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巫女の守護者 連載版  作者: 司馬田アンデルセン
仙痛命酔
12/27

巫女の守護者 仙痛命酔8

 雪穂が羽黒の家に住むことになってから五日間。初めのうちこそ羽黒は雪穂に敬語を使っていたが今ではこのような生活にも慣れ、羽黒は雪穂に対して敬語を止めて普通に会話をするようになっていた。一方の雪穂は、羽黒を想っているからなのか『私は敬語のままの方が喋りやすいので』と言い敬語のまま会話をしている。

 今日は休日のため、家でゆったりとするか、それともどこかに出かけるかと羽黒は自分の部屋で勉強をいったん止めて考えていた矢先であった。玄関のチャイムを誰かが押す音がした。羽黒は玄関に向かうため、部屋を出て居間に向かった。本来であれば自分の部屋を出てそのまま玄関にも行けるのだが、居間を通ってからの方が早いため早い道のりで行くことにした。

「お、羽黒よ。勉学は終わりか?」

 居間に行くと美琴がテレビを見ており、羽黒が来たことに気付いてこちらを見つめ喋りかけてきた。

「いや、客人が来たからさ。それより雪穂は?」

「雪穂殿ならさっき玄関の方に行ったぞ。何やら客人を出迎えにな」

「そっか、それは悪いや。僕も行って来るよ」

 そう一言告げ、玄関の方にと向かうことにした。

 玄関に向かうと、そこには雪穂とあの時大学で会った新聞記者の文鳥亭がそこにいた。文鳥亭は羽黒が出てきたのを見て一礼し、華奢な笑みを羽黒にと向けた。

「どうも羽黒さん。今日は何か用事とかあったりするかな?」

「そうですね。特にこれといったことはありません。雪穂は何かあったりする?」

「いえ、私も特にありませんよ。それより羽黒さん、そちらの方は?」

 そう雪穂が言うと、文鳥亭は「これは失礼」と一礼をして簡単な自己紹介を雪穂に向かって自己紹介をした。

「私の名は烏丸文鳥亭、しがない新聞記者です。さて、今日用事があるのは羽黒さんですよ」

 はて、羽黒は自分に何かあったのだろうかと考え「僕にですか?」と文鳥亭に聞いた。文鳥亭は頷き羽黒に向かって語り始めた。

「えぇ、天城流についてですよ。私の知っている範囲なら教えれると思いまして。どうでしょうか」

 願っても無いことに羽黒は喜び、つい「いいんですか」と声を漏らしてしまう。それを文鳥亭がにっこりと笑みを浮かべて頷いた。雪穂も気になるのか、不思議そうに声を出した。

「天城流って何ですか?聞いたことのない流派ですね?私もご一緒しても構いませんか?」

 すると文鳥亭はもの申し訳なさそうに雪穂に説いた。

「すみません、天城流は門外不出の一子相伝の技なんです。ですからいくら羽黒さんのお見合い相手だからと言って容易に見せるとかはできないんです」

「それは残念です。それだったら私は居間でくつろいでますから、ごゆっくりどうぞ」

 そう雪穂に言われると変に気を負わせることなく集中できるため、安心して羽黒は「分かった」と言い玄関を出て道場にと文鳥亭と共に向かうことにした。

 雪穂は羽黒と文鳥亭が道場に行くのを見届け、居間にと戻ることにした。

 居間には美琴が座布団に座りテレビを見ているようだ。すると美琴は雪穂が戻って来たことに気付いたのか何やら何かを言いたげにこちらを見つめてきたため、気になったため雪穂は美琴の隣に座布団を敷いて座って声をかけた。すると美琴は素っ気なく答えた。

「羽黒はどうした?何やら客人と共に外に出て行ったようじゃが」

「羽黒さんは文鳥亭さんと一緒に道場の方に行きました。なんでも天城流を羽黒さんに教えるって言ってました」

「そうか、刀の流派をか。それより雪穂殿よ、何やら余に聞きたいようじゃが言ってみろ。答えれる範囲は答えてやろう」

 美琴は雪穂のことを見透かしているかのような口ぶりであった。実際にも雪穂は美琴について気掛かりなことはあった。いつ話を切り出そうと思ってはいたがまさか美琴自身からこの話を切り出してくるとは思ってもいなかったため、雪穂は少し戸惑いながらも言葉を選びながら声に出して言った。

「美琴ちゃんと羽黒さんはどんな関係なんですか?羽黒さん自身は父の知り合いの子の御両親が亡くなって養子として引き取った子って聞いてるけど、違うよね」

 すると美琴は呆れたか、どこか堪忍したようにため息を吐いて言った。

「そうじゃな、雪穂殿に隠し事は無駄じゃから言おう。余は巫女じゃ、そして羽黒は余の守護者じゃ。一般人には聞きなれぬ言葉じゃろう」

 雪穂はただ頷いて美琴の言葉の続きを待った。決して何かを恐れているわけではないと言い聞かせて。それでも心配になる。ひょっとしたら羽黒のあの言葉がこれに繋がっているのではないかと思えてしまうのだから。もしもそれがそうであれば羽黒は無理を、我慢をしてでも頑張っているのではないかと思えてしまって仕方ないのだ。

「その様子では羽黒からは聞かされておらぬのだな。さて、余からも一つ質問をさせてもらおう。雪穂殿は何を隠しておるのだ?なにか悩み事を隠しているように余には見えるのじゃがな」

 そう言われると雪穂は不本意ながらもドキッとしてしまった。本当に美琴は何もかも見通しているような気がしてしまう。だが、所詮相手は子供だと思いながら、自分の身に言い聞かせながら心を落ち着かせ慎重に言葉を選び言った。

「そうかな、そもそもなんで美琴ちゃんにはそんな風に見えるの?」

 すると美琴は自信げに、雪穂にと指を差して言った。

「そうじゃな、巫女としての直感。又はなんて言ったのう、そうじゃ心理学じゃ。巫女じゃから神の声を聞くのは当たり前、ましては人の悩みを聞くのも当たり前じゃ。お主も吐いたらどうじゃ、何やら相当溜め込んでいるようじゃがのう。――さて、そうは言っても嫌なことを無理には聞かんよ。言いにくいのであれば言わなければいいし、隠してもよい」

 さっきまでの力の入った声から途端に力が抜けた声にとなった。気のせいかもしれないが今の雪穂にはどうしてもそう感じてしまう。

 雪穂は不思議とさっきまでの美琴に対して抱いていた警戒心、又は不安的な感情があったのが嘘のように弾け飛び、今ある感情はただの安心感だ。確かに美琴が自分自身、雪穂に対して疑問的な感情を抱くのは当たり前であるだろう。だから色々な質問をしてきた、しかしその質問一つ一つは深く、穿り回すようには聞いてこなかった。それどころか自分の心の奥で秘めている何かを見透かしたのである。雪穂は彼女になら話しても良いのではないかと思った。美琴が自分よりも年下、ましては子供だと言うことを理解したうえで雪穂は自分の心の奥にある何かを美琴に打ち明けることを決めた。

「美琴ちゃん、私昔にね、子供の頃に母を見捨てたの。母さんは父から暴力を受けて、必死に『助けて』って言ってたけど私は何もできなかった。それどころか私――」

 そう続きを言おうとした時だった。美琴は膝立ちで雪穂の下に近付き、優しく抱き、雪穂の頭を優しく撫でながら子守唄を聞かせるように小さく、優しい声で雪穂に言った。

「そうか、そうか。羽黒に知られたらと考えると怖いんだな。じゃが、大丈夫じゃ。羽黒はそんなことで嫌うはずがない、それどころか気にもしないだろう」

 雪穂は美琴の顔を見つめてただただ答えを待っていた、自分がただ安心できる答えを。美琴は雪穂を不安にさせてはならないと思ったのかはにかんだ笑みを浮かべて言った。

「羽黒は余のことを巫女ではなく一人の女子(おなご)として余を守ることを誓った。それどころか余の過去なぞ気にもしないどころか興味なさそうにしておるからのう。じゃからのう、今になってお主の過去を知ってどうとも思わんじゃろう。まあ、あ奴なら『あっそう』で終わらせそうじゃがのう」

 そう言うと美琴は抱いていた手を緩めてその場を立ち上がった。

「さて、羽黒が特訓をしている間に昼飯を作ってしまおう。雪穂殿よ、手伝ってくれるか?」

 雪穂はいつの間にか泣いていた涙を拭い、美琴を見て頷いて美琴と共にキッチンの方にと向かった。

 この時確かに雪穂は安心感があった。しかしなぜだろうか、そのはずなのに自分の心のどこかにもどかしさに近い、あるいはそれ以上の不快感があった。なぜだろうか、安心感の裏には嫉妬に似たような不快感がある。雪穂はそれはきっと気のせいだろうと思いながらもその気持ちが何なのかを分かっていてはいても必死に押し殺した。


  ■■■


 その頃羽黒と文鳥手はと言うと、羽黒は文鳥亭から一通りの天城流を教えてもらい終えていた。

 始めのうちこそは何がなんなのか分からず手こずりはしたが、筋がいいのか剣道を長年やっていたおかげもあり文鳥亭が知っている天城流の技は一通り見事我が物とすることができた。

「流石は羽黒さん、もう私からは教えることはありませんよ。後は応用をして自分の技を出せれば完璧ですよ」

「技の伝授ありがとうございます。それとなんですが、今更ながら技の伝授なのに私服で受けてよかったんですか?」

 羽黒は今更ながら自分の服と文鳥亭の服を着ている服を見ながら言った。すると文鳥亭はそんな疑問を吹き飛ばすように豪快に笑いながら言った。

「わははは、そんなことを気にしているのかい。大丈夫、大丈夫。ただ単に私がやりたくてやっているだけだからそんな本格的な物じゃないから。他に何か質問があれば私が答えられる範囲なら答えますが」

「そうですね、質問というよりは疑問に思ったんですが、文鳥亭って芸名とかペンネームみたいなものなんですか?本当の名前じゃないですよね」

「そうですね、文鳥亭って名は家督を正式に継いだ時に父から貰った名です。落語家の人とかが師匠から名前を貰うようなものですよ」

 家督を正式に継ぐなど最近では耳にしないが、どうやら文鳥亭という名はそれを表すようなものなのだろう。そうということは文鳥亭の家系はさぞや歴史のある家なのだろう。

「それはそうと、羽黒さん明日は金蓮祭ですよ。誰かと行く予定とかあるんですか」

 そう文鳥亭に言われると羽黒は明日が金蓮祭だと言うことを思い出した。あまりにも天城流の技を習得するために必死に文鳥亭の教えを受けていたためか、金蓮祭のことを忘れかけていた。

「そういえば明日でしたね。自分は美琴とその友達の保護者として真頼姉ちゃんと恵梨香と同伴します。もちろんあとで雪穂を誘おうと考えてるんですがね・・・」

「自分から誘うのが恥ずかしいと?」

「そんなところですね。何と言うかこういったことは初めてですから」

 頭をかきながら恥ずかしながら語ると、文鳥亭は羽黒の肩を軽く叩きながら言った。

「まぁ、頑張りたまえ。もしもの時は美琴ちゃんに助け舟を出してもらえば何とかなるだろう」

「助け舟って――なるほど、そういうことですか。まぁ、できるだけ自分で言い出した方がいいですよね」

 文鳥亭の思っていることが自分と同じ考えは分からないが、きっと美琴から雪穂に金蓮祭に行かないかと誘うということだろう。確かにそうすれば自分から言い出すことなく金蓮祭に一緒に行くことができる。だからと言って美琴からではなく自分が声を掛けた方が雪穂にとってはありがたいだろう。

「そうだろうね。雪穂ちゃんにとってはその方がありがたいだろう。さて、私はそろそろお暇するとするよ。ではまたどこかで」

「あ、最後に一ついいですか?なんで文鳥亭さんって僕のことをさん付けで呼んでるんですか、文鳥亭さんの方が年上ですよね」

すると文鳥亭は腕を組み、まるで言って良いのか悪いのかのような表情で考えながら羽黒に話し始めた。

「そうですね、烏丸家は天城流の弟弟子みたいな感じなんですよ。それなのか兄弟子である黒坂家の者にはさん付けをするようにと父から言われてるんです。具体的には父より前の代からって言ってましたから具体的な意味は分からないんですけどね。まあ、これは私の考えなんですが烏丸家は黒坂家に何らかの恩があるんだと思いますよ、とは言っても自分の見解なんですがね」

 それに対して羽黒はただ「はぁ」としか言えず、変える支度をし始めた文鳥亭を見つめることしかできなかった。そうして文鳥亭を見つめていると、気付いたころには文鳥亭は羽黒に手を振り道場を出て行ってしまった。

 烏丸家が天城流の弟弟子であることは分かった。しかし、だからといって年下である羽黒に対してもわざわざさん付けで呼ぶものであるだろうか。文鳥亭自身は黒坂家に何らかの恩があると言ったが、羽黒にはそれ以外の可能性があるのではないかと思えて仕方が無かった。しかし、他の可能性があるとは思えてもそれがどのような可能性であり、どのような理由かはまるで見当がつかないため根拠があるのかと問われれば返す言葉が無いだろう。だが、それでも羽黒は他の可能性があると思えてしまうのだ。

「考えていても仕方ないか、考え込みすぎると行き詰るってよく父さんに言われたからな。――っと、もうこんな時間か」

 羽黒は道場の壁についている時計を見てみるととっくに十二時を回っていた。昼食を雪穂たちだけには任せては悪いと思い、羽黒は駆け足で台所のある居間にと行くことにした。とは言っても帰りは行きと同じであり、玄関を通って居間に行くため、それほどまで時間は掛からなかった。

「お、羽黒よ。どうであった、特訓の成果は」

 居間に着いて羽黒の下にやって来て真っ先に話しかけてきたのは美琴であった。雪穂はどうやらお皿に乗った料理を運んでいるようだ。

「まずまずってとこだな。それよりも、美琴も手伝ってやれよ。雪穂に全部任せるのは駄目だろう、食器を並べるくらいはしろ」

 するとなぜだか雪穂が笑いながら羽黒の方を向いて話し始めた。

「美琴ちゃんがこれ作るのを手伝ってくれたんですよ。流石に火を使わせませんでしたが具材を切るところは全てやったんですよ」

「そうじゃぞ、凄いじゃろ羽黒。ちなみに今日の昼食はあの時お主に作ってもらった冷やし中華じゃ」

 冷やし中華といえば確かに美琴に出会い羽黒が真頼の家でも作っていた。あの時はベアリーヌと言う女博士に襲撃されて羽黒は冷やし中華を食い損ねた。ベアリーヌを撃退した後も、巫女からの加護によって痛みは和らいだものの念のために病院に行けとの真頼の助言で冷やし中華を食べれずじまいであった。

 医者からは大事はないと言われたものの、念のためにと湿布を渡された。その後美琴を向かいに真頼の家に行くと、そこには空のお皿があった。美琴いわく「麺が伸びてしまったら勿体なかった」とのことだった。確かに麺が伸びてしまえば勿体ないが、今考えれば、美琴はどうやら冷やし中華をというものを深く気に入ったようにも見えた。その証拠なのか今にも食べたそうに食卓の方にと羽黒の服を引っ張っていた。

「なぁ美琴、お前そんなに冷やし中華が気に入ったのか?」

「勿論じゃ、特にあの麺にかける汁の独特な味。醤油のようなものかと初めは思ったがどうやらごま油やら色んなものを使っているのじゃな」

「まあな。そう言えば美琴の食生活ってどんな感じだったんだ」

 羽黒は料理が並んでいるテーブルを囲む座布団に座り、美琴が座る様子を見ながら言った。

「確かに美琴ちゃんがここに来る前の食事が気になります、教えて下さいよ」

 すると美琴は咳払いをして言いだした。

「そうじゃな、基本的な食事は山菜じゃったな。特に牛や鳥を食べてはいけないとかは無かったのう」

「ふーん、そうなのか。まあ、とりあえず食べちゃおうぜ、麺が伸びちまったら不味くなっちゃうからな」

 そう羽黒が言うと「そうじゃな」と美琴は頷き、箸を動かし冷やし中華に食らいついた。一方雪穂は「いただきます」と手を合わせてから食べ始めた。羽黒もそれを真似するかのように手を合わせて食べ始めた。

 そして冷やし中華を食べ始めてから少しが経った時だった。羽黒は意を決したかのように、話を切り出した。

「話は変わるんだが雪穂、明日一緒に祭り、金蓮祭に行かないか?」

「お祭りですか?私も羽黒さんたちとご一緒しても良いんですか」

 どうやら美琴は金蓮祭のことを雪穂に喋っていたようだ。それに、羽黒に気を利かせたのか美琴は雪穂にあえて「一緒に行かないか」とは聞いていなかったようだ。その証拠なのか美琴は羽黒にウインクをしてきた。これには羽黒は「気の利いたことをしやがって」と思いながらも心の中で美琴に感謝をした。

「と言ってもあくまでメインは美琴たちの方なんだけどな。僕たちは美琴の友達たちの保護者ってわけだ」

 そう羽黒は美琴のことも忘れていないことを示すために、今回金蓮祭に行くこととなったきっかけでもある役割を言った。すると美琴がため息を吐いていった。

「真頼殿とその友達も一緒なのだから余のことはあまり気にしないでも良いのだからな雪穂殿」

 羽黒は美琴が何を言いたいのかを理解してつい「あっ」と言う声を出してしまった。雪穂も美琴が何を言いたいのかを理解して顔を赤くして別の話題に逸らそうと思ったのか「そ、そんな事より食べましょう」と言い箸を動かした。羽黒も同時に「そうだな」と言い箸を動かした。そんな二人のやり取りを見て美琴はニヤニヤと二人を見ながら冷やし中華を食べた。

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