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巫女の守護者 連載版  作者: 司馬田アンデルセン
仙痛命酔
14/27

巫女の守護者 仙痛命酔10

 誰かが僕を呼ぶ声が聞こえる。

 そう羽黒は思いながらもまだ布団の上で眠り続けていた。久しぶりの祭りごと、そのためか疲れが溜まってしまいすぐに寝付いてしまった。

 普段剣道で体を動かしてはいるが今回は訳が違う。なぜなら今回は襲撃と言うよりはこちらを狙ってきた、あるいは初めから狙っていたかのようであった。

「羽黒さん、起きてください」

 そう羽黒を呼ぶのは幼い少女のような声だ。羽黒自身も聞き覚えの無い声のため何かの空耳だろうと無視をしていたがこれで五回目くらいの呼び声であった。そのため羽黒は眠気に逆らって目を開けることとした。

 目を覚ますとそこには自分の部屋の形は跡形も残っておらず、周りには桜の木がいくつも生えており桜吹雪が舞っていた。明らかにこの世のものの風景とは違い、幻想的で美しい景色がそこには広がっていた。

 その風景に見惚れていた羽黒はすぐに声の主の方に振り返った。そして、まるでこの風景、情景に溶け込むかのように二人の少女がそこにはいた。一人は黒髪の短髪で、美琴が着ているようなワンピースの黒色の物を着ており、桜の木のてっぺんに近い太い枝の上に座っており、そこから羽黒のことを見下ろしていた。もう一方の長髪の赤交じりの黒髪の彼女は桜の木から羽黒を見下ろしている彼女とは正反対に百足(むかで)がとぐろを巻いたような模様が入った着物という和服の姿でそこに立っていた。

「やっと起きたか、人間。初めましてだな」

 そう先に声を出したのは奥にあるひときわ大きい桜の木から羽黒を見下ろしている少女であった。その一言を聞くだけで、立っていた羽黒は急に膝を付くほどの圧を感じ取った。それでも羽黒は膝を付く前に足を一歩後ろにと身を引いて圧から身を守った。

 すると隣にいた少女が「クヨ、怖がってる」と言った。その一言でクヨと言う者からの圧が弱まった。

「すまないなぁ、なにせ久しぶりの人間相手で手加減ができなかった。さて、自己紹介をしてやるから二つしかない耳をしっかりと開けて聞けよ、人間。我の名はクヨ、そして貴様の横にいるのがミャルだ。勘が良ければここで分かるだろう?」

 クヨと名乗る彼女の言葉を聞き羽黒は直感で感じ取るかのように分かった。彼女たちがどのような存在なのか。それを認知した瞬間すぐにその場で倒れてしまいそうな衝動に駆られた。そうだ、彼女たちは人間ではないのだ。

「ミャルとクヨでミャルクヨですか。まさか一つの神の名前が二つの神の名だったとは」

 明らかに分かる、自分は冷や汗をかいているのだと。羽黒は今まで自分よりも強い者と剣道で戦ってきた。しかし今は訳が違う、相手は神だ。会ったことなど今までなかった。それでも分かる。自分の五感すべてが彼女たちは神であると認知し始めている。

「さて、人間よ。貴様は巫女がどのような存在か本当に分かった上で守っているのか?」

 何を言われるのかと思いながら緊張しながら待っていたが、彼女が放った質問は既に羽黒は回答を知り得ていた。母の前では言えなかったが今度こそは言える。そう自分に言い聞かせた。

「巫女のことははっきり言って神の声を聞いて教えるくらいしか分からない。だけど僕は美琴を、美琴を守らなきゃいけないと思った。ロマンチック的なことを言えば運命を感じたから」

 すると羽黒の隣にいたミャルはなぜだか下を俯いた。一方のクヨは目をうっすらと開けた状態で羽黒を見つめ、問い直すかのようにして言った。

「そうか、つまり貴様は今までの言動から見て巫女を一人の人として守るつもりなのだな?」

 羽黒はその声を聞いて「そうだ」と頷いた。すると今までの穏やかな口調とは真反対な声と凍てつくような睨みで羽黒に言葉と言う槍を突き刺した。

「いいか、我にとっての巫女は我らの贄でもある。守護者は我らの贄、言い換えるのであれば家畜を守る者だ」

「だったら、だったらなんであんたらは美琴を生かしているんだ。贄であればさっさと食べればいいのに」

 するとミャルは声を大きくして羽黒に一喝入れるように怒鳴りつけた。

「痴れ者が、人間が家畜を育てると同様に今のままでは熟してない果実と同じだ。それに、我ら神が貴様らに与える奇跡は一方的ではない。我々の贄を守るから守護者に見返りをする。これこそが巫女と守護者と神の本来の在りし関係なのだ」

 そうミャルは言うと、圧をかけているのは変えず、むしろ先よりも圧をかけ、声を小さくして再び羽黒にと語り始めた。

「もし貴様がこれを踏まえた上でまだ人として守るのであれば、あとは分かるな」

 それ以上ミャルは言わなかった。しかしミャルが何を言いたいのかは分かる、理解したくはないがそれでも分かってします。要は「巫女を人として守るなら神に背く」という事だろう。でも羽黒は美琴に約束した、「美琴の守護者になる」と、巫女の守護者ではなく。

「だったらだ、なんであの時力を貸した?例えば今日の敵からの攻撃だってあんたらの加護で尾行していると教えてくれたんだろ?」

 そう言うとミャルは頭を傾げ、口調を和らげて言った。

「ちょと待て、何のことだ?確かに抑止力団体との襲撃と科学者の時に美琴のパスで貴様に加護を与えたが、貴様が言ったその時は加護は与えなかったぞ・・・まあ良い、我はまたしばらく寝る。クヨ、あとは好きにしておいぞ」

 そうミャルは言うと、強く吹きあがった桜吹雪と共に消えていってしまった。そしてこの空間にはクヨと羽黒の二人だけが取り残されてしまった。

「どうか、怒らないでください。ミャルは、私たちは既に無くなり掛けています。だから、こうして記憶を私が負担して、私の代わりにミャルが会話しているんです」

 なだめるかのように優しい声で言うクヨ。その意味が分からない羽黒はその意味を知るために問いかけた。

「どう言うことだ?無くなり掛けているって・・・」

「私たちは既に信仰を失いかけています。そのため本来であれば知識を記憶することはおろか、会話ができません。それでも、こうして二人で役割を分担することで何とか持っています」

 つまりクヨの言いたいことは、信仰が途絶えているため信仰の力が薄く存在ができないと言う事だろう。しかし、ではなぜこうして記憶を負担しているはずのクヨは喋れているのであろう。羽黒は恐る恐る聞いてみた。

「それは、私が知恵を司っているからです。普段の会話はできなくとも、知恵の神としての力を行使すればある程度の会話はできます。ですから、あなたのことも知恵として分かる程度です」

「だったら、知恵の神なら教えてくれ。僕はなんであの時尾行されていたことに気付くことができたんだ」

 ミャルクヨによる力でなければ一体なぜ気付くことができたのだろう。結果的には良かったかもしれないが、その正体が分からない間は安心できない。そう踏んで羽黒は気になることを聞いた。知恵の神様であるなら自分んでは分からなくても何か知っているかと思ったからだ。

「それは、多分天城流の力です。それがその技の本来のあるべき力、神と同等の力になり得る力」

「どう言うことだ、天城流はただの刀の流派じゃないのか?」

「それは違う、天城流の元はただの呼吸方法だった。とある守護者がどんな状況でも、より長く、素早く、反応、行動できるよう、戦うためだけに作った呼吸方法。それが今となっては刀の流派の型として残った。多分羽黒さんは無意識にその呼吸をしたんだと思う」

 クヨはそう言い、巫女が祭事などで使う短剣に八つの金色の鈴が付いた鉾先舞鈴を取り出して羽黒の手にと渡した。羽黒はまちまちと見て「これは」とクヨに聞いた。

「ミャルクヨの鉾先舞鈴。今、羽黒さんの街では神喰いの儀式を誰かがやろうとしてる。もし、その儀式が成功したら私たちの現身、私たちを疑似的に憑依させている巫女は恐らく死ぬと思う。そして巫女が死んだら次は私たちが死ぬ、だからそれを使って何とかして欲しい」

 クヨが言っている巫女と言うのは多分、いや多分でもなく美琴のことだろう。もしクヨの言うことが本当で、実際に起きるようであれば無条件で死ぬのだろう。そうであってはならぬ、そう思い羽黒は咄嗟に「どう使えばいい」とクヨに聞いた。

 するとクヨは身振りするように地面に刺すようにして言った。

「それを地面に刺せば一時的にだけど人間でも神領域(しんりょういき)を展開できる。神領域って言うのは神が個々に持っている世界みたいなものなの」

 意味の分からない言葉、それでも今はただ聞いているだけだ。

「分かった、とにかく今は神喰いを止めればいいんだな。それと、最後に、なんであんたはミャルと違ってこうにも僕に協力的なんだ?」

 そう羽黒が言うとクヨは羽黒の手を取り、羽黒の顔を見上げるようにして言った。

「あの子を、あの子をもう二度と悲しませたくない。ミャルの言うことも分かるけどもうあの子からこれ以上取り上げちゃいけない、私たちの責任だって分かっているけど。でも、あなたならもしかしたら・・・」

 そうクヨは言うと羽黒の手を放し、さっきまでミャルが座っていた桜の木の方にと歩き始めた。「どこに行くんだ」そう羽黒は言うとクヨは振り向き静かに言った。

「私はどこにも行かない、行くのは羽黒さんの方。現実にと戻るの、あの子が羽黒さんのことを呼んでるから」

 そうクヨが言うと羽黒の目の前に桜吹雪が舞い、羽黒の視界を桜の花びらたちが奪っていった。羽黒はクヨの方にと手を伸ばすが当然と手は届かない。すると次第に目の前が真っ暗になり暗い世界にとなった。


  ■■■


「羽黒よ、羽黒よ、起きるのじゃ。雪穂殿が、雪穂殿が」

 美琴の声が聞こえ、自分の体を揺らしていた。どうやら美琴が羽黒を起こしに来たのだ。

 そう羽黒はそのことを確認して眠たげな体を起こして「なにがあった」と美琴に聞いた。すると美琴は慌てた口調で羽黒を急かすようにして言った。

「これを、これを読んでくれ。目が覚めて居間に行ったらテーブルの上に置いてあったんじゃ」

 そう美琴は言い、羽黒にと一つの紙を渡した。その紙には明らかに雪穂の執筆で書かれていた。羽黒は一期一句読み落とさぬよう慎重に読み上げて言った。

『突然の事申し訳ありません。まず初めにお詫びを、私はあなた達に隠していたことがありました。私はとある神様の巫女です。今回私が突然と姿を消したのはそれと関係があります。もしかしたら美琴ちゃんに害を与えるかもしれません。そうであればもう私はここに居られません。羽黒さん、私は最後まで我慢するしかありませんでした。だから私は逆らえられなかった、神様が怖かったから。もし美琴ちゃんに何かあったらここに来てください』

 そう雪穂の執筆で書かれた手紙の裏には住所が書かれていた。

 羽黒は手紙を全部読み終えた。何に怒ろうでもなく、力強くそれを手で握り潰して言った。

「美琴、神って言うのはミャルクヨの奇跡を借りて殺すことはできるのか?」

「それは、できなくもないが恐らく羽黒の力では無理じゃ、ろ・・・う」

 そう美琴が言うと急に美琴が倒れだした。羽黒は慌てて美琴の体を支え、片方の手で美琴のおでこにと当てると凄い熱を持っていた。これがクヨの言っていた神喰いと言うものだろうか。いや、それよりもまずは美琴のことを考え自分がさっきまで寝ていた布団にと寝かせるのがいいかもしれない。そう考え羽黒は優しく美琴を布団にと運んだ。

「すま、ぬ。突然のことで余も何が何だか分からぬ」

 美琴は必死になって声を振り絞るようにして声を出した。「大丈夫だ、暫く寝てろ」そう羽黒は優しく美琴に言った。美琴は頷くと深い眠りにと付いた。

 どうするべきか、そう頭を悩ませていると玄関の方からチャイムの鳴る音が聞こえてきた。こんな時に、と羽黒は苛立ちを感じながらも玄関の方にと足を運ばせて玄関の扉を引いた。

 すると、そこには一人の男性と面識のある身長の小さい女性が立っていた。男性の方は羽黒よりも高身長で、短髪の黒髪に何よりも印象が強く残るブルーアイ。一方面識のある女は初めて会った時とは変わらず、長い白髪を後ろで三つ編みにしているベアリーヌ・ストロベリーだ。と言う事は男の方はメガロヴァニアなのだろうか。

「こうして会うのは初めてだな、羽黒君。中に入れてくれないかな、なにせ外は雨が降っていてね」

 そうメガロヴァニアの発言で羽黒は外が雨だという事を知らされた。


  ■■■


「巫女様、お別れは本当に手紙だけでよかったのですか」

 運転席に座るスーツ姿の女性はそう助手席に座る雪穂にと言った。心残りはあった、しかし直接羽黒に会って話してしまえば羽黒は必死になって止めるだろう。そうであっては駄目だ、羽黒は美琴の守護者なのだから、自分ではなく。そう雪穂は自分に言い聞かせて執筆のみの手紙で羽黒の家を後にした。

「いいのよ。それよりも、前に教えた仙痛命酔(せんつうめいすい)の生産には成功したかしら。もしまだなら私が作って配りますが」

「いえ、生産の方は大丈夫です。ただ・・・」

 そう運転席に座る女性は言うべきか言わぬかを考えた。雪穂は曖昧にされてはいけないと思い「ただ?」と聞いた。

「すみません、ただ協力してくださっていたⅣから試作品をくれと言われたので巫女様の相談なしで試作品の仙痛命酔を渡してしまいました」

「そう、別にいいわよ。そのⅣって方がどのような人かは分かりませんが抑止力団体の者だと言う事は確かなのですね?」

 雪穂は真剣なまなざしで彼女にと問いかける。返ってくる返事は「はい」との二つ返事だ。

 雪穂自身は抑止力団体がどのような存在かは分からない。だけど一つ分かっていることは、神に逆らってはいけないことだ。今回の神喰いだって本来であれば自分が生贄となるはずだった。しかし、自分は生贄になることを拒んだ。神はそれを聞いて、代わりに神喰いで良いと許して下さった。それでよかった、そう羽黒に会うまでは。羽黒と会ったことによって美琴とも接触してしまった。そのせいで美琴が苦しむこととなってしまった。それは羽黒が許さない、なぜなら彼は美琴の守護者だ。守護者である彼が動かないはずが無い。

「ごめんなさい、羽黒さん。我慢するなって言われたのに私は約束を守れませんでした」

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