見せないでほしいです。いつ他の守護者が見ているか分かりませんので」

 その眼差しを向けたのは、春吉の愛娘、和泉美鈴(いずみみすず)であった。美鈴は何やら風呂敷にまとめられた何らかの荷物を手にしていた。その荷物、それが気になった十蔵は珍しそうにして言った。

「あんたが荷物持ちとは珍しいもんだな?で、それはいったい誰へのお使いなんだ?」

 その質問に対し、美鈴は舌打ちをし、十蔵を睨み、皮肉めいた口調で言った。

「それ、皮肉ですかね。わざわざおじ様に頼まれてあなたを祝うための食材を用意して持ってきたのですよ。おじ様、注文された通りの物は揃えましたよ。大層なものですね、こんな実戦経験が浅く、何を認められたのかすら分からない十蔵に」

 十蔵は馬鹿にされているにも関わらずすました顔で「そうだな」とだけ応え、とぼけた顔をしていた。そしてその間に入るように春吉が割って入り「こらこら」と手で制するようにした。これには流石の美鈴も息詰まる、正確には出す言葉も出せずにただ困惑しながら十蔵にと睨みを利かせていた。

「今日は何よりも十蔵の役付き祝いだ。そう美鈴も挑発するようなことをするな。この後の飯もまずくなるぞ」

「え?挑発だったんですか。そのままの事だったんで気づきませんでしたよ」

 その言葉がさらに美鈴を激化させ、限界にと達しかけていた。そして、遂にそれは来た。

「いいですよ、分かりました。おじ様、失礼ですが荷物を預かって先にユキちゃんと一緒に行っててください。ちょっと私は、十蔵さんと大事なお話があるので」

 ユキはその言葉が分からなかった。だが、春吉ともなれば意味がなんとなくではあるが分かる。そう、きっと美鈴は今から十蔵にと茂木線を挑むのであろう。そう思った春吉は木でできた刀を模した物、木刀を十蔵にと渡し、小耳に落として言った。

「あいつは、模擬戦を挑むじゃろう。その際は、これを使え。美鈴は練習用の木棒を使うじゃろ」

 そう小耳に落とすと、春吉は明るい声でユキにと語りかけた。

「さあ、ユキちゃん。難しい話なんか聞くよりも和泉のじいちゃんと遊ぶなり物語でも聞かせよう。じゃから、わしらは先に十蔵の家に行ってよう」

 そう言うと、ユキは十蔵や美鈴のことなど気にも留めず、遊んでもらえる高揚感や愉快奇天烈な噺を期待して「うん」と満面の笑顔を浮かばせた。そんなユキに十蔵もつい、ほっこりとしてしまい「よくしてもらうんだぞ」とユキに伝え、春吉に深々とお辞儀をして言った。そして春吉は美鈴から荷物を託され、ユキと共に十蔵の家にと向かおうとした時だった。

「お兄ちゃん、今日は私も料理に腕を利かせるから期待しといてね」

 ユキは突如と十蔵にと振り返り、久しぶりの兄の帰宅に胸を鳴らし、嬉しそうにしてそう言い春吉と共に十蔵の家にと向かって行った。それを見届け、ため息を吐き、面倒くさそうにして美鈴を見て言った。

「それで、和泉師匠が言ってたけど本当にやるの?模擬戦」

「そこまで聞いて、やらないと言う選択はないですよ。それに、私は知りたいのです。巫女様がなぜ、あなたのような者を側近守護者に選んだのか、私はそれを見極めたい」

「まあ、別にいいけどさ。どうせ、あんたの方が俺より強いんだからさ」

 十蔵は春吉から渡された木刀を構え、こちらはいつでも構わない、と意思表示するようにして美鈴にと木刀の刃先を向けた。美鈴は静かに、練習用の木棒を取り出し、薙刀を構えるようにし、姿勢を低くして十蔵を睨みつけるような体制を取った。

 美鈴の棒術の強さ、間合いについて当然十蔵はある程度は把握している。ひとたび間合いに入れば棒は三段入り、そのあとは絶命の一撃が待っている。そのためうかつに畳みかけるのは愚の骨頂、であれば十蔵は反しを狙った後の先にと転じるべきだと踏み、美鈴の一手を待った。

 一手を待つ、それは正しい判断であったと考えたかった。だが、それを打ち砕くかのように美鈴は十蔵の目に留まらないほどの低い姿勢のまま懐にと入り、棒の一撃を入れようと棒を引いた。それに気づいた時には遅く、十蔵が気付いた時にはその棒は既にこちらにとやって来ていた。

 まさかの一撃。予想にはしていたがそれを避けるすべはなく、それを木刀で受け流すに他ならなかった。

 木刀で受け流そうとした棒は、それでも十蔵の顔を貫くように、押し通すかのように強引に突き進む。顔をそらし、その棒を避けるがまだ美鈴の業は終わってない。美鈴の技が終わるのは美鈴が持っている棒が引かれる時であり、それは次の技の準備でもある。

 棒は十蔵の顔の横から、顔にと近づくように横に振られる。咄嗟に十蔵はその場を倒れるように転がり、瞬時に姿勢を正して間合いを取る。それでも美鈴の攻撃は止まず、次の一撃がせまってくる。十蔵はそれを避けるも受け止めることもできず、その攻撃を受けてしまう。

 棒は十蔵の腹部を貫くように深くまで貫き、後ろにと十蔵を飛ばす。肺には直撃してはいない、それでも受け身を取るだけで精一杯で上手く呼吸ができない。どうやら先の攻撃が肺の所まで振動が響き、呼吸器官に支障をきたしているのだ。

「どうした十蔵!?おじ様から聞かされていたのとはずいぶんと違うものだぞ。よもや、ここまでして手を抜いているわけでは無かろう!?」

 手を抜く、そんな事はなかった。ただ、相性が悪い。あるいは、中々と自身の流れに乗れないのである。このまま流れに乗れなければ、業を成立させることができず、技を組みだすこともできない。

「少し、強引ではあるがやるしかねぇな」

 そう十蔵は未だに辛く、支障をきたしている肺にと一喝を入れこみ、木刀を美鈴にと突き刺すよう、まるで槍を投げ入れるように美鈴にと投じた。流石の美鈴もこの行動には驚きを見せたも、的確な状況把握でそれを避けてみた。だが、それでも十蔵の投げた木刀の刃先が頬にと僅かにかすった。

 そして、その投げに乗じるが如くにこちらにと迫って来た。それに応戦する姿勢を瞬時に美鈴は取って見せる。だが、十蔵の狙いは美鈴ではなかった。狙いは、投げた木刀にあった。美鈴のすぐ後ろにとある投げた木刀を瞬時に拾い上げ、構などを見せずに無作為にただ振るった。その木刀は美鈴が構える棒にと当たり、美鈴は十蔵が繰り出した攻撃に棒を大きく上にと振るわれ姿勢を崩した。

「なんて、滅茶苦茶な!!」

 ここからだ、ここからであった。十蔵は今作り出した美鈴の隙を流れに乗る出だしにと変え、春吉にと披露してみせた上から下へ振るい、下から上にと、その一連を繰り返す技を成立させていった。

 技は成立した。それでも美鈴に当たる攻撃は十回やって一、二回くらいであり、それもかする程度であり、それ以外は全て棒で受け流されてしまう。だが、着実に、少しながらではあるが流れに乗れている。それでも浅い。確実な一手をいれるためにも何かが足りない。であれば、十蔵は一つの言葉を思い出した「流れに乗るのではなく、吸い寄せる、己の体に取り込むよう意識してやってみろ」それは巫女が十蔵にと対して出した一つの提案、アイデアだった。そして、十蔵はそれを実行してみまいと流れに乗るのではなく、流れを取り込もうとした。

 何かが感じ取らせる。視覚では分からないがそれが何なのかが感じ取れる。それは、身に迫る危機であった。それを覗き込む、あるいはさらに自身に流れを吸い寄せ、流れに一体化するかのように体に流れを入り込ませる。そして、遂にそれは視覚として目の情報として出てきた。

 攻撃が迫ってくる。それは確かに美鈴の繰り出す棒の技だ。だがそれは今ではない。

(流れを見る、それってつまりは未来予知に近い業じゃねえか)

 心でそう呟き、十蔵は今見た流れ、二、三発美鈴に攻撃を繰り出したのちに返されるであろうことを察知して流れに乗ることを辞め、連続した技から突きの攻撃にと美鈴が自身の攻撃を返すタイミングに合わせて転じた。

 美鈴は驚きを見せ、一歩後ろにと下がり、間合いを取ろうとはかった。だが、それも今の十蔵には分かることであった。

 間合いをはかる美鈴にと、足を踏み込んで一気に距離を近づける十蔵。それに応じて接近する十蔵を棒で突こうと美鈴。だが、何かに覚醒した十蔵にはそれも、その先の展開する技も分かる。そのため十蔵はただそれに合わせて攻撃に転じる。

 繰り出された棒を、十蔵が木刀で薙ぎ払う。

 薙ぎ払われた棒は弧を描くように空に飛ばされ、十蔵はそのままの流れで木刀を美鈴の首元にと向け、己が勝ったのであることを示すようにして言った。

「さあ、これでいいだろう。俺は早く飯が食いたいんだ。まだ続けるようであるなら、また今度にしてくれ」

「ありえません・・・・・」

「あぁ?なんか言ったか」

 腕を振るわせ、地面を見つめるように顔を俯かせた美鈴は顏をあげ、十蔵にと迫るようにして近づき、十蔵の胸元を掴んで言った。

「だって、だってあなたはつい前までは私の攻撃を受けるのに精一杯だった。それなのに、サボってるだけで、稽古ですらまともにやってこなかったあなたがどうして!?」

「それは、いくら俺でも傷つくぞ。まあ、さぼっていたのは事実だけどさ。ただ和泉師匠の教えが的確で、俺が流れに乗りやすく流れを読むことが少しできたってだけだ」

 流れに乗る、流れを読むのが少し得意。そんなのはとても信じられないものであった。美鈴でも流れに乗ることはできてもそれは自身を極限までに集中力を高め、精神統一ができている時のみであり、とても戦闘中の際にはできるほどの業としては完成していない。それなのに、十蔵はただ流れに乗りやすいと言った。ましてや、流れが少し見えたとも言っていた。いや、今さっきのアレは完全に流れを読んでいた。

「私が、まだまだともでも言うのですか?」

「別に、そこまでは言ってないだろう。ただ俺にできてあんたにはまだできないってだけだ。まあ、戦闘面での腕はあんたの方が上なんだから、今回はまぐれだよ」

「そんな事を言って、慰めのつもりですか?」

 顔を膨らませ、そんな気で言ったわけでもない言葉を皮肉として受け取り、十蔵を睨め付けた。しかし、一方の十蔵は珍しいものを見るようにして言った。

「あんた、そんな顔もできるんだな。それより、さっきも言った通り帰ろうぜ」

 美鈴の応答など気にもせず、ただ話をするだけして十蔵は自分の家にと向かった。美鈴はまだなにか言いたげではあったが、先に歩く十蔵には届かなかった。

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