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第六話 ハワードとフランシスカ

「あ、あの……」


 微かに声が聞こえる。頭がボーっとしてよく分からない。


「……き、……ったよ……」


 ゆらゆら揺れる。なんだよ……。


「赤穂龍真君、起きて」


 おおう、やめろーあと五分……あ?


「入学式終わったよ!」


 少し強めに肩が揺さぶられ、そこではっきりと目が覚めた。


「おおうっ!?」

「あ、起きた?」


 意識がはっきりすると右にから肩を揺さぶっていた生徒が肩から手を離した。

 まだあどけなさを残す童顔、目元まで伸びた長い前髪から栗色の瞳が覗き込んでいた。

 俺が座る場所の隣に立っていたあの生徒だ。


「あ、ああ、ごめん、寝てた?」

「うん、半分目が開いた状態だったよ、大丈夫?」


 やけに目がしぱしぱするのはそのせいか。

 苦笑しながら話しかけてくるその顔は一見したら女の子に間違えそうだ。


「大丈夫大丈夫、こういう長い話しは眠くなるんだよな……」


 経験あるやつは多いはずだ。こういう式典とかで校長とか社長とか、なんかの偉い人が話し出すとどんどん眠くなってくるのは。


「気持ちはわかるけどね」

「だろ?」


 分かるやつがいてうれしいよ。

 周りを見るとすでにぞろぞろとここを出ていこうとする生徒たちや、ごった返す出口が空くまで新しくできた友人たちと話す生徒、俺と同じように睡魔に撃沈された生徒などなど。


「俺らも帰るか、このあとってまだなんかあったっけ……ああ……あ」


 そういや自己紹介まだだったな。


「僕はハワード・ダリルソン、ハワードでいいよ、よろしく」

「ああよろしくハワード、俺は赤穂龍真、俺も龍真でいいよ、悪かったな変に目立たせちまって」

「ハハハ、気にしなくていいよ、アカホ・リューマ、このあたりじゃ聞かない名前だね」


 ハワードの名前からしてここら辺は英語圏みたいな感じだからかな。ファースト、ファミリー、の順番だろう。

 日本は逆だ。


「まあ、ここらへんじゃ聞かないだろうな」

「それじゃあリューマは同盟外から来たんだ」

「同盟外? ああ外国って事か」


 エイムリス十国同盟って名前だったな。たしか大昔に十個くらいの小さい国が集まってできたんだってな。名前はまだ統合以前、同盟時代の名残だそうだ。

 この同盟の外、十国以外の国が外国ということになる。


「リューマはどこから来たの? 僕はアスリオン国領のガルテア」

「アス……? ガルテア?」


 分からん。言葉は分かるんだが字が分からんせいで知ってることが中途半端なんだよ。

 こっち来ていろいろあった後、この世界のこと知っといた方が良いだろうと思って何か歴史系の本を読もうとしたら、訳の分からない文字がずらずら並んでるからやべぇと思った。

 言葉は分かっても字は分からんのかい!?

 だから世界を知る前に字を勉強する羽目になり知ってることは穴だらけなのだ。むしろ穴しかないような気もする。

 その知ってる字も単語レベルだしな。何でこっちに来てまで英語じみたことしなきゃならないんだ。

 赤点ラインギリギリを低空飛行で上下運動してるレベルなのに。


「ああ……俺はその……東の方だよ、ずっとの向こうの」


 こういう時の常套手段だと思う。まさか異世界と言うわけにいくまい。

 あの時は異常事態だったし。


「東……列島国圏あたりかな」


 なんかあるのかよ。適当言ったのに。


「まあそんなところ、それより俺らも出ようぜ、そろそろ空いてきたし」


 ぼろが出る前に話題を変えよう。

 出口の方を見るとごった返していた人混みはすでに解け始め、出ようとする生徒たちの列が形成され始めていた。


「そうだね、行こうか」

「ああ、あ、そうだ、この後なんかあったっけ?」


 そういや最初に聞こうとしてたことだ。忘れてた。


「ううん、この後は何も。 今日は式だけで後は明日やるんだよ、皆はもう家や寮に帰るんじゃないかな?」

「そうか、じゃあ帰るか……ん?」


 そういうことで今日から俺が住むことになるであろう寮に行こうとして立ち上がると、二つ右隣りでいまだに眠りこけてるやつがいた。

 たしかフランシスカとか言ってな。


「こいつまだ寝てやがる」


 ただでさえ遅刻したっていうのに、ここで寝るのはだめだと頑張って睡魔と奮闘していたんだぞ。

 なのにこいつはポカーンと口を開けて寝息立てやがって。

 まあ俺もあえなく撃沈したんですけど。

 ほっとこうとも思ったがなんとなく起こしにかかる。


「おい、起きろ」


 軽く肩を揺さぶる。

 が、起きない。


「おーい起きろって」


 もう少し強く揺さぶる。

 しかし、起きない。


「すごく熟睡してるね」

「やっぱほっとくか」

「え、ほっとくの?」

「こんだけして起きないんだ、もう寝かしとけ、どうせこの後用事はないんだし」


 少なくとも俺らにはない。

 だからもう知らん。おらぁ帰る。

 で、ほっといて帰ろうとすると後ろから声をかけられる。


「赤穂龍真」

「ういっ!?」


 このイヤホンで聞いたような鮮明なシワ声は……。


「たしか、校長……だっけ?」

「寝ていた割には覚えているようだな」


 おうバレてーら。

 講堂の右隅辺りにいる俺たちの反対側からあの老人が声をかけてきていた。

 たしか…………………………そうだ、アドルフ・オードラン校長……だっけ?


「初めにも言ったが遅刻について聞こうではないか、そこのマートニー君と共に後で校長室に来たまえ」

「は……はい」


 こっちの声が聞こえていたかどうか知らないが、それを聞いて校長は講堂から退出していった。

 それ見届けると、聞こえてたのか退出しようとする生徒数名がちらちらとこっちを見ていた。

 これ以上の目立つのは勘弁願いたい。

 そういうわけで再びこいつを起こすことにする。


「結局起こさにゃならんのか」

「マートニーさん、起きてください!」

「おい、こら、そろそろ起きろ! 呼び出しだぞ!」


 ペチペチペチペチ。

 軽くほっぺたも叩く。


「んん~……」


 鬱陶しいのか払いのけやがった。

 これで起きないのって逆にすごい。何がそこまで彼女を爆睡させるのか。

 そのままペチペチ叩いていると、んあー……と急に大口を開けて…………バクン。


「あ……」

「いいっ――!?」

「んむぅ……ムグムグ……」


 うわぁ……生温けぇ……舌が蠢いてる。


「だ、大丈夫?」

「大丈夫だ、多分、そい!」

「じゅぽ……んええ?」


 なんで指を引きぬいたら起きるんだよ。

 結果オーライだけど。


「なんか、しょっぱい……」

「そりゃあそうだろうよ」


 ここに来る前に死に物狂いで全力疾走したからな。

 そらもう全身汗だらけよ。

 まだ寝ぼけてる隙にこっそりこいつのスカートで拭いとこう。


「んあ、あ、おはよう」

「おはよう、もう入学式終わったよ」

「ええ……あ、ほんとだ……ふああぁぁまだ眠いかも」


 ハワードが声をかけるが、彼女の声はまだ気だるげな眠気をまとっていた。

 あれだけ寝といてよく言う。

 俺の横で元気にフランシスカと名乗っていた少女は背伸びをしながら大きく欠伸をする。


「はああぁぁぁ……こういうのってすごく眠くなるんだよねぇ」

「気持ちは分かるがな」


 人のこと言えないし。

 だがさすがにここまで寝落ちるのはどうよ?

 そこでフランシスカがふと思い出したかのようにこっちの顔を見てくる。


「そういえばどなた?」

「ああ僕はハワード・ダリルソン、よろしく」

「俺は赤穂龍真、お前と同じ遅刻した阿呆だ」

「私フランシスカ・マートニー、よろしくね!……ん? あほ?」


 声でけえ。

 いきなりの大声に周りの連中がまたこっちを見てる。

 おいやめろよ、こういうのは苦手なんだ。

 恥ずかしさで精神力がガリガリ削れていくのでさっさと移動することにしよう。


「それよりさっさと出るぞ、俺とマートニーに校長直々にお呼び出しだ」

「あ、私のことはフランでいいよ、皆はそう呼んでるから」

「オーケーフラン、じゃあ行くぞ」

「あれ?」


 何かに疑問をもったのか急に首をかしげるフラン。


「ていうか何で私呼び出されてるの?」

「心当たりが無いわけじゃないだろ?」

「へ?」


 こいつマジでわかってないな。


「多分遅刻したからじゃないかな?」


 ハワードがそっと教えてやった。

 フランは納得したのかなるほどという表情だ。


「あ~……じゃあ仕方ないね」

「ああ仕方ないな」


 そういうことでぞろぞろと長ったらしかったけど半分程に短くなった行列に3人で加わることになった。

 そうして数分後、ようやく外に出ることができた。以外に進みが悪い。


「ふぅ、ようやく出れたね、ん~~」


 ため息をこぼすハワードが背伸びをする。

 2、3分で出れるかと思いきや3倍以上時間がかかりやがった。

 ため息が出る気持ちもわかる。


「やけに遅いわけだ、外でたむろってんのばっかじゃねえか」

「うわぁすごい、人しかいない」


 フランになんちゅう感想だとつっこみたいが、外を出れば辺り一面人、人、人。

 中にいた生徒たちの半数近くが講堂前でたむろしていた。

 そりゃ講堂前は広場っぽい感じになってるとはいえ今は勘弁してくれ。


「ところでハワード、校長に呼び出しくらった俺らはどう行けばいいんだ?」

「え? あ、そういえば場所わかんないや」

「バックレる訳にもいかんし、だれか先生っぽい人にでも聞くか」

「んお?」


 校長室に行くことを決めたけど場所がわかないので知ってそうな教員っぽい人を探そうとしたら、急にフランが何かを見つけたのか変な声を上げる。


「どうしたフラン、素っ頓狂な声して」

「なんかあっちが騒がしいよ?」


 フランが目の前の人混みの向こうを指さす。

 その先には黄色い声を上げる女子生徒たちが集まっていた。


「右も左も騒がしいけどな、なんなんだ?」

「誰か来てるのかな?」


 その人混みの中を数人が掻き分けてくるのをハワードが確認する。

 どうやら女子生徒らはその人たちに声を飛ばしてるようだった。

 そのさまはまるで人気アイドルに詰め寄るファンのようだ。


「誰だろう?」

「さあ……ん?」


 あれ? あの人は……。

 後ろに二人の部下を連れて掻き分けてくる、といより勝手に道を開けてくれる人混みの中を颯爽と進んでくるのは、見るからに爽やか好青年というイケメンだ。

 ようだ、とは言ったがまさにアイドルとファンだな。

 その中心人物がこっち見て爽やか笑顔と共に手を上げる。その仕草だけでまたきゃーと黄色い歓声が上がって、連鎖して俺の周りの女子連中もきゃーとうるさい。

 ていうかガウェインさん何してんです。


「きゃー! ガウェイン様ー!」

「ガウェイン様がこちらに手を振って下さったわ!」


 うわーお。


「ガウェイン卿!? どうしてここに」

「ハワード知ってんの?」

「知ってるも何も、同盟の聖王騎士団の副団長だよ」

「ふぇ~すっごーい」


 どうやらフランは知らないようだ。

 俺も知らなかった。そんなにお偉いさんだったとは。


「龍真君」


 そのガウェインがこっちに来た。しかも名指しで。

 入学式の初めで名乗ったから俺の名前を憶えているのが多かったのか、ガウェイン様パワーもあって一気に注目が集まる。

 これ以上の悪目立ちはご遠慮したいんだがなぁ。


「探したよ、ここにいたんだね」

「ガウェインさん、お久ぶりです」


 ガウェインと会うのは大体四ヵ月ぶりだ。

 入学書類の返送からしばらくしてガラハッドと共にアルセムに何度か来て、入学についての大まかな話しをして以来だ。

 その数回しか会っていないがなかなかフランクな人だ。


「聞いたぞ龍真君、いきなり遅刻したんだって?」

「いやあ……それは……」

「まあそれについては後で話そう、校長室に案内する、場所を知らないだろう?」

「はいお願いします」


 ちょうどよかった、誰かに聞く手間が省けた。


「君はフランシスカ・マートニーだね、ガウェイン・ボースマンだ、よろしく」

「あ、はい、よ、よろしくお願いします」


 フランが緊張しながら挨拶を返す。

 さすがに副団長相手にはフランも真面目にならざるを得ないようだ。


「ていうかガウェインさん、騎士団の副団長だったんですね」

「ん? 言ってなかったか? まあそんなに大したことじゃない、要するに団長の雑務の手伝いみたいなものだからな」

「いやいやいや、めちゃくちゃ大した事あるじゃないですか」

「しかもその団長があれだから気苦労が絶えんよ」


 軽く世間話っぽいことをしていると、周りの人がポカーンとして静まり返る。

 どうした?


「なんで遅刻したあいつがガウェイン卿と親交があるんだ?」

「あいつガウェイン様の何なの?」


 なんか不穏な言葉聞いたがスルーだスルー。

 ここにいると変に敵を作りそうだからさっさと移動しよう。

 空気を呼んでくれたのかそれをガウェインから切り出してくれた。


「さ、オードラン校長がお待ちだ、さっそく向かおう」

「はい」


 踵を返すガウェインら三人の騎士に続く俺とフラン。


「悪いハワード、また明日な」

「あ、うん、また明日」


 そういうわけであっけにとられるハワードと生徒たちを尻目に校長室に向かったのだった。

 さ、覚悟して折檻を受け入れよう。


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