表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/64

第七話 校長室にて

 講堂前にてガウェインらに連れられ、講堂の隣にある校舎に入り数分。

 とある扉の前まで来た。

 扉の上あたりを見ると何やら文字っぽいのが書かれているが、多分ここが校長室だろうか。


「ここでしばらく待っていてくれ」


 ガウェインはそういうとノックして入っていく。

 ふぅ。

 やばいな、緊張する。あの校長見るからに強面だから何言われるか恐々だ。

 ちらりとフランを見ると、ふと目が合う。

 苦そうな顔だな。


「えへへ」

「なんだよ」

「緊張するね」


 余裕があるわけじゃないか。

 前で手を合せるその仕草はもはや小動物だな。


「だよな、遅刻した上に居眠りだもんな、鉄拳だけで終わるかどうか」

「あわわわわ……」

「じ、冗談だよ……」


 少しずつ青ざめていくフランに苦笑しながら返すが、正直俺も冗談だと思いたい。


「入りたまえ」

「いいっ!?」

「ひゃいっ!?」


 いきなり聞こえたこのイヤホンボイスは……。

 耳に直接ぶち込んでくる声に俺とフランはびっくりする。

 これ急に聞こえるとマジでびびるから、心臓止まるかと思ったぞ。


「びっ……びっくりしたぁ……」

「心臓に悪いにもほどがある……」


 そういいながら姿勢を正して扉の前に来る。

 入れと言われたら入るしかないだろ。こういう緊張なんて手前の時だけで、始まったら意外と何とかなる。

 当たって砕けろ、あとは何とかなれ。


「いくぞ」

「う、うん」


 一応フランに声をかけておく。

 決心した顔をしているがいったい俺たちはどこの戦場に行こうってんだ。

 コンコン。


「失礼します」

「しつれいしまぁす……」


 ノックと断りを入れてゆっくりと扉を開ける。

 おいこら俺の後ろに隠れるんじゃない、あの元気はどうしたよ。

 中に入る俺の後ろに隠れるようにぴったりとくっついて一緒に入るフラン。

 ちょっとビビりすぎだろ、煽りすぎたか?

 中に入ると真っ先に目に入ってきたのは、膝丈くらいの長方形のテーブルの向こう、年季の入った木製のデスクと椅子。その椅子に座る一人の老人。


「待っていたよ、赤穂龍真君、フランシスカ・マートニー君」


 白髪交じりの銀髪をオールバックにして、威厳いうものを感じる顔つきをした老人。

 名はアドルフ・オードラン。

 騎士学校の校長だ。

 そしてテーブルを挟むように二つずつ置いてある椅子の、こっちから見て左側に腰かけているのは、俺たちを連れてきてくれたガウェインに、ガラハッド。

 ガウェインはともかくガラハッドまでいるとは思わなかった。

 命の恩人との久しぶりの再会に胸が熱くなる。

 そして机を挟んで反対側にはもう一人、こっちは初めて会うひとだ。

 メガネをかけていて、この中じゃ比較的若いほうだ。


「久しぶりだな、龍真君」

「お久しぶりですガラハッドさん」

「前とは見違えるほど元気になったな、来てくれてうれしいよ」


 この人は社交辞令抜きで、本気でそう思ってくれている節があるから少し恥ずかしい。


「まあまずは掛けたまえ、立って話すのもつかれるだろう」

「あ、失礼します」

「失礼します」


 フランがそそくさと右側の空いている席に座る。

 仕方ないので真ん中の席に座った。

 こいつ、ここに座るのが嫌でさっさと座りやがったな。正面に校長がいるからこう……威圧感というかそういうのがすごい、自然と背筋がピンとなる。

 下手に姿勢崩そうもんなら寺の座禅みたいにピシャンとぶっ叩かれそう。

 そして俺たちが座るの見て校長が切り出す。


「さて、まずは彼を紹介しておこう」


 そうして顔を向けるのは右側に座る初見の人だ。

 見た目は二十台半ばだろうか、若く見える。

 右目にかけるモノクルを直しながらこちらを向いて会釈する。


「初めまして、シルヴェストル・サルヴェールと申します、この騎士学校で魔導学を教えています」


 この人、シルヴェストルさん? この学校の先生なのか。

 ていうか魔導学! 魔法だよな! きたよ魔法!

 でも俺使えないけど。魔法使えないけど……。

 魔導学ときいて興奮しかかったけど、俺の今の状況にそんなもんは関係ない。

 単位とかはそのあたりは大丈夫なんだろうか、あとで聞いておこう。


「では赤穂君、まずは君が遅刻した理由を聞こうか」


 ゆったりとした声で本題が出てくる。

 心臓がバクバクするよ。


「ああ、それはですね……その、間違えて廃校になる第二騎士学校の方に行っちゃって……」

「ふむ……」


 校長はそれを聞くと何か思い当たる節があるのかガラハッドに視線を移す。

 そのガラハッドはなぜかあさって方向を向いたままだ。

 ガウェインは頭に手を当てていた。

 どういうことですか?


「学校の統合についての知らせは、遅くとも式の十日前には行き渡るよう全入学生に出したはずだが……」

「……………………」


 ガラハッドが頑なに沈黙を崩さない。

 額から冷や汗出てますけど。


「ガラハッド」

「――!? いやっ、そのっ……」


 校長に気圧されたのか取り繕うガラハッド。

 まさか……。


「そのですね……えー、ちょっと彼の立場が特殊な状態でして、知らせについては私が直接渡そうと思ったんですけど、任務がいろいろ重なりまして………………すいません忘れていました!」


 諦めたのか勢いよく頭を下げた。

 えーー…………忘れてたって、そりゃないよガラハッドさん。

 ガウェインからとうとうため息がこぼれた。


「任務か、騎士団の最高指揮官が、単独で各地を回るような任務があるとは思えんな」

「そ、それは……いろいろ事情がありまして……」


 ガラハッドの顔色がやばい。

 ていうかこの校長今最高指揮官って言った?


「え? その最高指揮官て、もしかしてガラハッドさん?」

「ああそうだ、エイムリス十国同盟の剣にして盾、聖王騎士団の団長、それがガラハッドだ」


 俺の質問にガウェインが呆れ気味答えてくれた。

 なるほど、ガウェインが副団長ってことはガラハッドの補佐をしているってことか、その団長がこの調子じゃそりゃため息もでてくるよね。

 何だフランその顔は。

 実はトップであることへの驚きとこんな場面見たくなかったというような苦い顔の複雑な表情をしている。

 事情を知らない俺たちからすれば大人に怒られるダメな大人だよな。


「はぁ……龍真君、どうやら君が遅刻した理由にはこちらの不手際があったようだ、この件謹んで謝罪しよう、すまなかった」

「え!? いや、も、もういいですよ! その、ガラハッドさんにも何か事情があったようですし!」


 学校の最高責任者から頭を下げられて慌てふためいてしまう。

 こんな状況は初めてだからどうしたらいいのか。

 とりあえず頭を上げてもらい話しを進める。


「それにもともと俺の状況が特殊だっていうのは分かってますし、まあ忘れられてたとはいえ何か事情があるようですから、もう気にしないことにします」

「す、すまん……」


 ガラハッドも謝ってくれてるしもういいでしょ。

 こんなこと気にし続けてもしょうがない。


「さて、次にマートニー君、君の訳を聞こう」

「うぉぅ……」


 何だその声は。

 複雑な表情が一気に固くなるが、場の空気に慣れてきたのか入ってきた時よりも柔らかい気がする。


「えっとですね、私竜騎兵になりたくてゴルトブルク国領のアスハムから来たんですけど……」

「ほう、アスハム」


 竜騎兵という言葉が気になる。なりたくてってことは職か何かだろうか。

 ところで。


「ガウェインさん、ゴルト何たらとアスハムってどこら辺なんですか?」


 なんとなく小声で質問する。


「ゴルトブルク国領は、ここから南に位置する旧ゴルトブルク王国の領土だ、同盟統合後はそのまま同盟の国領としてゴルトブルク王が治めている、アスハムはその中の町の1つで、騎竜の飼育を主な生業とする人が多い、ここからなら南下して4日といったところか」


 教えてくれてうれしいけどなんかいろいろ新情報が出てきた気がする。

 整理追いつくかな。


「4日ですか、ずいぶん遠いですね、王都までの移動は大丈夫だったのですか?」


 シルヴェストルが心配そうに聞くがフランはそんなことはなさそうに言う。


「大丈夫ですよ、私のハヌー、乗ってきた竜なら2日程ですから」

「え!? 2日!?」


 4日はかかるって言ってたのに半分の2日ってどういうチートだと。


「ハヌーはラシーティ種だから足が速いんです」


 またわからん言葉がでてきた。種ってことは種類か、ハヌーが名前でドラゴンで……あぁぁ……。


「ラシーティ、飛竜の一種で、その飛行速度は同じ飛竜種の中でも五指に入ると言われている」

「しかもラシーティは非常に臆病で警戒心が強いと聞いていますが」


 ガウェインとシルヴェストルがラシーティについて補足してくれる。助かった。


「はい、でもハヌーは私と一緒の時期に生まれて小さい時から、それこそ赤ん坊の時からずっと家族や私と一緒にいたので、人には結構慣れてる方なんです……けど」


 堅かった表情がやっと柔らかい笑みに変わる。

 その頭の中にあるのはそのハヌーとの思い出だろうか。


「王都に来て、アスハムとは人の規模が違うから、いつもよりもっとたくさんの人にあてられてびっくりしちゃったみたいで」


 話し始めて調子が戻ってきたのか、えへへと笑うが彼女の顔は少し苦笑気味だ。


「驚くと中々落ち着いてくれなくて、宥めるのに時間がかかってしまいまして」

「ふむ、それで遅れたということだな」


 じっと話を聞いていた校長が口を開く。

 そしてフランがまたピシッと堅くなった。この校長が苦手なのだろうか、まあこのイヤホンボイスは聞きなれないだろうけど。


「まあ、初日ということもあり今回は大目に見よう、しかし、その竜をパートナーとして竜騎兵になるというのであれば、さらなる人慣れも必要。 竜の躾も欠かさんようにな」

「は、はい!」


 フランの返事に校長が一息つくと、場の空気がふわっと軽くなったような気がする。

 これでやっと終わりかな。


「さて、話しここまでだマートニー君、君はもう帰りなさい、長旅でつかれたろう、明日は早い、ゆっくり休むといい」

「はい、ありがとうございます」


 あれ? 俺は?


「龍真君、君にはまだ話がある、すまないがもう少し付き合ってくれ」

「りょ、了解です……」


 マジかー……。

 なんか一人だけ居残り補習を受けさせられるような気分。

 フランが気まずそうに退席する。


「えーと、そ、それじゃあねリューマ、また明日……失礼しましたー」


 そそくさと退室し扉の閉まる音が鳴る。

 そして校長が一度軽く咳をすると場の空気が再びガラッと変わる。


「では龍真君、君との話はここから本題だ。 君のことは、すでにガラハッドから聞いている」


 やっぱり、そういう話でしたか。

 どのみち自身の事は騎士団長のガラハッドに話しているのだ。

 騎士学校入学について色々手を回すために俺のことを話していてもおかしくはない。

 必要なら正直に話すつもりではいたし。


「君は、異世界から来たそうだね」

「はい」


 そう返事をすると校長の目の色が変わる。

 何というかこちらを見ているようで見ていない。

 俺を見ているというよりも、俺を通して俺じゃない何かを見ているような、息の詰まりそうな目だ。


「ふむ、確かに、見えんな」


 そう言ってその視線に穏やかさが戻ると、俺は深呼吸をした。

 不思議な目だった、何を見ていたんだろう。


「加護が見えぬ。 加護の概念についての解釈は多々あるが、そのどれにも当たらないということは、異世界に生まれ異世界より来たというガウェインの説明にも、納得できるものがある。

 私も長く生きたが、このような人間に出会うのは初めてだ。」


 すごく大仰な話な気がしている。

 たしかに来たばかりのころは、自分に魔法を使うための源である加護がないと聞いて落胆はした。

 だけどだからといって騎士になれないということではないだろう。

 暮らしているうちに考えを整理して開き直ったといっていい。

 無いなら無いで、無いなりのやり方があるはずだと。


「異世界、にわかには信じられない話ですが、校長もそうおっしゃるなら……」


 シルヴェストルは難しい顔をしている。

 そりゃあ異世界から来たなんて言われてみ? どう思うかなんてわかりきってる。

 ガウェインとガラハッドも自分もそうだったというようにうなずいた。

 少し静かになって校長がまた口を開く。


「龍真君、君は魔法の恩恵受けることができないという、騎士になるうえで非常に厳しい立ち位置にいる」

「……はい」

「だが、自らもそれを知っているはずだ」

「はい」


 あの事件で自分に魔法が効かないことを知っている。さすがに回復魔法が効かないっていうのはものすごいハンデだろう。


「だけど、だからって諦められません」

「ふむ、知っていてなお騎士を目指す、その理由は問わん。 何か目的あってのことだろう、私が詮索することではない」


 家族を探す、そのための力を得る。そのために来た、でも……


「ただ、何かあった時は私たちを頼りたまえ、君に加護の恩恵がないならば、代わりに私たちが君を守ろう」

「何かあったら私たちを頼ってくれ、そのための大人だ」

「あ、ありがとうございます」


 校長の言葉に続いてガラハッドが胸を張って言ってくれる。


「まあ本当に頼りになるかどうかは別の話だがな」

「そ、そんなことはないぞ?」

「ガウェインの言うことももっともだ」

「先生まで……ひどいなぁ」


 ガウェインが茶化して校長が追い打ちをかけたため張った胸がどんどんしぼんでく。

 だけどそんなやり取りがここの空気を和らげた気がする。

 ほかの皆の表情ももう硬くない。


「あの、みんなは何で……」

「まあ、今回はそれが言いたかっただけだ、目的があるならば迷うことなく進みたまえ。

 なお、彼と異世界の事については他言無用に願おう、無用な混乱は避けるべきだ、言っても信じられんとは思うがな」


 こっちの言葉は話し始めた校長の言葉に遮られた。

 なぜそこまでしてくれるのか、気になったことではあったけど。


「よいな、そこな二人も」


 ん? 二人?

 校長が俺の後ろを見ている。少なくともガラハッド達のことではないようだけど……。

 俺が誰の事だと思い後ろを見るが、あるのは入ってきた扉だけで誰も居ない。

 しばらくするとゆっくりとその扉が開いた。


「す、みませ~ん……」

「あ、お前……」


 入ってきたのはフランだ。帰ったんじゃなかったのか?


「すみません、盗み聞きするつもりはなかったんですけど……気になってしまって」


 もう一人入ってきたのはハワードだ。


「ハワードまで、何でここに?」

「あのまま帰ろうと思ったんだけど、寮の場所知らなくて、聞こうと思って待ってたんだよね、そしたらハワードが来て」


 ハワードもフランもばつが悪そうに入ってきた。

 どうしよう。

 ガラハッドを見ると結構困っていた。だめだ、頼りにできそうにない。


「講堂で別れた後、なんとなく気になっちゃって」

「ハワードと一緒になって待ってたら、中から面白そうな話題が聞こえてきてね、それでつい……」


 面白うそうって。


「……聞いたから何か罰があるわけでもない、他言せねばそれでよい」


 ガラハッドと違い終始落ち着いている校長は淡々とそういった。


「龍真君、あとは君たちが決めることだ」

「はい」


 聞いていた以上話しておくべきだろうと、校長はそういう言っているのだ。

 ガウェインもこちらを見てうなずいた。ガウェインは頼りになりそうだ。


「さて、話しはここまでにしよう、私も今日は式にこれにと話しすぎた、君たちも早く寮に戻り休みたまえ」


 するとガラハッドが立ち上がる。


「では道案内もかねて、私が寮まで送ろう」


 まるで名誉挽回というように立ち上がるも、校長が立てかけていた細い杖を目にもとまらぬ速さでひと叩きする。


「バカもん、お前さんは少し残れ、ガウェイン、送ってやるといい」

「了解です」


 そういうわけでガウェインらとともに部屋を出ようとすると、俺は校長に呼び止められる。


「最後に聞きたいのだが、おぬしの目に騎士の姿はどう見えた?」

「騎士の姿……」


 その質問に少し迷うも、答えはすんなり出てきた。

 あの時感じた恐怖、喉を締め付けてくるような殺気、それらをまとめて吹き飛ばしてくれたのは……。


「希望、ですかね」

「ふ……希望か、されは何よりだ、なぁガラハッド」

「ははは、まいったな」


 ガラハッドが少し恥ずかしそうに頬を掻く。


「でも、剣を投げて手ぶらになった時はさすがにやばいと思いましたけどね、それでも多人数相手に勝てるんだからすごいですよ」


 ここまで言うと、ガラハッドの顔ががっちりとこわばった。

 ガウェインも目に手を当ててまるでアチャーといわんばかりだ。

 俺、何かまずいことでも言ったかな。


「そうか、分かった、シルヴェストル、すまないが席を外してくれ」

「は、はい」


 そういわれてそそくさと席を立ち退室したシルヴェストル。

 それにつつきガウェインも俺たちを誘導する。


「さ、行くぞみんな」


 そういってみんなが出た後、静かに扉を閉めて後にする。

 そして……。


『だから剣を投げるなとあれほど言ったろうが!!!!』

「ういいっ!?」

「うわっ、なに!?」

「びっくりした……」


 俺達はいきなりの怒声にビビった。何だ今の。


「アドルフ校長は俺とガラハッドの剣の師でもあるんだ」

「ああ……」


 だから頭が上がらない感じだったのね。

 こうしてガウェインの溜息を残して俺たちは寮へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ